9:『作戦』

 遼介は、他の茶道部の部員と共に2ヶ月前一度だけ入った会議室の椅子に座っていた。前回と違っているのは、軍の人達の人数が多いことと空気が妙に軽いことだろう。不謹慎かもしれないが、いいかげんこういった緊張にも慣れ過ぎていた。

 田所先輩は、岸川先輩の読み通り武器のメンテナンスをしていて、沙織先輩の話を伝えた時は何も言わず片付けて呼び出しに応じていた。そのほか、現実世界にいた部員も全速力で集合した。なにせの一分がこちらでは六十分なのだ。

「さて…諸君。突然呼び出してすまないが早速話を始めさせてもらうぞ。」


 前にあるホワイトボードの前に座っている、ミスター・スミス(恐らく偽名だろう)が立ち上がって言った。

「以前から調査を進めていたについてだ。―『孤島』中心部の市街地区に、発生源らしき場所を発見した。」


 部屋の中が騒然とする。沙織先輩も聞かされていなかったのか、眉がぴくりと動いていた。

 岸川先輩が言った。

「みすみす、それで私達はどうすれば良いの?」

 正直、これほどまでに冷や汗を掻いたことは無い。目の前にいる人は明らかに軍人で、偉い人で、っていうか『孤島』の責任者じゃなかったか?と。後から知ったことだが、最初から岸川先輩は彼のことを”みすみす”と略して呼んでいたらしい。その度胸と交渉力で、軍の方と話すのは専ら彼女が担当している。

 遼介は、胃が重くなるのを感じながら次の言葉を待った。


 ミスター・スミスは頬を引きつらせながら答える。

「まあ早まるな、今から言うところだから。―実は、その発生源というのが非常に入り組んだ場所の、しかも建物内部なんだ。」

「え?室内戦闘だったら、そちらさんの領域でしょうに。私達は遠距離重視の屋外戦闘一択だよ?」


 岸川先輩が間髪を入れずに言った。隣で内村先輩が物凄い勢いで頷いている。

 沙織先輩が珍しく口を開いた。

「そこに私達が行くということですか?道中の護衛ではなく?」

 ミスター・スミスは小さく頷いてから言った。

「そうだ。我々では無く君たちを行かせるのは、別にめんどくさいとか、こっちから死傷者を出したくないからというわけではない。単にそこまでの入り口が狭すぎるんだ。一応無線操作のドローンで確認はしたが、実際にそこまでたどり着いた者はいない。」

「…………はあ?爆破するとか、広げるとか、色々方法はあるでしょうに。」

「無茶言うな。もしそれが原因でを発生させる薬品だかウイルスだかが放出されたらどうする。それに、我々の目的は破壊や殲滅では無く調査だ。あの達も、後々役に立つことがあるかもしれない。」

「…………って、言われたんですか?」

「…………ああ。」

 岸川先輩が大きなため息をついた。じとーっとした目でミスター・スミスを見る。

「作戦の決行はいつになるの?」

「できればすぐにでも。」

「――了解。作戦の計画書は明日提出する。内容の異論は認めないし、最終決定権は私が持つ。それでいい?」


 今の岸川先輩の「それでいい?」は、ミスター・スミスだけでは無く僕たちにも向けられた物だった。沈黙が部屋の中に満ちる。

「わかった、善処する。でも私達でも本当に作戦を成功させられるか分からないし、最悪の場合のことも考えておいてほしい。あと、そのドローンで取った情報を全部寄越せ。」


――どうやら、凄いことになるらしい。

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