第3話

「はーいお客さんデース」

「は?」


「怖い顔しないのーハジメテのお客さんだヨー」

一言二言話してるかと思えば伊崎は親指でこっちを指さしながら笑っているからいい予感はしなかったがまさか、…まさかの。


女の子ふたりと男の子ひとりを引き連れて戻ってくる。

「鈴木クンはじめしてー?」

「はじめましてはないでしょー」

いつも遠巻きに聞こえる笑い声や自分にむけられる事はないと思っていた 声色

「はじめまして」

ボクの座った椅子のすぐ横に立ってオトモダチの男の子は右手を差し出す。握手…?ゆっくり自分の手を重ねようとしたとき、

「ちょっと、なにしてんの。写真見るだけでしょ」

「ナニもしてないよ親睦を深めようとしただーけ」


「おまえも、ぼーっとしないでよ。コイツ手ぇ出すのはやいんだから」

「は?」

「伊崎すごいねそんなに箱入り?」

男の子の後ろで 黒髪の女の子が見た目に似合わないさっぱりとした口調で笑いながらその隣にいた なかなかファンキーな髪色をした女の子に話しかける。

たしかにかわいい顔してるよねえ と目の前の男の子はボクの顔に手を伸ばしてくる。

「…中どうぞ」

伸びてくる手をさりげなく避けて部室のなかに滑り込む。

受付に誰もいないとまずいから、と不服そうな伊崎を残して オトモダチを中へ招き入れる。

黒髪の清楚然とした女の子に一方的に話しかけられてときどき頷いているファンキーな見た目の彼女は思ったより無口なのかもしれない。

「鈴木クン俺らのこと嫌じゃない?伊崎もだけどね、阿久津に押し付けられたんでしょ」

「特には。逆になんで嫌だと思うの?」

伊崎もだけど、なんでこの人たちは 自分たちのことを “嫌”だと相手に投げかけるのだろうか。

「押し付けられたのは迷惑だけど、別に、嫌じゃない」

「へぇ、」

さも意外だというように、だけど その答えがくるのを分かってたように笑みを浮かべて 壁にかけられた写真に目を滑らせる。

『逆になんで嫌だと思うのか』というボクの問いには答える気はないらしい。


花房灯はなぶさあかり


「なに?」

「俺の名前、まんまなかんじ?」

夜道に咲いた桜を街灯が照らしている写真を見た彼が不意に呟いた言葉は 彼の名前。

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