現代リベラル論に基づき二重螺旋を組み込んだ桃太郎。おとぎ話再考の一例

加賀山かがり

第1話


 時は現代、むかしむかし都会の片隅のうらぶれたボロアパートあるところにに独身のサラリーマンが住んでいました。おじいさんとおばあさんがすんでいました。

 その日も朝っぱらから日付変更ギリギリまでおじいさんは山へ芝刈りに働いて、疲れにクタクタになった体おばあさんはかわへせんたくへとを引きずって帰ってきたのです。でかけました。

 出来合いのコンビニ弁当を買って夕飯おばあさんがかわでせんたくをしているとにしようと思っていた社畜おおきなももがどんぶらこは家の前で固まってしまいました。どんぶらことながれてきました。

 ドアの前には見慣れないゆりかごと、おばあさんはふしぎにおもいながらもそれからこれまた見覚えのないそのももをどうにかこうにかひきよせてつかまえました。どころか全く身に覚えのない赤子それからせんたくをおえたおばあさんはが入っているではありませんか。そのおおきなももをいえへともってかえることにしました。

 揺りかごの中にはもう一つ入っているものいえへともちかえったももをまえにがありました。それはそれなりのふくらみを持った封筒ですおじいさんとおばあさんはかおをみあわせます


「な、なんなんだよ……。「このモモどうやってたべましょうかね、おじいさんや」コレ、新手の嫌がらせか……?」「やっぱりこのなたでまっぷたつにしてたべるのがよいじゃろう」


 社畜はため息を吐きつつも、それではほうしんもきまったおじいさんとおばあさんです。腹が空いていたのでとりあえずだいじょうだん に なたをかまえて 揺りかごを家の中へと引っ張り上げます。えいやっとモモをまっぷたつにきりわりました。

 やっと少し息をつけるようになったのでするとなんと なか から買ってきた弁当を電子レンジへとたまのように かわいい あかごが放り込んで適当に暖めながら封筒の中身でてきたではありませんか!を取り出します。


「あー、何々……?」「おぎゃー、おぎゃー!」


 社畜は疲れているので「こりゃたまげたわい」自然と独り言が多くなってしまいます「モモからあかんぼうなんてねぇ」。仕方がないのです。

 便箋の中身へと目を通してみましょうか。ふたりは おどろきながら あかんぼうを だきあげます。



『弟君へ

ご察しの通りかと思いますが、この子の母親はあなたの姉です。

まずはこの子を家の前へと置くような鬼畜の所業をしたこと謝りたいと思います。ゴメンナサイ。

しかし、私にも已むに已まれぬ事情があり、この子を育てることが出来なくなってしまいました。

迷惑だとは思いますし、あなたにもあなたの生活があるでしょうから、無理にとは言いません。

ですけれど、どこかの施設へと預けるよりも肉親であるあなたに育てて頂けると、私としては安心できます。

もし無理だと思うならば施設へと預けて貰っても、構いません。不甲斐ない姉を許してください

桃子をよろしくお願いします。かしこ』



 この子供と手紙はどうやら社畜の実の姉から「おぎゃー! おぎゃー!」の贈り物のようでしたあかんぼうは げんきいっぱいでした。。数年前に失踪してそれっきり姿も見せない姉君はどうにも「このこはきっとおてんとさまのつかいにちがいねぇ。わしらでそだてようじゃ、ばあさんや」厄介ごとを押してつけてくれたようです。「そうさね、そうするのがよさね、おじいさんや」

 温まった弁当を割りばしでそれからふたりは そのあかごに つつき回しながら社畜は考えます。モモからうまれた モモタロウと なづけてたいせつにたいせつにそだてました。



 今の仕事を続けながら子育てなんて不可能だ、いやもしかしたら産休とか育休とかとれるか、そもそも子供ってどうやって育てるんだよ、なんてグルグルと頭の中を駆け巡っていきます。

 この卵焼きうめぇなとかなんとか考えながら思考とお箸を動かしていた社畜ですが、そこでふと気が付くのです。


「なんで俺は家で引き取るのを前提として考えてるんだ……?」



 男には肉親はもう行方不明の姉しかおらず、モモタロウは十二ねんくらいかけてスクスクとそだっていきました。頼れる人もほとんどいません。だというのにからだもじょうぶで ちからづよくそだったモモタロウはなぜか初めからこの子を施設に預ける おじいさんとおばあさんと しあわせに という選択肢を除外していました。やまで くらしていました。

 何故なのか、と社畜は考えます。ところが そんなおりです。

 温まった梅干しを口に含み、ふもとのむらで なにやらよくないことが うーん、うーん、と唸ります。おこっているらしい

 社畜にとって暖かい家族なんていうという かぜのうわさが ものは縁遠いものでした。おじいさんたちにとどきました。

 暴力ばかり振るう父親はそれをきいたモモタロウが、六才の時に亡くなりましたし、「ぼくが すこし ようすを みてきますよ!」母親はその一年後に姉弟二人と やすうけあいをして さっそうと を残して蒸発しました。ふもとのむらへと くだっていきました。

 それから施設に預けられたそのせなかを みとどける幼き日の社畜とその姉は、 おじいさんとおばあさんの その施設で長いこと暮らししせんは ふあんげです。高校を卒業してからはサラリーマンとしてモモタロウは いさんで ブラック企業に勤め始めたのですからふもとの むらへと やってきました。仕方がないというものです。そこでみた こうけいに ぜっくしてしまいました。

 そんな彼のたった一人の肉親の姉がむらは やけおちて 自分に当てて託した子供を無下にするなんてほろんで そんなことはできなかったのです。しまっていたのです。

 がりがりと頭を掻いてため息モモタロウは あまりのことに を思い切り吐き出します。ぼうぜんとしながらも おおあわてで いきのこった


「はーっ、しゃーねーな」そんみんの そうさくに のりだしました。


 それからの社畜はお父さんさがせど さがせど いきのこりはとなって大変でした。みつけられません。先ずは会社に相談してみましたが、どこもかしこも やけおちて どうにも埒が明きません。くろいすすと ひとのやけたなので、会社の先輩に相談しニオイが じゅうまん手伝ってもらいながら転職先を探し、 しているだけなのです。子育てしながら務められるそれは それは 環境を模索します。ひどいありさまです。

 ですが、なかなかうまくいきません。だけどモモタロウはあきらめませんでした。そんな折に一つ出会いがありました。さがして、さがして、さがします。

 ボロアパートの隣の部屋にはすえたニオイの する いどをのぞきこんで、一人暮らしの女子大生とくろく やけおちた ちょっと変わった外国人なやを おしのけて、の夫婦だったのです。けんめいにさがしました。

 その人たちに手伝って貰いながら、ひがくれても、ひがのぼっても、幼い桃子の面倒を見つつのひたすらに さがしつづけました。転職活動を続け、ようやく賃金はそして、たいようが たかくなった あまり良くないけれどころに なってその代わり時間に融通の利くようやく ひとりのそんみんを職場を見つけることが出来ました。みつけだすことが できました。

 そうして、四苦八苦し、「ぶ、ぶじですか!?いろいろな出会いを経験し、いったいこのむらになにが……?」人の手を借りながらお父さんはどうにかこうにか桃子を育てていきます。

 どうやら桃子はとても聡明な子ねんれいに にあわぬ のようで、他の子よりも発育も良く、れいぎただしい くちょうで 言葉も早くに覚えて、小学校に上がってからうめくそんみんを だきかかえ は成績もよく素直なかいほうしながら、いい子に育っていきます。モモタロウはといかけました。

 そして、桃子が十歳になったときすると どうでしょう、にお父さんはもう一度転職し、そんみんは パクパクと とても忙しく、だけれどお給金がくちをうごかすばかりで こえがでません。沢山もらえる職場へありつきました。モモタロウは りかいしました。

 そのころになると桃子は一人でご飯も作れるなので、みずをと かんがえてから、ようになっていましたから、一人家へといどからは すえたニオイが置いておく心苦しさを考慮しなければしていたことを おもいだしました。何とかなる状態ではあったのです。あのみずは きっと どく です。

 お父さんは沢山働いて、休日は桃子のことをモモタロウは ちょっかんてきに りかいし、目いっぱいかわいがります。まさに無私の人それから うんうんと あたまを ひねりでした。ます。


 愛情を沢山注がれて育った桃子はお父さんが大好きでした。


 桃子が中学生になるころには、そんなモモタロウは おじいさんとおばあさん、一人の寂しさにも慣れて来て、朝早くにやまでの さんにんぐらし でしたので、出かけて夜遅くに帰ってくるあまり がくが ありませんでした。お父さんをきちんといたわってですから どうしていいのか さんざんあげられるまでになります。なやむはめに なってしまったのです。

 しかし、別離とは唐突なものでした。そしてようやっと たってから モモタロウは けつだんします。

 それは桃子が十六歳になったときの出来事むらびとをせおい、やまを かけあがって です。いきました。

 突然、『鬼』と呼ばれるむらの みずが のめないの ならば、一団が街を占拠しました。のめる みずを のませれば よいと いたりました。

 鬼たちはほぼ人と変わらぬ姿形をしていて、モモタロウはいそぎました。とてもとてもいそぎました。だけど人よりもずっとずっと強かったのですというのも、そのむらびとは だんだんと つめたくなって いくのです。

 そいつらはまごうことゆっくりと、でも かくじつに いのちの ひがなき略奪者でした。 きえていく かんかくが つたわって くるのです。

 そして偶の休みを利用してショッピングモモタロウは あせりました。あせって、あせって、に出ていた桃子とお父さんは運悪くなんども やまのなかで ころびそうに なりながら、そいつらに襲われてしまったのです。それでも かけあがって いきました。

 お父さんは桃子をかばって倒れ、そうして いそぎあしで ひがくれるまえに なんとかそのまま息を引き取りました。おじいさんとおばあさんが すむ やまのいえへと かえりついたの です。


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