名もなき帝王学【掌編】

みやのかや

名もなき帝王学

 ――王とは何なのだろうか。

 僕は齢16にして、大国の帝王となった。

 先帝の崩御から一年、城では家臣の裏切りや兄弟同士の争いが続いた。

 血を分けた人間達が平気で騙し合い、憎しみ合い、殺し合う。

 そんな中で僕が王の座を継いだのは全くの偶然だった。

 僕以外の後継者が皆、死に絶えてしまったからである。


 国の中でも最も荘厳であった王室。そこで僕は1人ぼっちだった。

 豪奢な調度品は余すことなく破壊され、いたる所に血が飛び散っている。

 騒乱は終わった。そして同時に、この国の全ても終わっていた。

 テラスから外を見ると、国が一望できた。

 そこに広がっていたのは灰と黒が入り混じった味気のない風景。

 ぼろぼろに崩れたガレキと、風に舞う煤ばかりが目に付く。

 事の始まりは城内で起こった叛乱だった。

 誰が帝王の座を継ぐのか、その話し合いの場にいた騎士団長が、乱心して後継者に切りかかったのだ。

 僕は帝王になる気はなかった。故にその話し合いには参加していなかった。けれど、騎士団長が乱心した理由は、何となく察しがついた。

 その事件の余波は、瞬く間に国を焼き尽くした。

 人望厚かった騎士団長の叛乱は多くの臣下を動かしたし、その隙に他の後継者を蹴落とそうとする王族も大いに動いた。

 城内にも、街にも、どれだけの国民が残っているかわからない状況。

 灰色の風景が、全ての終わりをただただ静かに物語っていた。


「王とは何なのだろうか」

 口からもれ出た言葉がふと耳に届いた。

 それは他愛ない疑問。答えのでない問い。

 だが、問わずにはいられない。

 支えてくれる家臣もなく、導くべき民もなく。

 守るべき国さえも定かでなくなってしまった今、この問いが唯一僕に残されたものだった。


 王とは何なのだろうか。

 人とは何なのだろうか。

 国とは、権力とは、命とは、何なのだろうか。

 少なくとも、僕にはわからない。

 そしてたぶん、死んでいった者達もまた、わかっていなかったのではないだろうか。


 血で汚れた玉座に座り、僕は大きく息を吐いた。

 この滅亡した帝国で、僕は答えを探さなくてはならない。

 全ての問いに答えを出さなくてはならない。


 恐らく、帝王とはまずそうあるべきなのだから。

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名もなき帝王学【掌編】 みやのかや @kaya_miyano

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