第8話

「それで、俺に取り憑いた、と」

(魔法少女にしてよね、裕紀)

 無理だろ。

 オンエアも残り二回。出番も決して多くはないだろう。

 そして……。

 もう、この呉羽みゆきという素晴らしい声優の声がマイクに吹き込まれることは永遠に失われたのだから。

(無理って言わないの。『奇跡は必ず起こる、魔法は絶対ある』)

 それは夏海(厳密に言えば山川ちなつさんだ)が、アニメ次回予告の最後に必ず言うセリフだった。

(ファンが応援してくれなきゃ、奇跡も魔法も起こらないよ)

 そう口を尖らせて言う、ふて腐れた幽霊を見て、俺は苦笑した。

「わかったよ。無理かもしれないけど出来ることをやるよ」

(ありがと、じゃ、プレゼントあげるっ!)

 俺の言葉に目を輝かせて近寄ってくる。

 キスか?

 キスなのか?

(この前、『星遣いのなっちゃん』の再放送やってて、録画したけど忙しくて見る間がなかったの。一緒に見ない?)

「いいよ」

(じゃ、私の家まで一緒にデートしましょ)

 つまり、東京まで取りに行け、ってことかよ!

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