2:『孤島II』

「はい、違うー。お茶が入っているから置き柄杓びしゃくじゃなくて、切り柄杓だよー。」

「あ、ハイ。」


 と戦う時、オペレートと指揮を担当していて、 先ほど無線で話をした岸川歩美...先輩。正客の位置に座り、僚介のお点前てまえを見てくれているのだが、些か言葉が悪いしキツい。しかしまだまだ良い方で、酷い時は仮にも茶道を嗜む者としてどうかと思う程酷い。


 僚介はシャカシャカと茶筅ちゃせんを振ってお茶をて、歩美に出した。


「うわ、泡全ッ然無いじゃん。確かに表千家は余り泡立てないけど、うちは裏千家なんだけどな~?」

「うっ...」

「あ、そんな事言ったら表千家の人に失礼か。...まあいいや。お点前頂戴いたします。」

「...ドーゾ。」

「どうぞじゃなーい。軽くお辞儀するんでしょ?」


 こちらの神経を逆なでしてるのかと思える言い方に少々の苦笑いを浮かべながら、前に手を付いてお辞儀をする。そして歩美が一口飲んだのを見て、袱紗ふくさを腰に吊る。横で歩美が「苦ッ...」とつぶやいていたのはまあ、聞かなかった事にしておこう。


 どこの茶道部でも繰り広げられていそうな会話だが、ここは『孤島』と呼ばれる現実とは次元と時間の流れが違う空間で、部室ではない 。プレハブに毛が生えたような建物に現在10名の茶道部員が押し込められている。尤も以前はテントに毛が生えたような物だったそうなので、随分昇進したと言えるのだが。


 僚介が聞かされた『孤島』についての説明は、次のような物だぅた。


 曰わく、この世界は“狂った三人の科学者”によって創られた世界であるという事。どうやって作ったかは不明。


 曰わく、現実の世界より時間の流れが60倍早いという事。つまり、ここでの一時間が現実では一分という事になる。


 曰わく、 記憶はそのま共有出来るが何故か身体はそう出来ないらしく、ここで怪我をしても現実に戻ればリセットされる。


 そして、『孤島』で死亡した場合ーー現実では、その人が存在しなかった事になるという事。

 



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