ライバル

第6話 一振りの剣

「こわいもの?」

僕はリリちゃんが何を言っているのか分からなかった。

「そう。怖いの、まるで人間じゃないみたい」

リリちゃんは頷いて言うが、僕は全く要領ようりょうを得ない。

そこで、ナリアさんがリリちゃんに向き直った。

「ライト君。時間まで少し時間をもらっていいかしら」

「はい」

「ありがとう。リリ?あなたの言葉で説明できるかしら?」

「わかんない…だけれど、悪いものに取りつかれているみたいに、

人間らしくないの。私の知らない感情に縛られてる。それに」

ナリアさんが次第に目を見開いて、ついに言葉を発した。

めて、リリ!その人それは見ちゃダメ!」

「とっても、すごく、強いの…」

ふらりとリリちゃんは体勢を崩した。

「わ、ああっ!」

僕が咄嗟とっさに受け止めたが、リリちゃんは気を失ったままだ。

「リリ…」心配そうな母親に小さな娘を返した。

立ち直ったように見えるナリアさんは、僕に言った。

「ライド君。あなたはロビーに向かってちょうだい。私は

リリを寝かしつけてくるから」

「…分かりました…」

少女は、弟子を連れた母に抱かれて去った。


重い足取りながら、僕はホテルのロビーへと向かう。


「やあ、ライド。…そんなに暗い顔してどうしたんだい?」

ロビーの隅の一人掛けソファーから、ギートさんが手を振っている。

僕はテーブルの向かいに座って、先刻にあったすべてを話した。


「…そっか、リリお嬢さんが…。…ライド」

「は、はい!」

いきなり名前を呼ばれて驚いた。

「リリお嬢さんが言ったことは、おそらく本当だ。感じないか、

この変な空気を」

…確かに、ロビーに最初に来た時と空気が違う。何だか慌ただしいのだ。


「そうですね…。何だかピリピリしているような」

この空気の原因であるものが敵であるとは思いたくないな。

この無駄に感じてしまう焦燥感しょうそうかんは、魔物と戦った時に感じたものと

似ている。


「僕は早く退散することにするよ。これが研究のレポート。

白い方の石は、一部朽ちかけていてね。そこをいじったら、

まったく質が違う石が入っていたよ。とりあえず…すまん」

いや、その点(研究上の過失)は契約上、同意していましたよ。

「大丈夫です。ありがとうございました」

僕は僅かな代金と、質金トレードコイン(盗まれないように、物を人質

ならぬ物質ものしちとして。)が入った茶色い封筒を渡した。

「じゃあ、僕はこれで。元気でな」

「ありがとうございました」

僕は席を立ってギートさんの背中にお辞儀をした。


「ライド君!」この声はナリアさんだ。

「ナリアさん。リリさんは…?」

リリちゃんの顔が浮かんでしょうがなかった。倒れてしまったが、

どうしているのか。

「大丈夫よ。気絶してしまったけれど、明日には目が覚めるでしょう」

僕は、この人は強いんだと思った。後から考えてみると、この人も

心配だったから、その故に強がっていたと思う。

「そうですか…ところで、どうしたのですか?」


「リリが察知した怖いものと言うものの、位置が分かったわ。

あなたは北の関門所からはいったのでしょう?

その怖いものと言うのが、その北の関門所の、外辺りから力を感じるらしいわ」

ナリアさんは脇に持っていた剣を取り出して言った。


「見た所、剣の腕がたつでしょう?私のを一振りあげるわ。

その代わり、ついて来てもらうわ。いいかしら?」


毎日磨いてもらっていたと見える剣は、隠しきれない傷を持ちながら、

青い光沢を持っている。女性の剣にしては、頑丈だ。

それに、確かに剣の腕が素人だとは言わない。強いライバルを

持ったために鍛えられていたのだ。


「…行きます」

「ありがとう。時間が無いわ、北の関門へ行きましょう」

二人は武装して北関門所へと急いだ。

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