5:『2ヶ月と少し前II』

「じゃあなぎ、僕は先に行って皆を呼んで来るからこの人たちをよろしく。」


 田所先輩は最後に入って来てハッチを閉めていた先輩にそう言うと、ドアの脇にあるセキュリティー装置にパスコードを入力し、更に指紋認証までして、ドアを開けた。

 僚介はさっきの沙織先輩はそこまでしてなかったのにな、と思っているとハッチを閉めて、確認をしていた先輩が前に出てきた。

「こんにちは、三年の内村凪です。それではこれから皆さんを私たちが『本部』と呼んでいる場所にご案内します。色々言いたいことはあると思いますが、離れないでついて来て下さい。」

 そう言うと、先ほど田所先輩がやったようにセキュリティーを解除し、ドアを開けた。

 これは関係ないことかも知れないが、パスコードは一人一人違うようだった。


 階段を上ったり、渡り廊下らしき所を通ったり、入り組んだ廊下を進むと ようやく内村先輩の足が止まった。

 渡り廊下を過ぎてからというもの、すれ違う人は皆軍隊かよと言いたくなるほどのゴツい外国人ばかりだったので、新入部員達は『本部』にたどり着くだけでガチガチに緊張していた。

 そして内村先輩がノックをして、「May I come in?」と流暢な英語で言っていた。

 ということはこれから会う人も外国人なのだろうか、と考えていると、重そうなドアが開いて、入れと手でジェスチャーをされた。

 

 ぞろぞろと入って行くと、そこは会議室のように大きなテーブルが置いてある部屋で...先輩全員と、強面の人スーツを着た人と軍服を着た外国人が数人ずついた。沙織先輩もさっきの戦闘服らしき物ではなく、制服になっていた。


「それじゃ、説明会を始めるので適当に席について、資料を回して下さい」


 説明会?ナンデ?と思いながら隣の人から渡された資料の束から一部取り、次の人に渡す。目を落とすと資料には“『孤島』での茶道部の活動について”と書かれていた。

 一枚めくると、次の頁には...戦闘服を着て、銃を持った先輩達の集合写真が載っていた。

 なんか、もう、皆さん凄く良い笑顔をしていらっしゃった。


「こんにちは、部長の田所陸です。皆さん茶道部に入部してくれて、ありがとうございます。これから活動内容について説明をします。一回しか言わないのでよく聞くようにして下さい。まず最初に、顧問の森本先生から一言─ないんですか。他の人は?─ないですね、では資料の3頁を開いて下さい。」

 

 言われた通りの頁を見ると、組織図のような物が書いてあった。


 『十南高校茶道部』というくくりが小さく隅にあって、その周りにJPNとか、軍と書かれたくくりがあった。


「僕達十南高校茶道部は、ここ『孤島』で活動しています。主な活動内容は普通の茶道部と同じです。」


 イヤ嘘だろ。普通の茶道部だったらこんな所に来ないよ、と僚介は心の中でツッコミを入れた。


 そんな事を知ってか知らずか、田所先輩はすぐにその疑問の回答を口にした。


「もちろん、それだけではありません。皆さんにはここで『敵』の殲滅作戦に参加してもらいます。」


「な、なんですかそれは!そんなの聞いていません!」


 新入部員の中の一人の女子が言った。というより叫んだ。


「まあ、言っていませんし...それに、そういうことは後で聞きますから。とりあえず僕の説明を聞いて下さい。」


 半泣き状態だったその子を内村先輩が肩を押して半ば無理やりに席につかせる。それを確認してから田所先輩が続けた。


「さて、作戦の説明をする前に、この場所について言います。資料の4頁を見て下さい。」


 先ほどの事もあり、怖いくらいに静まり返った部屋で、かさかさと紙をめくる音がやけに大きく響いた。


「少し前にも言いましたが、ここは『孤島』と呼ばれています。僕達が知っている...というより、知っていい情報は少ないですが、そこは詮索しないで下さい。」


 つまり、情報統制ってことか?なんだよそれはきちんと説明してくれよ、と一瞬思ったが、周りにいるスーツの人や軍服の人を見ると詮索するとマジでヤバいことになりそうだった。口封じとか。


「今から少し昔、『狂った三人の科学者』によってこの空間ができました。どうやったらこんな事が出来るのかは不明です。そして、そこに通じるはそこにいる軍人さん達の×××××という国に一つあるだけでした。しかし、その扉を広げようとした所、十南高校茶道部の部室の畳の下にもう一つのができてしまいました。これが一昨年の冬の事です。」






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