第13話
「危ないところでした、キズナお嬢様」
「ノエルさん、訂正して下さい」
「いかがわしい男でした。つけられていたんですよ」
「違います。わたくしを心配して追ってきたんです」
真っ暗だった。
ぼんやりする意識の中で、キズナの弱々しい声と、『ノエル』という名前らしき女性の声、そして車のロードノイズが耳に飛び込んでくる。
「わたしは反対したんですよ。キズナ様のようなかわいらしい方が人々の好奇の目にさらされる『声優』なんてものになるのは。あのような不逞な輩は出るべくして出たのです」
(あ、やっと気がついた)
いきなり視界に、ぼんやりとしたみゅーちゃんがあらわれる。
(いきなりメイドさんの手で車に放り込まれた時にはびっくりしたけどね)
「ふぇーどぉ?」
メイド、と言おうとしたところ、さるぐつわをされていて声が出ない。
(とりあえず、そのメイドさんとキズナの会話を要約しておくと、キズナはすごいお嬢様ってこと)
そりゃ。メイドがいるくらいだからね。
(メイドさんは、キズナが声優になることには反対だったらしい)
まぁ、普通は反対するだろうな。
(あと、裕紀のことを変質者呼ばわりしていた)
そりゃそうだろ。
(それだけ)
それだけかよ。
(だって、裕紀がすぐに意識が戻るんだもの)
俺が悪いみたいに言うな。
(悪いわよ、ストーカー)
お前がけしかけたんだろ。
(へへっ)
てへぺろ、かよ。
で、この車、どこへ向かっているんだ?
(さぁ? キズナの家なんて知らないし。それにしてもこの車、リムジンだよ。しかも外車)
リムジンだろうと、トランク内は狭いが。
(駅からすぐ一本道に入って、そこからずーっと家がないのよ。なんか、変じゃない?)
もしかして……。
(ありうるわね。裕紀が私の幽霊仲間になってくれるっていうのが)
山林で殺して、そこで埋める。見つかるのは台風で土砂が崩落した時か? 二時間サスペンスドラマのお約束が脳裏に浮かぶ。
(ま、私のために死んでくれるのなら、結婚を検討してもいいかな?)
命かけても『検討』って。
(冗談よ。裕紀が殺されそうになったら命がけで阻止する)
かける命はもうないけどね。
(ちょっと、外を見てくる)
突然、みゅーちゃんの頭だけが、消えてなくなる。
(キズナ、あんたどこへ行こうとしてるの? あっ、お城が見えてきた)
キズナさん、ヘトヘトで移動して、観光か? いやいや、それとも次のロケ地か。最近多いからな、声優のロケ・バラエティ。
(若宮、って……これが家!?)
「着きましたよ、お嬢様」
「ええ、それよりも……」
キズナ、いや感覚的には夢見レムの声にドアが開く音が混じる。
「ノエルさん、彼を解放して下さい」
「お嬢様が気にする必要ありません!」
「とにかく、おねがいします」
「お嬢様が頭を下げられるなんて……」
舌打ちの音がすると、視界に光が溢れ出す。
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