第1話 LV0

 鬱蒼うっそうとした森の中、一人の人が何かに追いかけられている。

 息を切らせながら、全力で走っている姿が木々の間から見え隠れするのだが、その姿はまるで褐色の体とスラッとした容姿と相まってカモシカが狼に狙われているような光景だ。


「くっ、こんなところで」


 少し低めだが、よく通る女の子の声が聞こえた。

 追いかけれているのは銀髪をポニーテールに結った少女。

 村娘の格好をしているのだが、きりりとした目元と綺麗な鼻筋、さらには真一文字に結ばれた口元、さらにしなやかな鍛えられていそうな体をみると、その姿は女騎士を髣髴ほうふつとさせる。


 少女が森の開けた場所に出た。

 いや、或いはわざとここに出るように考えたのだろうか。

 少女は手近にあった木の棒を拾い、剣のように正眼の構えを取る。


「――来い、私は逃げも隠れもしない」


 ザッと森の草むらから、何かがぞろぞろ6匹くらい飛び出してくる。

 褐色の肌に頭にこぶのような小さな角を2本生やし、縮れた茶色い髪が申し訳に生えた1mくらいの子供のような姿をした折れ曲がった長い鼻を持った小さな怪物。

 名をゴブリンという。

 

 冒険者であれば、コボルトやスライムなどというモンスターとともに初心者として戦うにはお手頃なモンスターの一角といえばゴブリン。

 しかし、彼女は武器も持っていないし、村娘なわけで戦うすべなど知らない。


「ゴブゴブ! ゴブゴブ!」


 えへっへ、姉ちゃんそろそろ年貢の納め時だといっているような言葉。

 その言葉に銀髪少女は叫び声を上げる。


「私を舐めるな!」


 彼女がゴブリンの一匹に木の棒を振るう。

 しかし、ひょいと避けられて、他のゴブリンが少女に集まってくる。

 彼女はこのままゴブリンに押し倒されてしまうのか。


 オスしかいない彼らの繁殖方法は他の人間の女性を犯して、子供を増やす。

 彼らは嫌われ者だからこそ、狙われてしまう。


 その後はゴブリンに襲われて、子供を生まされてしまうのか。

 

 ――そこで少女が森の木々の間から見つめる人影を見つける。


 冴えない顔をした顔をした、微妙そうな表情をした少年がいた。

 ***********************************


 うん。困った。

 ゴブリン討伐に渋々出て、近くの森に入るとゴブリンが結構発生している。

 とりあえず楽そうに倒せそうな単独のゴブリンを探していたら、少女を追いかけるゴブリンの集団を見つけて追いかけた。

 棒切れを持った彼女の姿を見ると自分が出てくればヒーローになれるような気がするけど、それは何だか面倒な気がする。


 しかし、ここで見捨ててしまうという所まで外道にはなりたくは無い。


「非常に面倒だ」


 コタロウとしては頭を抱えたくなるシチュエーションに身もだえしたくなるのだが、ゴブリン討伐ということはできそう。

 あの少女を囮にしてぼこぼこにすることができれば楽に倒すこともできるのではないのではなかろうか。


 よし、ならこっそり後ろからゴブリンを武器屋で購入した安物のショートソードで斬ってしまおう。


「私を助けて下さい。そこの方」


 と思ったら、銀髪少女がコタロウに気付いていたらしい。

 ゴブリンがギヌロっとターゲットをコタロウに変えようとしている。


「ちっ、何でこんなところで気付くんだ」

「聞こえていますよ」

 

 結構耳が敏いらしい。というか、彼女の耳が尖っている。もしかしてエルフ、しかも褐色のダークエルフだろうか。

 

 まあ、今はどうでもいい。見つかってしまっては仕方のない事だ。


「ゴブゴブゴブ!」


 ぼろぼろのナイフを持ったゴブリンがコタロウに襲い掛かってくる。


「やっ、ちょっと待ってよ。俺は冒険者1日目だぜ。そんな人間が襲われたらな何にもできない、ああっ」

 初の実践は情けない声から始まったが、兵士たちのしごきで体はどうにか動き、ナイフをうまくショートソードでいなす。


「ゴブッ!」


 あしらわれたゴブリン1匹がよろけた拍子に木にぶつかって目を回してしまった。

 隙ができた。

 後ろからショートソードで一突き。

 あっさりと突き刺さった刃にゴブリンが断末魔の悲鳴を上げる。


「ごべふ」


 その声とともにゴブリンがボンっという音を立てて、小さな爆炎を出して消えてしまった。 


「これはいけるのか。何とかなるのか? よしっ、これなら俺でも楽に倒せる! これ、おいら大勝利」


 6匹を叩きのめしたコタロウは汗をぬぐいながら、達成感に酔いしれる。

 コタロウは気付けば楽勝でゴブリンを叩きのめしていた。

 そのうち、1匹は目を回して気絶しているだけでとどめはさしていない。あとで問題はないとは思っているからだ。


「よし、これで経験値入るよな。よし、自分のステータスをみれば」


 突然、銀髪のダークエルフが抱きついてきた。


「ありがとうございます!」


 感謝の言葉とむにゅっと当たる何かに気分が悪いわけではないが、今のところはそうではないのだ。


 自分のステータスを見ると、


 exp 0


「これはどういうことだ」


 経験値が入っていない。

 確かに叩きのめしただけだが、それでも経験値は入るはずだろうと聞いていた。

 

 コタロウは震えた手で気絶しているで叩きのめしたゴブリンにフリックをしてみる。

 

 ゴブリン LV0


「な」


 そして、ふと銀髪の彼女にもステータスを見てみる。



 ――ハーフゴブリン LV0


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る