第6話 実践訓練(中)
ザック、ホア、シュラの三人に周りを囲まれたセイヤ。
逃げようにも逃げることができない。周辺には人がいる様子もなく、誰かと遭遇することもなさそうだ。といっても、セイヤと遭遇したところでセイヤに加勢するものなどいないのだが。
三人はセイヤのことを蔑みの目で見る。
「アンノーン。楽しい戦闘を始めようぜぇ」
「サバイバルだからなぁ。みんな敵だ」
「でもまず誰か共闘しないか~? まず一人倒そうぜ〜」
「そうだなぁ。じゃあまずはアンノーンからだな!」
わかりきっていた茶番を繰り広げた三人は、セイヤに向かって次々と魔法を行使していく。
「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『
「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『
「我、風の加護を受ける者。今、我に風の加護を。『
三人の行使した魔法が次々とセイヤのことを襲い、火の弾や空気でできた刃がセイヤの体に次々と傷を負わせていく。
「くっ……」
セイヤは双剣ホリンズでその攻撃を防ぐが、行使された魔法の数が多すぎるため、致命傷になる攻撃だけを防ぐので精いっぱいだった。
無数の攻撃の嵐を受けているセイヤだが、その体に傷などはつかない。
なぜなら訓練所に張ってある特殊な結界のおかげだ。しかしダメージ自体は精神に行くため、セイヤは苦悶の表情を浮かべる。
三人が使っている魔法はいずれも初級魔法に分類されるが、魔法を満足に使えないセイヤにとっては強力な攻撃だった。
今もどうにかホリンズで攻撃を防いでいるが、いつセイヤの集中力が切れてもおかしくはない。
「どうしたぁアンノーン? 反撃しないのか?」
「それとも反撃できないのかぁ?」
「そういえばお前魔法使えなかったな~」
「「「ギャハハハハハ……」」」
セイヤが守りに徹している姿を見て、大声をあげながら笑う三人。確かにセイヤは魔法が十分に使えなかったが、三人程度のなら反撃することは可能である。
けれどもセイヤは絶対反撃はしないと決めていた。
もしここで反撃でもした場合、普段からきついいじめが更にきつくなってしまう。ザックはそういう男だとセイヤは知っている。
そしてザックたちもまた、セイヤが反撃してこないことをわかっていた。
「我、光の加護を……うわぁぁぁ」
「ハハッ、アンノーンしっかり詠唱しないと魔法は出ないぞ?」
「うっ……」
「ザックどうする? とどめさすか?」
「いや、まだだ。まだまだ戦闘しないとなぁ。ギャハハハハハ」
反撃はしないが、防御魔法で自分の身を守ろうとしたセイヤ。しかし詠唱が完了する前に、強制的に詠唱を中断させられてしまう。
ザックたちはセイヤが反撃してこないことをわかっていたため、防御を考える必要がない。だから思う存分セイヤに攻撃することができ、防御させる気など全くない。
そんな中、セイヤのことを痛めつけている三人だったが、ザックだけは心の底から歓喜の笑いを上げていて、他の二人とは何かが違っていた。
普段では見たことがないザックの姿に、ホアとシュラは少しだけ戸惑う。
ザックの様子がおかしいことはセイヤも薄々感じていた。いつもなら気が済んだらすぐにセイヤのことをリタイヤさせるというのに、今日だけは違っている。
セイヤのことを痛めつけても、痛めつけても、満足した様子はなく、攻撃を続けているのだ。
そんなザックの様子を見て、セイヤはこのままだと自分の身が危ないという事を理解する。しかし防御しようにも、防御魔法の発動など三人が許してくれるわけもない。
いまだ数々の攻撃がセイヤのことを襲う中、セイヤはある手段を考える。
それはいつも三時間目に練習している魔法。
一度も成功はしていないが、あの魔法ならこの状況を打開することができるとセイヤは確信していた。
成功するかなんてわからない。
けれども、ここであの魔法を使わなければいけないとセイヤは本能的に感じた。
双剣ホリンズで致命傷になりそうな攻撃を防ぎながら、体内で光属性の魔力を錬成し始めるセイヤ。焦る必要はない。そう自分に言い聞かせて、セイヤは落ち着く。
「アンノーンがなんかしようとしているぜ」
「どうせ不発だろ」
「無駄なあがきをするね~」
三人はセイヤが何かをしようとしていることはわかったが、詠唱をしていないため、魔法が発動するわけがないと確信していた。
理論上、無詠唱での魔法の行使は可能だとされているが、そんな芸当ができるのは一部の力を持っている魔法師だけだ。そしてセイヤはそのような魔法師ではない。
並の魔法師が詠唱破棄をするには、魔晶石と言う補助具が必要になるが、目の前にいるセイヤが例え魔晶石を持っていたとしても、使えるとは思えない。
つまり、セイヤが無詠唱で魔法を行使することは不可能である。ザックたちはそう思っていた。
「ふぅ……」
セイヤは落ち着きながらも、心の底ではかなり焦っていた。もし今から行使する魔法が成功しなかった場合、自分がどうなるかわからない。
今のザックの様子を見る限り、下手したら自分はザックに殺されるかもしれない。そんな恐怖がセイヤの魔力を高めていく。
セイヤの魔法が発動直前になって、三人はようやく気付いた。セイヤがやろうとしていることは詳しくわからないが、セイヤから感じる魔力がいつもと違うという事に。
焦った三人はすぐに追加の魔法をセイヤに向かって行使する。
「『
「『
「『
三人がセイヤに向かって行使した魔法はセイヤに被弾するはずだった。しかし次の瞬間、さきほどまで苦悶の表情を浮かべていたセイヤの姿が、一瞬にして三人の視界から消える。
「「「何っ?」」」
三人は自分たちの行使した魔法がただ地面に当たり、砂煙を上げる様子を見ながら固まる。それは何が起きたか理解できなかった故の結果。
セイヤの姿を捉えることはできなかったが、セイヤがリタイヤしたわけではないということ理解する三人。
三人はすぐに周りを見渡して、セイヤの姿を探すと、セイヤの姿は三人の後方の少し離れたところにあった。
体中を光属性の魔力に包まれていて輝いているセイヤ。正確に言えば、セイヤが光属性の魔力を纏っていると言った方が正しいだろう。
(いける!)
セイヤは心の中で魔法が成功していたのを喜ぶ。
セイヤが使った魔法はセイヤのオリジナル魔法『
防御もできず、反撃もできないのなら、ただ攻撃を避ければいい。セイヤはそう考えて、『
結果は見ての通り、ザックたちは誰もセイヤの移動する姿を視界に捉えることができなかった。
「アンノーン……」
ザックが怒りを丸出しでセイヤのことを睨む。防御するのでもなく反撃を受けたのでもなく、ただ避けられた。そのことが、ザックにとっては一番の屈辱的なことであった。
攻撃に全神経を注いでいたザックはセイヤの姿に集中していたにもかかわらず、それでもセイヤの動きを捉えられず、あまつさえ背後まで取られてしまったのだ。
しかもセイヤの使った魔法をザックは知らないし、聞いたこともない。アンノーンであるセイヤに自分は劣った。
その事実はザックにとっては本当に許せないことであった。
「調子に乗っているんじゃねーよ! アンノーンごときが! 我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『
セイヤに向かって『
そしてセイヤはザックの攻撃を悠々と回避をする。そのことがさらにザックの怒りを募らせるが、セイヤは気にしない。
もう、ザックたちの攻撃が当たる気がしなかったから。
「おい、お前らも攻撃をしろ。三人で行くぞ」
「おっ、おう」
「う、うん」
ザックの鬼のような形相に驚く二人。だがすぐにセイヤに向かって魔法を行使する。
「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『
「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『
「我、風の加護を受ける者。今、我に風の加護を。『
三人からセイヤに向かって放たれる火の弾や風の刃だが、『
「ちっ、なんでだ」
セイヤに攻撃が当たらないことにさらに苛立つザック。
(やっぱり、遅い)
先ほどまでとは信じられないほど、自分が強くなっていると感じたセイヤは、このまま反撃できるのではないかと思う。
『
(なら、やるしかない)
反撃を決意したセイヤは、両手に握るホリンズでザックたちに斬りかかろうとする。いまだザックたちはセイヤの速度に反応することはできていない。
これなら三人相手でも問題なかった。
「えっ?」
しかし、まずはザックからと思い一歩目を踏み出した瞬間、セイヤは急激に体が重くなっていくのを感じる。そしてそのまま足をもつれさせてしまい、地面に倒れこんでしまった。
「どうして……」
いつの間にかセイヤの体に纏っていた光属性の魔力は姿を消し、『
「そんな……」
「よぉ、アンノーン」
『
その瞳には憎悪の念が渦巻いていた。
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