10:『突入準備 I』

 特別任務を言い渡された日から、毎日のノルマが免除された。

 岸川先輩が大量の資料と共に畳がある部屋に立て籠もった為、本来の部活動も出来なくなってしまった。

 AK47使いの内村先輩は弾薬の確認をすると言って出て行ったきり帰ってこないし、接近戦担当の二人(小竹しの先輩と美咲)は自分たちのナイフだけでなく、ここにあるサバイバルナイフからツールナイフなどを片っ端から研いでいた。はっきり言って怖い。

 修司はVRホラーゲームをしており(全くもって笑えない)、由岐は自分のベッドで昼寝とか仮眠とかでななく、ガチ寝していた。

 沙織先輩は何をしているのかと思えば、液体火薬で炸裂弾を自作しており、田所先輩は本を片手に船を漕いでいた。

 皆さん素晴らしく肝が据わってらっしゃる。心が落ち着かないのは僕だけか、と遼介は小さくため息をついた。

 

「あー、諸君。傾注!……って、内村先輩と利子は?」

 目の下に真っ黒なクマを作った岸川先輩がようやく部屋から出てきて言った。

「誰か呼んできて……ほら、遼介行け。5分以内。」

 僕は犬か、と思いつつ、皆でたむろしている部屋のドアを開けた。


 ――開けたら、向こう側にミスター・スミスと林先輩と内村先輩がいた。

「……探す手間が省けました。」


「なんで来たのみすみす。」

 岸川先輩があからさまに嫌そうな顔をして言った。

「まあそう言うな。提出した計画書がデタラメだってことは分かってたから、ミーティングに顔を出そうと思ってな。そこにこの子が来たから、付いてきたんだ。」

「ストーカーか貴様は。まあいい。みすみすは居ない物として扱うから。それに、作戦バラしたら、職務放棄するから。」

「……心得た。」


「分析の結果……ここはハッキリ言おう。敵を殲滅せんめつする事無く調査するという、要請通りに任務を遂行する事は不可能に近い。決死隊けっしたいに突入させて、データを取るだけ取って脱出出来ずに殉職じゅんしょく……って感じになると思う。」

 岸川先輩がこともなげに言った。

 沙織先輩と田所先輩も、まあそうだろうなあと頷く。

「もちろん、こちらとしては殉職じゅんしょく者を出したくない。ただでさえもう何人もいるし……これ以上減ると、色々とキツイ。――そこでだ。」


 手に持った資料をパシッと叩く岸川先輩。

「命令は無視する。やってられっかこんなの。」


 ちらりと横目でミスター・スミスを見ると……案の定、頬を引きつらせて固まっていた。それはそうだろう。自分の目の前で命令違反宣言をされたのだから。

「歩美、焦らしてないで詳しく。早く。」

 田所先輩が言った。岸川先輩が最初に素っ頓狂な事を言って、それを後から説明するという話し方は、それと知っていても乗せられやすい。


「つれないなあ田所先輩は。――作戦を説明する。」

 ぴり、と部屋の中に緊張が走った。岸川先輩も、肝心なところは真面目になる。それは小竹しの先輩にも言える事で……いつもは口を挟んでばかりなのに、今回は珍しく無言だった。

「要は、発生源の停止方法が分かればいいんだよ。みすみす達の考えは、多分、をコントロールしたいってだけだから。」


 岸川先輩の目が、怪しく光った。


 

 

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