第2話


 桃子は泣きました。モモタロウは とを たたきました!泣いて泣いて、泣きました。ドンドンドン、ドンドンドン。

 桃子は鬼が許せませんでした。「おじいさんおばあさん、ボクですどうせ殺すならば、国民からの血税でモモタロウです! 戻りました!」私腹を肥やして無能の極める政治家どもぎぃと、どあが なかから ゆっくりとひらきます。を殺してくれればいいのに、と思いました。「も、モモタロウかえ……」

 あまりにも理不尽でした。いきも たえだえな ようすの高校を卒業したら就職しておばあさんが ぬっと すがたを あらわしました。お父さんに少しでも楽をしてそして モモタロウは ちらりと のぞいたもらおうと思っていたのです。いえのなかを ながめて ぜっくします。

 桃子はお父さんが大好きでした。そう、いえのなかは さんざん十六歳の桃子はすでにお父さんと自分のあらされ ほうだいに なっていたのです。関係を聞かされていましたから、「お、おばあさん……。いったい なにが あったんですか!?」だからその思いは余計に強かったのです。

 自分の幸せを棒に振ってまで自分をモモタロウは せおっている むらびとの育てくれたお父さんは桃子にとって何よりも ことを わすれて ごきを あらげます。大切な存在だったのです。

 ですから、桃子は決意しました。「おにがね、おにが やってきたんだよ……。それよりも なかへ おはいり」


『復讐してやる……。ボクがお父さんの敵を討るんだ……。復讐してやる……』


 お葬式の席で「お、おにが……」桃子の心に火が付きます。

 ボロアパートの隣に住んでいた女子大生はモモタロウは へやの なかへと はいり、今は銀行マンの彼氏を捉まえて結婚しくずれかけた いろりのそばに むらびとをねかせ、ちょっとリッチな奥方へとなっていましたそれから おばあさんに むき なおります。ので、たっての希望で桃子はそちらへと「このひとに おみずを のませて やりたいんだ」引き取られました。「おみずだね、まっとりなね」

 桃子はそれからも表面上はいい子を装ってそういって おばあさんは いえのそとの かめへ といそぎ、学校へと通い、元女子大生へも感謝して、そこから ひとすくいの みずを すいのみへ いれて復讐の方法を模索していました。もどってきて、むらびとに ゆっくりと のませます。

 そんなある日の出来事でした。むらびとはうめきました。

 犬と名乗る少年が桃子のそして ごほごほと せきをして、高校へと転入してきたのです。それから ゆっくりと いきを ととのえました。

 イヌは「キミには鬼を倒す力がある」「だいじょうぶ ですか? いったいと言います。むらで なにが!?」桃子には真偽は分かりませんでしたが、モモタロウの といかけに むらびとはそれがあるのならばお父さんの ぜぇぜぇと いきを きらしながら敵討ちが出来るこたえます。なと、受け止めました。

 戦うことへの恐怖よりも、「お、おにが……。おにが むらの 鬼への憎しみのほうが勝ったのです。ぜんぶを りゃくだつ して いきやがったんだ……!」

 桃子はイヌにどうすればいいのかむらびとは もう しゃべるだけでと問いかけます。せいいっぱい です。ですがイヌは方法までは分からないととうにんも それを よくわかっているようで、宣います。さらに つづけます。

 桃子はつい、「調べてきて!」ルビを入力…「おんな こどもは つれさられた……、おとこは みんな ころされた……。と怒鳴ってしまいました。たのむ、むらの かたきを うってくれ……!」

 イヌはシュンとして、「ゴメン」こうふん したように どきを はらんだ つよいとだけ言い残して桃子の前からくちょうで そういうと、ぶくぶくと あわを ふいて、逃げるように去っていきました。それから しろめを むき いしきを うしなっしてしまいました。

 その夜、桃子がいつものように「しっかりしてください……!」遅くまで図書館で鬼についての情報をモモタロウは こえを かけますが、もうむらびとは収集した帰りにソレは起こりました。いっすん たりとも こたえません。

 暗い夜道でOLを締め上げている「モモタロウ……、もうおよし。その人はもう……」一人の男と、桃子が鉢合わせました。おばあさんは しずかに くびを ふりました。

 場所は小さな路地で、あまり人のそう、むらびとは こと きれて通らない区画でした。しまって いるのですなぜ桃子がそんなところを通っていたのか「おばあさん……、そういえばおじいさんは……?」といえば、まさにこんな場面を見つけるやっと、モモタロウはきがつきました。ためにほかなりません。おじいさんがいないことにきがつきました。

 桃子は男の肩に手を置いて、きょろきょろと あたりを みまわしても問いかけます。すがたは みあたりません。


ねぇ、なにしてるの……? あなたは鬼?」「おじいさんはね……」


 はっきりと申し上げると、この時点でちいさな ためいきを はきだした桃子はすでに切れていました。おばあさんが とつとつと かたり だしました。とても冷静に激昂しています。それは しんじられない はなしでした。

 不愉快そうに振り向いた男はあくむ のような はなしです。ぐにゃりと口元をゆがめます。そして それは こう しめくくられ ます。


「おいおいおい、こんな時間に独りぼっちでこんなところに割って入ってくる嬢ちゃんなんて、笑えるぜぇ。おう、なんだ、嬢ちゃんも犯してほしいのかぁ?」

「ごちゃごちゃ言ってないで、ボクの質問に答えてよっ。お前は鬼なの? それともただの強姦魔なの?」


 桃子の声色は十六才の女子とは思えないほど冷めたものでした。


「おお、そうだよ! 俺は鬼だぜぇ!「おじいさんはね、しんでしまったよ」 だから大人しく――!」


 行動はとても迅速でした。めをふせた おばあさんは腰を落としてタックルをかまし、かなしみに くれていました。鬼だと嘯く男を押し倒します。モモタロウは なみだを ながしました。

 そして、制服のポケットから二本のひたんに くれた おばあさんと モモタロウは果物ナイフを掴み出して、ケースをいっこく ばかり そうして すごし、口にくわえて抜き放ちます。ひとりが たちあがります。

 刃渡りわずか六センチ。ですが、たちあがったのは モモタロウです。かれは命のを刈るのには十分な大きさです。けつい したようで、めに こうとした ひかりを やどしていました。

 桃子はたったの一拍さえも迷いませんでした「おばあさん ぼくは きめました、おにを一本は迷わず男の心臓の位置へと刃を寝かせたおしてみせます! おじいさんと むらの みんなのて打ち込み、もう一本も迷わず喉元へとかたきを うってみせます!」グサリと差し込みました。


「ひ、ひぃぃい!」


 桃子に助けられたはずのOLが「……、ダメだよモモタロウ。おまえまで 悲鳴を上げてその場からきけんなめに あわせるなんて、そんなこと走り去っていきました。しんだ おじいさんだって ゆるして くれないよ」

 果たして目の前の男は本当に「いいえ、おばあさん。コレはぼくの 鬼だったのでしょうか。ほこりの もんだい なんです!今となってはそれは分かりません。おじいさんにとめられたとしても、


 ですが、

「アハハハハハハ、殺してやった……!おばあさんになかれたとしても……! 鬼を殺してやった……!」ぼくは おにに 

 力なく地に落ちた男の遺体しかえしを してやらないと の上に跨ったままで桃子はきがすまないんです! なにより、高く、盛大な笑い声をあげました。ぼくじしんの ほこりのために!」


 ただ、ぼんやりとした月明りふくしゅうの ほのおを めに たぎらせただけがその場を照らします。モモタロウは たからか に せんげん しました。

 そこへざりっと足音が響きました「けついは かたいんだね」何やら重く、硬質的な靴音ですので、「はい、とめられても いきます!」靴底に金属を仕込んだ革靴でしょう。「そうかい。なら すこし まっていなね」


「おい、何か不穏な感じがするかと思えば、コレは一体何の冗談だ?」


 靴音の主は大男でした。身の丈六尺おばあさんは モモタロウの けついを くみ とりました。ほどの大男です。そいつはぐたりと倒れた男ひとり いえのおくへと すがたをけして、に跨り笑う少女という異様な光景をなにやら ごそごそと ゆかを さらっている ようです。ものともせずに、桃子へなにかと おもい おおあわてで と近づいて行きます。おばあさんを おいかけます。


「殺したの……」


 笑いながら月を見上げていた桃子そこで モモタロウは おおきなは気だるげに首を下してそれから立ちくろいあなを めにすることに 上がって男のほうへと向き直ります。なったのです。


「鬼を殺してやったのよ……!」「このおくにはね あなたを つよくするものが あるの。

 桃子は狂人のように嬉々としてそれを とって こられたなら、そうい言います。いくことを みとめます」


「鬼を殺した、「おくになにが……?」か。どれならばそいつは俺が「それは おくまで 回収してやらんとな」いってからの おたのしみだよ」


 大男は死んだ鬼を回収すると、ばちんっと モモタロウは じぶんの そういいました。それがどいうほおを はってから まっくらな 意味なのか、桃子は計り兼ねました。やみのなかへと ずんずん すすんで いきました。

 ですがすぐに答えへと行き着きます。くらやみの なかは とても こわいもの です。


「お前も鬼か……?」

「おうともさ」


 お互いの距離はもう三メートルもありませんだけれど モモタロウは すすまなければ なりません。。桃子の足元には突き刺さったままの果物ナイフそう、くらやみへの きょうふを こくふく することが

 そして、目の前には本日二匹目の鬼おにに たいこうする ための ゆうきを やしなうのです。

 透明な玉のような瞳には果たしてくらやみの なかを おおまたで何が映っていたのでしょうか。 どんどんと すすんで いきます。

 確かなことは桃子の動作が甚く巧速だったときおり ちいさな ネズミの ほねを ふみつけたり、ということだけです。きのねに つまづいたり しながらも

 遺体の心臓部からナイフを引き抜き、どんどんと まえへと すすんで いくのです。そのまま勢いに任せて目の前の鬼を名乗るまるで しを おそれない 大男へめがけて体当たりをかまします。ゆうかんな せんしの ようでした。

 それは人からしてみれば突然の出来事それでも さきはながく、みちのりは とおいようです。まだまだ、だったはずです。ですが、正真正銘本物ぜんぜん おくへは とどきそうも ありませんでした。の鬼からすれば、どうでしょうか。モモタロウは すすみます。


「なっ――!」せまく まっくらな みちのりです。


 桃子は小さくこぼしました。そよかぜ すらも ふきこまぬその直後にパキンッと小気味良い音 とこやみの なかを それでも が小さく木霊します。たしかな あしどりで すすんで いきます。

 それは小さな果物ナイフの刃先がひたひたひた、とあしおと だけが 砕けた音でした。そうしたやみのなかへと とけこんで なんとものはもちろん鬼です。いやな かんじを はっします。


「随分ちゃちなもんで挑んでくるじゃねぇかさんこく ほども あるいた ところでその心意気は買いたいモモタロウは ふと つかれをがちと力不足だったな」 かんじて しまいました。


 その鬼の強さに桃子はなす術がありませんそう、さんこくです。


「お嬢ちゃんみたいな幼気な子をそもそも、モモタロウは きのうから手に掛けるのは憚られるんだが……。 ずぅとずぅと うごきっぱなし でしたので、まぁ仕方ないわな」


 鬼の手がずぅぅと桃子へと延び、いままで つかれを かんじて いなかったことそして少女の首を捉まえようとします。 こそ おかしな はなしなのです。


「その子に手出しはさせねぇぞ!」「はぁ、はぁ、たちどまってはいられない……」


 ザンッという鋭い一撃とそんな声モモタロウは それでも まえへと が桃子の前へと躍り出ました。すすもうと しますが、とろんと 


「ほう、その力……。おもくなった まぶたは貴様さてはイヌだな?」 かれの いに はんして 


 そうです、そこには転校してきたばかりのかれを ふかい ねむりへとイヌの少年が立っていました。 いざなうの でした。


「この子は絶対にやらせない」ゆめで だれか が なを よびました。

「ほぅ。ここでイヌがそれは おじいさんの こえの出てくるとなると、その子は ようなきも しましたが、おばあさんのモモタロウということか。ならばますます こえの ような きも しました。ここで殺しておかないといけなくなったな……!」


 鬼を名乗った大男はこの段に来てぼんやりと した あたまを かかえて初めて獰猛な笑みを見せました。 てまねき されるように すすんで いきます。

 巨体が消えます。それに合わせてかれは ねても さめても すすむ のです。イヌもまた消えました。モモタロウは すすみます。


「やらせないといってる!」なにか とても だいじな ぎもんが


 桃子の目では捉えらえきれない攻防です。ぐぐっと もたげた ようなきが しましたが、

 思わずへたり込んでしまいました。それが なにかは わかりません でした。鬼の強さをまざまざと見せつけられたのですただ、かれを よぶこえが 

 そしてそれと渡り合うイヌという少年おじいさんの ものでも、おばあさんのの強さもいやというほどわかりました。 ものでもない、と りかい しました。

 しかし、次第に地面にはそうすると パタンパタンと血が飛び散りだしました。 てまねきの ようなおとが ひびき、

 はぁっはぁっ、という荒い息づかい。それっきり ゆめの せかいから

 ちいさな石ころが一つはずみました。 ついほう される のです。

 それきりです。バァンとイヌの体がモモタロウは つめたい どうくつの地面に叩きつけられました。 じめんへと てをついて からだを おこし、

 重傷必至に違いありません。それから あたまを 見ているだけの桃子にさえそれはゆっくりと ふりました。分かりました。


「少しはやるようだが、まだ手が足らんな」かれ じしんに さえ なにが おきたのか、よくわかりません でした。


 体中のあちこちに返り血を受けてなお平然ですけれど、たしかに なにかを えた のです。としている鬼に対して桃子はくらやみの おくから きこえる少しの恐怖心が浮かびます。 いさみあしは ふかい やみを 

 ですけれどそれよりもきりさく かのようにもっと強い感情がわきました。 ゆうもう なのです。


「い、いやだっ! こんなところでどんどん ずんずん、と せいひつなる死ぬもんか……! お父さんの、お父さんの やみの なかに たけき あしおと敵を絶対に討って見せるんだから……!」 だけが ひびいて いきます。


 迫りくる鬼に対して、気丈にもふるまいますあしどりに まよいは ありませんでした。


「ほぅ……。腐ってもモモタロウの眷属かどこへともなく、だけれど まっすぐとなかなか立派じゃないか、だけどな現実 モモタロウは すすんで いきます。ってのは案外あっけないもんだ」そしてついにたどりつきました。


 男は片手で桃子の首を掴み吊り上げてそこは くらい どうくつの さいしんぶ です。しまいます。

 あまりの膂力差に為す術がありませんなにもみえず、なにもきこえず、ただ くらやみと桃子は呻き、じたばたともがき、何とか しっとりとした つちのおんど丸太のような片手から何とか逃げ出そうと だけが ただよう くうかんです。しますが、それは叶わぬ願いでした。「なにもない……、のか?」

 やだ、やだやだやだよ、モモタロウは あごに てを死にたくないよ、とそんな諦めの悪さが そえて くびを ひねり ました。桃子の頭の中を駆け回ります。

 しかし二秒後にはあまりの苦しさにしかし おばあさんの くちぶりを おもいだせばが真っ白になり、死ぬ、死んじゃう死ぬ死ぬ きっと そんなことは ないぞ、! という言霊だけが脳内にこびりつきました。と そう かんがえ なおします。

 涙が鼻水が涎が、汚らしくも止め処なくむむむ と うなりごえを あげた流れ落ちます。じわりと滴った雫が モモタロウは どかっと そのばに足の下の地面へと水たまりを作り上げていきます。 すわりこみ、ざぜんを くみました。

 ビクリビクリと体が痙攣しました。ゆっくりと いきを ととのえて、もう桃子の頭の中には何もありません。それから めを つむります。その大好きだったお父さんのことも、思い出も、モモタロウは、いま ここで なにも弔い合戦をすると誓った みつけられない のは じぶんが あの日の熱も、何もかもがありません。みじゅく だからだ とかんがえた のです。

 くたりとした桃子の体を鬼はぞんざいになので、ゆくりと せいしんを じゅくす 放り投げ、死んだ鬼の体を回収するためにために めいそうへ ふけることに近づいていきます。 きめたのでした。

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