第12話

(フラれた)

 別にそういうのじゃないだろ。

 彼女を追って、自動改札機へ。

 やべっ、カードの残高足りない。

「不足いくらですか?」

「30円ですね」

 小銭入れから十円玉を三つ取り出すと、駅員に渡すと、

「どうぞ」

 駅員に促され、改札を出る。

(こっち、こっち)

 意外に心配してるじゃん、みゅーちゃん。

 今、行く。

 そこからダッシュでみゅーちゃんの、そして若宮キズナの後を追いかける。

 バスターミナルを抜けると、タクシー乗り場、それに続いて送迎用自家用車の停車場所の掲示があった。

 しかし、キズナはそれすら通り過ぎて、駅前交差点の信号のほうへ向かっていた。

 信号が青になる。

「危ないっ」

 前に踏み出そうとしたキズナの手を握り、引き戻す。

 スピードを出したワンボックスカーが彼女の鼻先を通り過ぎる。

「大丈夫?」

「ええ」

 俺は再び車が来ないかどうか、確認する。

「取り敢えず渡ろう。信号が青のうちに」

 そういうと、俺は彼女の手を握ったまま、歩き出す。

 渡りきったところで、彼女は、

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありが…………」

 その声は途中で届かなくなった。

 首の辺りに強い衝撃を受け、俺は崩れ落ちる。

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