本当に怖いホラーは現実だ

今はちょっと落ち着いたホラーブームであるが、いっときかなりホラーにハマってた時がある。

角川書店がちょうどホラー文庫を発刊した頃だ。モダンホラーといわれる名前の通り、現代的なホラーが次々と発表された。


鈴木光司のリング、貴志啓介の黒い家、瀬名秀明のパラサイトイブ‥新しい恐怖ともいうべき作品が注目を集めた。

私的にはホラーの巨匠、スティーブンキングがこれらの原点だと思っている。


彼の初期の作品、呪われた町は吸血鬼を現代の視点で蘇らせた作品だ。ヨーロッパの古城で夜な夜な血のエクソシズムを行うドラキュラをアメリカ南部の片田舎に舞台を移し、現代的な怖さを見事表現してみせた。


過去の吸血鬼作品は人々に恐怖を与える存在で、ある程度の認識があった。だがこのキングの作品にはそれがない。

吸血鬼に噛まれた症状は病気であり、吸血鬼をみたものは幻覚とか精神の疲れにされてしまい、誰もその存在がわからない。

次々に犠牲者が出てきて初めて疑問が浮かぶ。


この怖さは吸血鬼ではなく、人間の無知の怖さである。そこがモダンホラーとしての由縁である。

キングのこの作品に触発されて小野不由美が書いた屍鬼はさらにそれを浮き彫りにする。

この作品は京都に近い郊外に舞台を移し、ほぼよく似た設定でストーリーが進んで行く。


しかし無知という怖さ以上の恐怖がここには仕掛けられている、それは人間の恐怖だ。吸血鬼やゾンビである屍鬼の存在を把握した人間は逆転へと生じる。

殺戮しまくる人間の描写は吸血鬼以上のホラーである。キングの作品と一線を画すのはこの恐怖感なのだ。


モダンホラーは恐怖をいろんな面から表現してみせた。

本当に怖いホラーとは?それがあくまでホラーというジャンルのテーマにあった。

ところが、現実の恐怖はそれを超えてしまったのではないかと思う。


80年代の宮﨑勤事件、90年代の酒鬼薔薇事件、池田小学校殺害の宅間事件、秋葉原の加藤事件など、最近の植松容疑者の相模原殺人事件は小説に登場するサイコパスを超えている。


我々は今やホラー小説でなく、いつ誰もが遭遇するかもしれない現実、それこそが最大のホラーなのかもしれない。



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