第2話 勇者汚い。さすが汚い。

 ゴブリン。

 某終末的なゲームに出てきたりする雑魚の代表。

 雑魚なおかげで経験値も少ないが、初心者でも戦える代名詞。

 ギルドで聞いた話では非常に繁殖力が高く、人間の女性を見れば襲いかかり、捕まえて孕ませてゴブリンを繁殖させるいう非常に危ない種だという事。

 生まれるのは雄でゴブリンという種だけがうまれるらしい。

 だからこそ、ハーフなんてものはいないし、女も生まれるわけがない。


 ちょっとこれって、どういうことよ。

 私こんなこと聞いていないわ。


 動揺して、コタロウは女言葉を頭の中で呟いてしまった。


「嘘だろ」


 変わりに出たのは普通な言葉と、ハーフゴブリンの少女を引き剥がすことだった。


「何を、するんですか」


「お前、ゴブリンとか。ちょっとありえない」


「どうして、そんなことを言うんですか。こんな美少女を見ていきなりそこにいるような汚くて臭そうなアレな感じをする雑魚の代名詞のようなモンスターと一緒にするんですかそれはありえないでしょう。というよりも私のような花の匂いが香るような銀髪純粋無垢を体現した女神のような外見をした超絶美少女を見て失礼ではないでしょうか。ええありえないです私がゴブリンだなんてことを言われるなんて屈辱――くっ、殺せ」


「どういえばいいのだろうか。色々と突っ込みたくなるのだが、じゃなくてだな! お前ゴブリンの癖に他のゴブリンに追いかけられて、どういうことだ」

「だから、私はそんなゴブリンとかいうクソ雑魚ではありませんから。そう、こんな、ヤツと」


 生き残っていたゴブリンに蹴りを入れるハーフゴブリンの少女。しかも結構容赦ない感じで、どこかなれているような感じだ。


「ゴブッ。ゴブッゴブッ」


 痛みで気付いたゴブリンが何事かを呻きながら言い始める。

 

「ゴブゴブゴブッ! ゴブゴブゴブッ」


 それに答えるハーフゴブリンの少女。それは結構流暢でなれていると思えるだろう。

 ゴブリンと関係があるのはしかもこの感じゴブリンと繋がっていると思われる。

 しかし、ここまで露骨に蹴りを入れるわ、どう考えてもハーフゴブリンの少女の方が明らかに強くて首領っぽい茶番を見せ付けられると毒気を抜かれてしまいそうになる。


「あ、いえこれはそのですね」

「何だそのな、頑張れ」

「あああもう、これって何か同情されていない?」

 その通り。コタロウのような初心者勇者に解ってしまうようなやり取りを繰り返してしまうだなんて間抜けでしかない。


「というか、なんでわかったわけなの!」

「俺、勇者。できる男」

 歯を出してイケメン顔で答えてみる。


「ハッ、どうせ私たちのステータスがわかるようなスキルでも持っているんでしょ。この冴えないパッとしない3枚目が」

 その答え、およそ1秒。


「酷い」

「酷いも何もって真実を答えて何が悪いの? きちんと答えるのは当然の話だと騎士であったお母様もおっしゃってたわ!」


 一度そのお母さんに説教をコタロウはしたくなった。

 人間には配慮というものが必要だ。

 それが真実だとしてもオブラートにくるんだり、真実は真実として伝えてしまうことがある意味で罪だという事を教えてほしかった。


 確かにコタロウはパッとしない。

 どちらかというと背景だ。どこにでもいて、ヒーローにはなれない。

 公務員になりたいだとか、楽したいと入ってはいるし認める必要はあるかもしれない。けれどもイタタタな趣味に走った事だってあるわけで正義の味方にあこがれたこともあった。ダークヒーローにもなりたいと思うこともあって、家の片隅には青春の設定ノートがあるわけで――うん、異世界から帰りたくなってきた。あのノートを燃やさないと大変なことになってしまう。


「何よ。何か文句あるなら言いなさいよ」

「帰る。俺帰って、青春の傷跡を葬る必要があるから」


 今のコタロウにはゴブリンがどうとかどうでもいいのだ。まずは帰る手段を考える必要がある。

 まずは自分を召喚した主を探し、捕獲。帰る方法を考えなくてはならない。


「わけのわからない事を言っているの? あなた病気?」

「病気言うな! 俺は普通なんだ。中二病からは脱却している。もう、俺は高校デビューをして、過去を捨て去ったのだ。だから、病気ではないっ!」


 そうだ。過去の所業はは捨て去るべき過去であり、病気ではない。病気であったとしても今は完治しているのだから問題はない。

 今の自分は普通の人。平凡な人。今は異世界に行くという中2病な展開だが自分は至って普通なのだ。


「まあ、いいわ。キミは私の秘密を知ってしまった。なら、生かして帰らせる道理はない」

「そんなのどうでもいい。俺は帰る!」


――黒歴史を葬り去るのを強いられているんだ。


「勢いだけはありそうな迫力ね」

「俺は家に帰ってあれを消すこと。それだけが俺の願い」

「消すものって、重大なものなのね」

「ああ、とても大切なものだ。だからこそ、だ。そこを通せ」

「余計に興味がわいたわ。私と勝負しなさい。そうしたら通してあげ」


「ああっ、あれ何だ!」


 コタロウは明後日の方向を指差す。

 ハーフゴブリンの少女は思わず、その方向を見てしまう。

 そこを狙って、少女の頭をショートソードの柄で殴る。


「何、あいたっ。殴らないでよ。あいたって、なんて汚いのコイツ」

「何とでも言え。お前の相手なんてしていられるか。俺には目標ができたのだ。こんなところにいるわけにはいかないのだ」

 

 コタロウが逃げようとするところ、ミシッと足元が緩んでいることに気付く。


「もしかして、ここって、俺が作ったゴブリン捕獲用の穴」

「まちな、キャアッ」


 崩れた穴の下にコタロウと銀髪少女は落ちていってしまう。


「くううっ、タイミングが悪すぎる」

「何よ、これ、落とし穴って汚すぎない?」

「うるせえ、俺は楽したいんだよ。ゴブリンなんて危ないものに立ち向かうならこれくらいはやらないとな」

「なんて汚い。くっ、殺せ」

「だから、何でその言葉が出るんだ」

「お母様の口癖よ。私にも移っちゃったのよ悪い?」


 悪いも何もすぐにその言葉を出してしまうのは少々頭が悪い気がするのはコタロウの気のせいだろうか。


「まあ、どうでもいい話だ」

「折角、私がまじめな話しをしようとしているのにスルーとか、まさに外道!」

「うるせぇ。そんなことを言うなら、お前の顔に落書きするぞ」

「私の美しい顔に落書きとか、何と言う外道、そうか!」


 少女はいい事を思いついたとばかりに目を見開く。

 

 コタロウにとって、何か嫌な予感がしたのは気のせいではないだろう。

 多分勘が働くのだ。これ以上少女を喋らせてはロクなことにはならない。

 よし、落とし穴からすぐに出て逃げるしか。


「師匠! 私の外道の師匠になってください!」


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