第7話 人間は、自分にとって利益となることのみを行う
利益になると考えれば、利益にならないことも平気でやるのか? -砂館 望-
「安心してください。人間は自分とって損になる行動を進んですることはありません。」
俺が松島に対して障碍者を見るような視線を向けていると、灰寺は静かに言った。
「確かに理下は少し行き過ぎた言動をしてしまいましたが、それは承知の上です。
重要な情報を不完全な状態で伝えただけですから。」
「そだよー?望は私たちがどんな容姿をしているか全く話さなかったから私が代弁したんだよ?」
いるのか?そんな話。俺は灰寺から自神管理教の教えを聞きたいだけだ。
俺たちの容姿の話はどうでもいい。
「誰が話しているか想像がつかないと、意識がそっちに行っちゃって話が入ってこないんだよぉ?ロリ巨乳の幼な妻な私が、神候補者様方にケバい金髪ギャルだと思われても困るし・・・。」
「いるのか?そんな奴が。」
松島は普通の黒い髪である。髪を染めている様子はない。女子の平均よりほんの少し背が低い。童顔で、体系も細いというよりはふっくらしているので、見た目より若く見られることが多い。容姿に合わせてツインテールにしていることが多い。
しかし、それに釣り合わない胸の大きさ。灰寺と比較してはならない。
「あと、料理も上手で運動神経もいいことをアウトプットしてもらわないと。
男子にも人気で、結婚したい妹ランキングの上位にいつもいるってことも、
ねっ!」
松島は的確に俺の心を読んでくる。これだけスペックがいいと敵も多そうなのだが、
松島がトラブルに巻き込まれたという話は聞いたことがない。
あまりに何も起きないので、トラブルが起きないように裏でいろいろしているという噂がある。実際、クラスの人間が何人かいなくなっているし、痴漢や変質者も出たと思ったら消えている。
何故松島が疑われているかというと、松島の身に着けている装備に原因がある。
松島はいつも左耳にイヤホンをして何か聴いているのである。
あわせて、暇があればスマートフォンをチェックしている。
いたるところにカメラや盗聴器を設置して自分の障害となる兆候を探っているのだともっぱらの噂である。あと、松島は灰寺のことが好きである。好きというか、深く愛しすぎている。灰寺は否定しているが、ヤンデレそのものである。
「大丈夫だよー?牧乃は私のことを子猫がじゃれついてくる程度にしか考えてないからねー?」
灰寺の腕を両手と胸でしっかり挟み、マーキングついでに甘える姿はまさしく子猫。あざとい。だが、ここまで飼い主にべったりな猫はいない。
「まあいいけど、人間は本当に損になる行動をしないのか?」
「進んでするような人間はいません。選んだ行動の結果、損をする人はいます。
しかし、それは自分にとって利益があるはずだと信じた結果の話です。
100円と1000円、どちらかを選ぶとき、100円を選ぶ人間がいたとします。それは100円を選ぶことで自分が謙虚であり、お金に汚くないことをアピールするためです。1000円を受け取るより100円を選んだほうが最終的に得をすると判断したからです。」
「ボランティアも募金も無駄じゃないんだよー?得るものはいろいろあるよ。
無償の労働を続けた結果、私は優しい子に育ちました!お金では買えない価値がある!」
松島はまいったか、と言わんばかりの顔をした。
冷静に考えて灰寺以外の人間にも奉仕することもあるので、松島は完全なヤンデレというわけではないかもしれない。
さすがはほぼ究極人間。ところどころに穴がある。
「理下は基本いい子ですから。あまり嫌わないでください。」
「嫌ってないぞ。ちょっと心配なだけだ。」
いつボロが出てもおかしくはない。
「自分の利益を守るため、人間は感謝や反省を覚えました。
『ありがとう』の言葉の裏の意味は、『私の利益になることをこれからもしてくれ』です。
『ごめんなさい』の言葉の裏の意味は、『これ以上私の利益を減らさないでくれ』です。
感謝や反省の多い人間は、自分の利益を最優先に考える人間です。気を付けなければなりません。」
仏教には、見返りを求めてはいけない、という教えがあるという。
善意に対して感謝を求めることは、人間に利益を求めさせようとすること。欲を育てることである。意識して行う善意は、利益獲得のための行為に他ならない。ということなのだろう。
「ところで、こうして人間の本質について話を聞くことは、自神管理教の教えを知ることとどう関係があるんだ?」
「神を管理することは人間を管理することです。いかに神が優れていても、人間が理解しようとすれば、神は人間と同じレベルまで本質が低下します。人間の本質を知らなければ人間の管理も難しくなるでしょう。」
「人間は自分を中心に物事を考えるから、神様も人間を中心に自らの存在を表現するしかないということだよ。
どんなに神様が頑張っても人間の想像の枠をはみ出ることは不可能。神様が三千年の苦労を語ったところで、三日の苦労しかできない人間には、三日程度の苦労しか伝えることができない。
ってこと!」
灰寺は満足そうである。松島は灰寺の教えを完全に理解している。
「ここまで読むと、神候補たちは私のイメージがはっきりしてくるから、牧乃がかすんできちゃうね。ごめんね。今度は牧乃についていろいろと話すから許してね?」
俺の存在がそれ以上にかすんできているのは間違いない。
「牧乃は、細身の美人さんだよ。髪が黒くて、長くて、ストレートで、いいなぁ・・・。モデルってわけじゃないけど、姉さまって感じ。抵抗できない頼れるオーラがでてますよー?
身長はぁ、女子の平均くらいかな?私と並ぶと夫婦に見えるよ!見えるね?よし。
いつもは体のラインが出ない真っ黒な服を着てるよ。スカートは履かない派。
私が天使なら、牧野は堕天使。神秘的で物憂げでちょっと危険な感じ。
ふああ~、こんな人に言い寄られたらソッコーで堕とされちゃいましゅうう~。」
そんな風に見えていたのか。かなり盛っている気がする。
クラスの隅っこにいる地味な奴。という感じで見向きもされないタイプだと思うが。
「そういうこと言っちゃダメ~!あ、メガネはかけてないよ?視力はいいんだからねっ!」
松島は灰寺に再びくっつく。こっちも子供だなぁ。ヤンデレ気質と胸の大きさを除けば。
「人間と接するときの鉄則として、人間が行動した結果、どんな得をするのかを考えていなさい。
相談なのか、お願いなのか、ここだけの話なのか。いろいろあると思いますが、
管理者に伝えることで人間は何をさせようとして、利益を得ようとしているかを考えるのです。」
「なんでもするよ?ってときは、なんでもするからそれに見合うだけのことをしてくれってことだよ。
というわけで、私。牧乃のために何でもしちゃうね!」
「人間は自分を中心に物事を考えますから、なんでもすると言われると、自分のために何かしてくれることを期待します。
しかし実際は、自分が何でもしないといけない立場に追い込まれるだけの話なのです。そもそも『なんでも』というのは曖昧すぎます。曖昧なものを提示した後に、具体的なものを出す。これほど酷い騙し討ち、裏切りはありません。しかし、最も一般的な騙す手口なのです。」
「いいことしてあげるといわれてついていった結果がヤリサーの乱交パーティだったなんて・・・。」
「人間は自分の利益になることしかしない、ということを念頭に置けば、危険は感知できます。」
「牧乃は感知できても避けられないけど。」
せっかくなら回避する方法を教えてもらいたいところだ。
「人間とかかわるということは、危険な行為なのです。それでも人間とかかわりを持ちたいと願うのは、それに見合うだけの利益が得られるからなのです。」
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