ころしあい
純鶏
第1話 かぞくあい
ソファーに座る少女。最近流行りのアニメを見ながら、少女は時間を潰していた。
名前は“
今日は8月23日。週末の土曜日の11時15分。友達が昼食を食べにくると言うので、今に来ないかと待っていた。
「ねぇねぇ、まみねーちゃん!」
5歳になったばかりの少年が、ソファーに座る麻美に声をかける。そんな少年に対して、麻美は嫌そうな表情を浮かべて少年を睨む。
「なに? なんか用なの?」
「えっとね、さっきママがよんでたよ」
睨まれても、5歳の少年は全く気にせずに話をする。むしろ、麻美と話しすることが嬉しそうに語っている。
なんて気持ち悪いの。頭にそうよぎった麻美は、眉間にシワを寄せて露骨に嫌そうな顔を少年に向ける。
「どしたの? ママ、よんでるよ? いやなの?」
5歳の少年は、不思議そうな感じで麻美にそう言った。
麻美は、母親に呼ばれたことを嫌がっているのではなく、弟に話しかけられたことが嫌だった。それなのに、目の前の弟がそのことを勘違いしていることに、余計に頭にきていた。
「うっさい! 違うわ!! 話しかけんなバカ!!」
近くにあったリモコンを放り投げて、弟の腹に当てる。
しかし、麻美の投げた力がそこまで強くはなかったためか、5歳の少年は少し顔を曇らせただけで、その後はあまり痛そうにしていなかった。
そんな弟を見た麻美は、余計に腹がたっていた。敵である弟。いなくなって欲しい弟。弟が苦しむ姿が見たいのに、怖がる姿が見たいのに、弟はあまり気にしていない。
今もまた不思議そうな表情を浮かべる5歳の少年。段々と苛立ちの表情を浮かべる8歳の麻美。
テレビに映っているアニメでは仲睦まじく遊んでいる兄妹の姿。しかし、現実であるこの部屋では、とても険悪な雰囲気を放っている。
「おまえ、マミに話しかけんじゃない。気持ち悪いんだよっ!!」
麻美は5歳の弟を両手で突き飛ばす。さすがの5歳の少年も、8歳の麻美に押されては倒れてしまい、床に尻餅をついてしまう。
そんな弟を無視して、麻美はリビングの扉を開ける。今から、母親のいる部屋へと向かう。
「まって、まみねーちゃん!」
「マミの名前を呼ぶな!!」
「ママいってたんだ。パパがかえってくるって」
「うぇっ!!」
5歳の少年の言葉に、麻美は心臓が止まるかの勢いで驚く。硬直したまま、目を見開いて、床をただ見つめる。
「う、うそ……だ!?」
麻美の体が段々と震えていく。恐怖と焦燥の感情が麻美の心を支配していく。
このままでは、最悪なことになる。いいや、最悪どころの話じゃない。全てが終わってしまう。そう思った麻美は、リビングの中にある壁時計を確認する。
時刻は11時20分。11時に来ると約束していた友達はまだ来ない。
だけど、今に来てしまう。友達もあの男も。
「ど、どうしよう。え、どうする? え、ええ、うそ……」
麻美は涙目になって、ひどく困惑していく。周りのことなど気にせず、床を見てはぶつぶつ独り言を呟いた。
「だから、ね。まみねーちゃん」5歳の少年はそう言いながら立ち上がる。「ぼく、がんばるよ」
5歳の少年の言葉など耳に入っていない麻美は、ただひたすら床を見て、この後のことをどうするか考えている。
そんな麻美に、5歳の少年は近寄っていく。近寄って、顔を寄せて、麻美の耳元まで顔を近づける。まるで、秘密事でも話すように。5歳の少年は、優しく囁いた。
「ぼくね、まみねーちゃんのために、パパころすんだ」
5歳の少年の言葉を聞いて、麻美は視線を床から弟の顔へと向ける。
笑っていた。嬉しそうに、楽しそうに、屈託のない笑みを浮かべ、麻美を抱きしめる。
「ふふっ、まみねーちゃん、だぁいすき! だいすきだいすき! へへぇっ」
その瞬間、5歳の少年は麻美の口を奪う。麻美にキスをしては、また麻美を抱きしめる。
「だから、まみねーちゃん」優しく、甘える5歳の少年の声。
「うっ」
5歳の少年はまた麻美の耳元で囁く。麻美は悪寒と気持ち悪さで頭がいっぱいに埋め尽くされ、真っ白になっていく。
インターホン音が家中に響き渡る。きっと、誰かがこの家に来たのだろう。麻美の友達か、それとも父親か。でも、5歳の少年は気にせず、言葉の続きを話す。
「ママをころして。ぼく、ママだいきらいだから……まみねーちゃん」
そんな麻美に対して、5歳の少年は麻美にとって残酷な言葉を告げる。
2階から母親の部屋の扉が開く音。家の玄関の扉が開く音。テレビのアニメの音。たくさんの音が家の中で聞こえてくる中、その音に邪魔されないように5歳の少年は麻美の耳に言う。
「ぼくと、ころしあいしよ?」
ころしあい 純鶏 @junkei3794
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