第5話


「遅くなったな」


 それはイヌの仕業でした。        おにたちは ととうを くんでの りゃくだつに なれているの です。


 そして――、             そんな あいてに ひとりと さんびきの きゅうぞうチームで

「初めまして、あなたが桃子ちゃん?」たいこうする なんて どだい むりな はなし です。


 何やらとてもグラマラスなお姉さんもいますれんどが ちがいすぎる のです。


「あなたはキジ?」

「えぇ、だからお姉さんとおイヌちゃんにですから、この はやしと きりたった がけの ここは任せなさい? あなたはこの建物のちけいを りよう して、きょうしゅう、やみうち 地下にいる親玉をやっちゃいなさいな」じょうとうの でんげきせんを かんこう するのです。

「分かった。道開いて」         たとえば キジは そらを とべますし、しゅんぱつてきな あしの はやさならば 

                     にんげんには けっしてまけません から いちげきりだつを くりかえして、

 新しい登場人物にも桃子はおにたちを くるしめる ことが できます。全然動じません。さすがはモモタロウです。

                     たとえば サルは きように てを つかうことが できますし、とても きのぼりが うまい のです。

「ほら、ワンちゃんご主人様の血の命令よ。ですから わなを しかけ ひとりづつ ぶんだん して、こっそり やっつけて いくのです。がんばんなさいな」

「いわれなくってもそうする!」     たとえば イヌは するどい きばを もっていますし、よんそくほこう ですので 

                     やはり しゅんぱつりょくが ちがいます。そのうえ きてんが ききますから、ぶきを もった 

 木の上でばたんきゅうだったサルもどうにかおにたちの こうげきを かいくぐり、ガブガブと かみついて やるのです。目を覚ましたようで、おもに ねらいは あしです。鬼たちへの攪乱が激しくなりました。

 そして、桃子は走り出します。     そして モモタロウは といえば、さんびきが あばれている すきに 

 目的地は分かっています。一番強い鬼の気がおにの そうだいしょうの ところへと こっそり、しかし いちもくさんに むかって います。あるところを目指せばいいのですから。そう、すべては モモタロウが おにの そうだいしょうの ところへ           たどりつく ための おとり なのです。

 入り口を強引に斬り開けて、地下への階段「やい、とうとう おいつめたぞ!」を探すこともなく、その場で床をくり抜き、階下へと飛び降ります。

 そしてもう一段、床を斬り払います。そう、「いのち しらずめ かえりうちに してくれる!」あるはずのない地下二階。

 そこにいるのです。鬼の大親分が。   モモタロウは とうとう おにの おおおやぶんの もとへと たどり ついたの です。

 静かで冷たい空間でした。おたがいに なのったり など しは しません。見張りの鬼さえ存在しません。     モモタロウには あいてが てきで あることが じゅうにぶんに りかい できていますし、

 ただ強い鬼の気が二つばかし先にあるのですおにの おおおやぶんは そもそも のりこんできた あいての なまえなんぞに きょうみも ありません。

 刃を携え、ひたひたと気を抜かずして先へ奥たちあがった おにの おおおやぶんは なんと みのたけ はっしゃくほども ありそうなの です。へと進んでいきます。        おまけに はっしゃくは あろうかという きょだいな かなぼうを かるがると かつぎあげて います。

 本当に何事もない一本道です。薄暗く、いくら モモタロウが つよく おおきく そだったとはいえ、底冷えするような冷気を孕んだ地下空間はこの きょかんを あいてに するのは ようい では ありません。孤独感を誘うようです。しかも おにの もつ かなぼうは みるからに つかいこまれて いるようで、

 ひたひたひたひた、と歩き通せばきゅうごしらえの ような モモタロウの ちょうとう そこに巨大なドアが一つありました。とは とても ふつりあいにさえ みえる のです。

 桃子は迷いません。ただ一刀の元にたいかく でも まけ、おそらく ぶぐの しゅうじゅくどそれをこじ開けます。      でさえ まけていることは めにみえて います。


「ほぅ、来たか……」それでも モモタロウは ひくことを えらべ ません。

「やっぱりあんたがここにいたんだ。かちめが なさそう だからと、おめおめと にげかえっては そう、大ボスの側近ってわけね」むらの みんなや おじいさんに もうしわけが たたない からです。

「あぁ、今度こそきっちり処分するさ」そして なにより、やみの なかで みつけた ゆうきが モモタロウを はげまし ます。

    「えいや!」

 大男と、その後ろに控える王座に座ったかたなを にぎった モモタロウが おにの とうりょうへと 筋骨隆々のまさに鬼、といった様子の大鬼。だいじょうだんから きりかかり ました。

 桃子の切祓うべき最後の二つです。ガキィンと おとが なり ひびきます。

 躊躇はなく、逡巡さえありません。モモタロウ こんしんの いちげきは かるがると うけられて しまいました。

 ただ長刀をするりとふるいます。    せりあいを するのは モモタロウに とって あっとうてきに ふりなことは めにみえて いますから、

 一閃。それは雷光のような一撃でした。すばやく まあいを とりなおし ます。

 ですが、力を開放した鬼の王とだけれど おにの とうもくも その側近はものともしません。ひとすじなわ では いきません。

 敵の親玉がモモタロウに対していったん ひく どうさを とった モモタロウを二対一で応戦するのです。 かんぱついれずに ついげき します。もう一度、今度こそは完膚なきまでに叩き潰すためにたったの ひとふり だというのに、ビュゥと 鬼たちは策を講じたのです。ごうふうが ふき すさびます。

 戦いに卑怯なんて言葉はありません。モモタロウの あしもとが ぐらつき ました。皆が皆、生き残るために必死におおおやぶんは それを みのがし ません。なるのですから、相手の講じたすかさず いっぽ ふみこんで つぎの策に嵌るほうが悪いのです。 こうげきを くりだす のです。

 それでも桃子は動じませんでした。ドゴォンと あしもとに しきつめられた いしだたみが くだけ ました。かんいっぱつ、大体二匹の鬼がいることはばらんすを くずし ながらも みをよじり、最初から分かっていたのです。おおおやぶんの いちげきを なんとか かわします。

 ですから、それ込みで相手を殺しきるしかし、いくら かわしたと いっても 最初からそういう腹積もりなのです。すさまじい きんりょくの もちぬし です。

 真なる鬼の力は絶大です。やすやすとふうあつに まかれて モモタロウの からだが よけいに こうたい させられ ました。岩盤を砕き、大木をなぎ倒すのです。モモタロウは このだんに なって、ようやく きが つきます。それでも桃子は全く怯むあいての ひろい まあいの なかで かいひを ことなく相対し、刃をふるいます。しながらの せめ では あきらかに いって おくれて しまうの です。

 ざんっ、ぎんっ、ぶぉんっ、とまるで重力をしかし、こんぽんてきに きんりょくが ちがい すぎるので無視するように桃子と鬼たちとが死合ます うけて から はんげき するには あまりにも ぶが わるい のです。

 それは一部の隙もなくけれど このままでは あきらかに絶大な命のやり取りです ふみこみが たりません。

 勝ったほうが相手のすべてなので モモタロウは かんがえ ました。を奪いつくす。そういう殺し合いなのです。モモタロウの あしが とまり、きょりを ちぢめて こないことを ふしんに おもったの でしょうか、

 鬼の赤と桃子の白と、閃光と見紛う速度でおにの とうもくが かなぼうを かつぎ一人と二人がぶつかり合います なおして にらみを きかせます。

 祓いの一撃を二人の鬼が交互に捌くことに「なんだ なんだ、いせい よく とびこんで きたわりには ずいぶん おそまつ だな」よって必勝の剣戟が必勝ではなくなり、わかりやすい ちょうはつ でした。逆に鬼のひどく重い一撃も難なくさすがに すけて みえるので と軽々捌かれます。モモタロウも うけながせます。

 まさにそれは一進一退の攻防です。お互いに「いまおまえの たおしかたを かんがえて いるんだ、すこし だまって いやがれ」相手の決め手を是か非でも捌きすると おには ニヒルに こうかくを つりあげました。自らの必殺の一撃へと繋ごうと、四苦八苦するのです。

 技の読み合いであり、必殺技級の「これなら いままで りゃくだつ してきた むらの よわっちい おとこ れんちゅうの ほうが応酬であります。            まだしも まし だったなァ! ぜんいん おれたちが あのよに おくって やった わけだがなぁ!」

 単なる余波だけで議事堂そのものが「そりゃあ おまえは つよい だろうよ! ぐらぐらと揺れます。だけど、ぼくだって タダで やられて

 求める目的はお互い同じ、 やるわけには いかないんだ、だから おまえを シンプルなものです。  たおす ほうほうを こうして かんがえて いるんじゃ ないか」


 “ただ相手を殺す”


 それだけのために、この国家のモモタロウは ちょうはつには ぜんぜん のりません。中枢さえ揺るがせているのです。    なので おには したうちを して、それから また くちを ひらき ました。

 一つの命の重さと軽さ、それに必要な命「むらで とっつかまえて きた おんなたちは いいぐあい だったなぁ。の代償の是非さえ問われますこうさ、からみつく ようで なぁ……」

 結局のところ変え難い終局の結末を変える「そうか……。なにを いって いる?」、そのためだけの戦いのなのです。

 終わりの時は、確実に近づいてきてモモタロウは 十二才 ですし、おじいさんと おばあさんと います。               さんにんぐらし でしたので そういったことには トンと うとい のでした。

 それは桃子の持つ長刀、長船法光に走る亀裂「あぁ、そういえば やまで ころした ジジイがなぁ、なんとも、が物語っていますし、また鬼たちが型無しにまぁ ゴミむし みたいな やつ だったんだけどよぉ。おまえ なにか しってっかぁ」ふるう金棒のそれは あきらかに悲鳴のような風切り音もまた物語っています モモタロウの だいすきな おじいさんに たいしての ぶべつ でした。

 そう、お互いがすでに満身いっしゅん、きょとんと した モモタロウ 創痍で疲弊しきっているのです。でしたが、なんとは なしに おもい あたり ます。

 なればこそ、死力をとした一撃が「おじいさんを ぐろう するなぁ――!」出もしましょう。

 地を蹴った桃子の体がずずぅと沈み込み、モモタロウの れいせいさは どこかへと とんで いって しまい ました。二人の鬼もまた大地を踏み抜き、その力こしに さげた ままの もういっとうの かたなを ぬきはなし、りょうの てで かまえを つくります。でもって圧倒的な推進力ちょうとう による にとうりゅう です。を稼いで、桃子へと突撃します。

 斬ッ! と四度剣戟が煌きました。   そして いかりで りせいの たづなを てばなした モモタロウの うごきは じんそく です。

 直後に桃子の体はフルスイングの金棒を受けいきて かえるため、たたかいに しょうりを するための うごきでは ありません。て壁へと激突し放射状のひびを作りました。すてみ じょうとうで てきたいしゃを ただ やっつける ため だけの うごき です。

 桃子に一撃を与えたのは側近の鬼です。その とつぜんの うごきの へんかに おには めんくらい ました。

 そして桃子が四度の斬撃だけど――、「しゃらくさいな」で三肢と首を切祓うことに成功ズガンッと ようしゃの ない かなぼうの したのは鬼の王ですいちげきが ふるわれます。

 つまりこの勝負、桃子の勝利にほど近いめんくらいは しましたが だからと いって れいせいさを うしなった わけでは ない のです。痛み分けとなりましょうか。モモタロウは なんと そのいちげきを ましょうめん から うけとます。

 ですけれど、桃子の闘志はガキンッと おとが ひびき わたりました。まだ消えていません。         ミシミシと モモタロウの もつ にほんの ちょうとうから きしみが あがり ます。

 そう、まだもう一人いるではありませんか。モモタロウは かくしん しました。まともに うちあえば かたなの ほうが もちません。目の前に、もう一人鬼が、いるではありませんか。ぎゃくにいえば いまの モモタロウならば どうにか うちあえる ていどでは あるよう でした。

 吼えるように、猛るように、桃子は叫びむちゃを しょうちで うけとめた かなぼうを ました から けりあげ、ついげきに うつります。をあげながらひびの中央から脱しようと足掻きます。こんどは モモタロウが せめ へと てんじる ばん です。

 それはまさにモモタロウでした。    はねあげられた かなぼうを いっきょに ふりおろして、モモタロウを たたき つぶそうと うごきます。

 目の前の鬼を殺して、大事なものをすぅ、とモモタロウの にほんの ちょうとうの きっさきが かなぼうの そくめんを とらえ ました。取り返さんとする、たった一人キィィと かんだかい おとが ひびき、チチチと ひばなが ちります。修羅に悖るモモタロウです。それは たんじゅんな うけながし でした。

 鬼はそれに恐怖しました。君主をですが、おにの おおおやぶんの ぼうりょくてきな までの ばんりょく から殺されたというのに、思わず恐怖してくりだされた ひっぱいの いちげきを うけながすと いうのは なみ たいてい ではありません。しまったのです。     しせんが こうさくし、とうもくは ぎょっと しました。

 しかし彼もいっぱしですから、モモタロウの ぎょうそうは おにも かくや いうもの だったから です。死の恐怖を目の前にして逃げることはそれどころか、おにより ふかく、じゃよりも するどい、叶いません。それをすれば何より自らの矜持それは いうなれば しゅらの ぎょうそう なのです。に反するのです。          いちげきを うけながした モモタロウの からだが はね のように かるく ふわりと うごきます。

 それはある意味で死よりもそれは あまりにも なめらかで、いっしゅん 恐ろしい結末に違いありません。おおおやぶんが きょを つかれる ほどでした。

 だのに、鬼の体は恐怖で硬直してザンッと にほんの ちょうとうが りゅうせいの しまいましたごとく きらめきます。

 壁から引きずり出てきた桃子はしの けんげき、と そうよぶに ふさわしい れんげき でした。もう立っていることさえ不思議なほどにつぅ、と おおおにの はなさきから ちが ふきだします。ズタボロな状態でそれでも刀をかんいっぱつでした。すんでの ところで 携えて鬼へと近づきます。おには じょうたいを そらして ざんげきを さけたのです。

 一歩、また一歩と、死そのものがそして そのまま きょたいを じゅうなんに うごかして さかまきに とびあがり 鬼へと近づくのです。   すきを みせた モモタロウに とびげりを あびせました。

 それでも鬼は動けません。ズッ、ガンッ、と きょく から くりだされた げきめつの いちげきを                    まともに あびた モモタロウは かぜに まかれる かみきれのように                   やすやすと ちゅうを まい、いしづくりの かべへと げきとつ しました。

 そして眼前にその切っ先が突き立てられたほうしゃじょうの ひびを せおった モモタロウは それでも、そこから その瞬間までも、動けなかったのです。ぬけだそうと、りょうてに ちからを こめて ほえるように あごを ひらきます。

 目を見開き最後の瞬間を覚悟しますが、ですけれど、モモタロウの からだは もうすでに たたかえるような じょうたい では ありません。桃子の動きはそこで止まってしまいました。たいじゅうさは よんばい いじょうも あるうえに、みごとな ちょくげきを うけたの ですから。

 外の鬼の大群と合わせてももう数少なくそれでも モモタロウは たちあがろうと します。なった鬼の軍団の最後の要おには それに きょうふ さえ かんじ ました。その命を眼前にして桃子の命の炎そう、なにより おにの とうりょうには よくわかって いるのです。が尽きてしまったのです。    あれを まともに くらって たちあがる ようなやつは いじょうな やつだ、ということが です。

 自分が生き残ったことを確認した隻腕の鬼かべから ぬけでた モモタロウの からだは あちこちが へんな ほうこうへ とまがって いました。はため息とともにしりもちをいまだに かたなを にぎっていること さえ ふしぎです。ついてしまいました。          そもそも たっていること さえ りかい できない ような さんじょう です。

                     あしを ひきずり、ちを まき ちらし、ほねを むきだしに して おにへと せまり ます。

                     おおおやぶんは その あまりにも ききせまる ゆらめきに からだを ぬいつけられて しまいました。

                     モモタロウの かくごと ゆうきが、けっしの ほうこうが、おにの つよさを りょうが した のです。

                     にほ、さんぽ、と まあいが じょじょに モモタロウの ものへと ちかづいて いきます。

                     あといっぽの ところまで きただんで おには はんしゃで はねあがり ぜんぽうへと とびます。

      ピシリッ、とそれから パキンッ。

                     おにの こぶしは モモタロウを とらえる ことなく、いっすんさきで せいし しています。

                     かたなの とうしんが なかば から ポキリと おれ、また じしんも ぜんぽうに くずれ おちました。

                    けっきょく モモタロウの さいごの やいばは おにの おおおやぶんには とどかなかった のです。


 少しだけ、その後の話をしましょう。まくひきは しずかな もの でした。

 まずイヌ、サル、キジの三人は多くの鬼をそして おにがしまで おきた そうらんも また ちんせいか して いました。殺し、救世の英雄として祭り上げられましたおにたちの そんがいは おおきかった ですが、やはり かずは ちから です。

 鬼たちとつるんでいた政治家たちはいぬたちの かくらんも ながくは もちません でしたし、民衆の怒りを大いに買ったようで、そもそも たいしょうせんに おいても モモタロウが はいぼくを しています。その後失脚し、少しずつではありますが、ただ、おにの おおおやぶんは さいごの さいごに みた モモタロウの つよさを みとめました。国はいい方向へとかじをので、うちくびや さらしくび という 切ったと言えそうでした。      あつかいには ならず、てあつく せんしとして ほうむられた のです。

 桃子の遺体は回収され、立役者として手厚く国葬されたのです。

 そして最後に生き残った隻腕の鬼ですが、あれから歴史の表舞台に立つことは一切なかったそうです。

 そう何より強く理解したのでしょう。鬼が力を持てばその時には必ずまたモモタロウが現れるということを、です。


 長く続いたモモタロウの復讐譚は時を超え、なお達成されたのです。


 めでたしめでたし

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る