第7話

(じゃあ、最終回に少しだけ登場した、夏海の最終変身バージョンにしようかな)

「よっ、マニアック」

(でも、私はあまり好きじゃないけどね。夏海は夏海らしさを貫いて欲しかった。他のアニメのテコ入れみたいなのではなく、……魔法じゃなくて生身で物事に向き合っていた感覚を最後まで共有したかった)

「打ち切られなかったときの新展開用のコスチュームだったらしいよ。なんでも、エルフの力でパワーアップするっていう設定らしくって、その設定画から無理やり起こしたから、意味も無くエルフ耳になってたって」

(それ、知らなかった。というか、当時、エルフ耳だってことも気がつかなかった)

「ふふっ、俺はエルフ耳に気づいたぞ。ただの作画ミスだと思い込んでいたけど」

(師匠と呼ばせてください!)

「ならば、本来『エルフィナル・ナナミー』という名前だった最終回バージョンに変身だ、みゅーちゃん」

(らじゃー)

「違うよ、みゅーちゃん。夏海役なんだから」

(空にきらめく星に誓って!

 ラブリー・シューティング・スター。流れ星のようにどこまでも、太陽のように暖かく、月のように陰ながら、北極星のように常に宇宙の中心で輝く星、流星少女ナナミー、変身しますっ)

 朗々とした、変身の呪文。少し戸惑った雰囲気を描いた山川さんの演技とは違い、力強く迷いのない発声。これはこれでアリだと思う。

 変身アイテムである、星のかけらのペンダントはないけど、ありすの着物姿がはだけ、一糸纏わぬみゅーちゃんの肢体があらわになる。俺は目許をふと覆うも、その隙間から彼女を凝視していた。

 大きめの胸の膨らみ。そこに本来の青いコスチュームではなく、最終回だけの緑と白のコスチュームが覆いかぶさる。先端に星の飾りがついた三角帽子とブーツ、虹のように七色のストライプの入ったマント、星のピアスを次々に装着していく。髪の毛がふんわりと青色になり、見開いた目には黄金に輝く星形の瞳孔。

(宇宙の果てまでも私の愛を届けますっ)

 顔かたちこそみゅーちゃんで、指摘したエルフ耳ではないけど、まごうことなき夏海、いやナナミーがそこにはいた。

(さすがに顔までナナミーにするのは、先輩に失礼かなって)

 最後に、ロケットのノズルを先端に備えた大きなステッキを手にしたみゅーちゃんは少しはにかんだ。

(それにしても、リアルな変身。自分が魔法少女になったみたい。変身とポルターガイスト以外は使えないけどね)

「それだけできればじゅうぶん『魔法少女』だと思うけど」

(いや、まだ幽霊、だけど……)

「だけど?」

(一年後、ファンを二千人呼び寄せたら、私、本物の魔法少女になれるの)

「なに、それ?」

(だって、魔法じゃない? 確かに、アニメの影響でCDは売れた、名前は多少認知されたけど、熱心なファンって裕紀だけ)

 俺だけなの? 声優オタク、アニメオタクって見る目がなさすぎやしないか?

(しょうがないわよ。声優ってアニメ・キャラクターの従属物だもの。人気キャラを演じたキャストが人気声優だし、そのキャラクターの人気で次の仕事がとれるんだから)

 突然にリモコンが机から落ち、床に接触するとテレビがアニメーションを描き出した。

 夕方の児童向けアニメ。

 未だ、……いや永遠に辿り着くことのないみゅーちゃんの仕事場(フィールド)。

 そこに描き出されたのは、若宮キズナが演じるもう一つのヒロインだった。

(キャラの名前が「みゆき」なのよ、ホント、もうっ)

 テレビのキャラとにらめっこして、挑発のポーズをとるみゅーちゃん。

(子供向けアニメもやりたかったなー)

 カードゲームを題材にした販促アニメ。『キミとはぁ~♡れむ』の製作委員会にも名を連ねる玩具メーカーのカードを、テレビの中の「みゆき」は手にして、派手なバトルを繰り広げていた。

(カードゲームものはあまり好きじゃないけどね)

「そう、なんだ……」

(『星遣いのなっちゃん』みたいな魔法少女ものがやりたかった。ファンをもっと増やしたかった。それが、未練)

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