7:『2ヶ月と少し前 IV』

 先輩たちが動いたのは、とうとう悲鳴が悲鳴でなくなった、というか、声ではなくなってからだ。


 岸川先輩がドアのノブを持ち、沙織先輩と田所先輩がどこからもってきたのか、拳銃を構えてドアの前に立った。そしてもう1人、何も持っていないリコ、と呼ばれた先輩が二人の前に片膝をついて配置についた。

 何やらハンドサインを交わして動きが止まる。四人はまるでなにかを待っているかのように、ドアだけを見つめていた。


 果たして、その瞬間は来た。外から聞こえていた声が、その子のものに加えて違う物の声が聞こえるようになった時だった。

 先ず岸川先輩がさっとドアを開け、沙織先輩と田所先輩がドアの外の何かに発砲。その隙にリコ先輩が出て行った女の子の襟首をつかんで、中に引きずり込んだ。

 

 大丈夫とか、その子に声をかけるでもなく、リコ先輩は部屋の奥にあったやたら角張った椅子に無理矢理座らせ、すこしおぼつかない手つきでナイロンのベルトで椅子に固定していった。

 その間に岸川先輩はドアを閉め、発砲した二人は銃を持ったまま部屋を出た。

 助けに(?)行く前の行動から助ける気は皆無なことは予測していたが、その後は予想の範疇を超えていたというか、予測が不可能だった。


 作業が終わったリコ先輩は、手についた泥やらをハンカチで拭いながら前に出た。


「2年の林利子です。沙織が来るまで、について解説します。」


 利子先輩は、終始気の毒な位嫌そうな、落ち込んだ表情をしていた。


「私たちがと呼んでいる物は、正確にはその正体は分かっていません。分かっている事は、姿形は人間のそれだが行動に意思が感じられないこと、私たちを無差別に攻撃又は捕食しようとしている事、そして、に噛まれたり引っ掻かれたりすると、感染して私たちもそのお仲間になってしまうことです。」

 

 そして、椅子から離れてポケットからリモコンのような物を取り出し、ボタンを押した。


 恐ろしい事が起きた。でも、それはただの始まりに過ぎなかった。

 ガロットのような椅子と僕達の間にシャッターが降りた。いや、檻と言うべきか。ガシャンとやけに大きな音が響いて、完全に分断された。


「お仲間になってしまうこと、です。」


 シャッターを拳の裏で叩きながら二度目を言った。


「それって...」


 誰かがつぶやいた。脳裏にの文字が大きく浮かんだ。

 すると、出て行ったはずの沙織先輩と田所先輩が何やら大きな箱を抱えて部屋に入って来た。沙織先輩は制服から戦闘服に着替えており、太もものホルスターには拳銃、反対側にはシーズに入ったナイフを装備している。髪型も、さっきは後ろで低く一つに縛っていただけだったのに、髪留めで上にまとめていた。

 なぜか、制服より今の姿の方が妙にしっくりきていた。


 二人が大きな箱の梱包をといている時、うめき声が聞こえてきた。例の女の子からだった。何か分からないけど、苦しんでいる。田所先輩が利子先輩に視線を向け、説明するように促す。沙織先輩は一瞥もくれずに黙々と作業を続けていた。


「あ...はい。と接触してしまってウイルスが体内に入ってしまった人を、私たちは感染者と呼んでいます。一度感染してしまった人を元に戻す方法は今のところありません。多分この先も無いと思って下さい。また、感染すると...」


 うめき声が、叫び声に変わる。


「ああなります。私たちの認識からすると、ゾンビというものが1番近いでしょうか。」


 そう言って利子先輩は沙織先輩と交代した。


「では、先ほどの続きを言います。よく見て下さい。」


 利子先輩からリモコンを受け取り、ボタンを押す。シャッターが三分の一ほど開いて、その中に入り、閉めた。そしてまた違うボタンを押し、椅子に付いていたベルトを解除した。その子が、前にべしゃっと倒れる。

 沙織先輩は静かにナイフを抜いた。表情は、何故かは分からないけど、うっすら笑っているように見えた。








 

 

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