僕は死んだけど

@syunn

第1話


とおりゃんせ、とおりゃんせ、此処は冥界(めいかい)への道だ。


死人しか通れん。


あんたが歩いているのは、死者の道。


つまり、お前は死んだんだ。


とおりゃんせ、とおりゃんせ、遠慮はいらない。


早く、あの船に乗りなされ。



「あの船は?」



おんやぁ?


珍しいな死人が口を聞いた。


あの船は冥海(めいかい)を渡る船だよ。お前を天か地に誘うのさ。



「ここは、冥界へと続く道だろ?なら、船なんて乗らなくてもいいじゃないか?」



本当に珍しいな、字が違うのさ。


此処は死者の道。


名は冥土、死者が踏める最後の道さ。


そこから、死者の海、冥海を渡り、死者の世界、冥界へと行くのさ。



「なんだか、面倒くさいな。僕は頭を使うのが苦手なんだ。」



だったら、聞くな。


知らずとも、何も変わらぬ運命だ。


あの船に乗り、お前は死へと辿れば良い。



「辿る?辿らなければ、僕は死なないのか?」



頭を使うのが苦手なのでは無かったか?


まったく、死人と話すのは何千年ぶりだろう…。


お前は今、魂なんだ。


だから、現世へ戻ることがそりゃ出来る。


だが、現世のお前の身体はどうだろうか?


魂を戻しても一瞬の激痛か、戻れず現世で彷徨うか。



「なんだ、どちらにしろ死ぬのか。僕の人生は呆気なく終わったんだ。嫌な気分だ。」



なんだ?


現世に未練でもあるのか?


女々しい男だな。なら、良い事を教えてやろう。



「良い事?」



私と冥約を結び、とある事を頼まれて欲しい。



「冥約?とある事って何だ?」



私は死神。


今まで、幾多となく死者を見てきたが、お前のような者は初めてだ。


興味が湧いた。


頼まれて欲しいのは、私の恋人を探すということだ。



「貴女の恋人を探す?」



現世に居るのだ。


死に切れず魂となり、彷徨い苦しんでいる。


彼を助けてくれるなら、お前の魂が定着できる肉体をやろう。

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