第4話 誰でもなれる管理者のススメ
無能な人間です。できることと言えば、私の代わりに首をはねられることだけでしょう。 -灰寺 牧乃-
「ところで、管理者に必要なものは何だと思いますか?」
自神管理教教祖の灰寺は言った。そもそもこの宗教、神を管理するためのものである。管理者にならなくては話が始まらない。
「管理者だから統率力か、指導力か、それこそ才能がいるんじゃないか?」
「いりません。」
灰寺はニィイと笑った。道端でビー玉を見つけた子供のような顔で。
相変わらず子供。いつだって子供。
「才能がないと管理者になれないのなら、人類はとっくの昔に滅びていますよ。」
いきなりスケールが大きくなって人類と来た。
「アニメとか漫画とか。よくある小話とか。だいたい上のほうの人間は無能でしょう?で、部下とか下々の人間が何とかする。世の中はそういうものなのです。」
「中には優れた管理者もいるんじゃあないか?」
「そんなの一握り。全体の何パーセントになりますか?
顔のほくろが黒いから、人間の肌の色は黒だというのですか?」
急に機嫌が悪くなる。出来の悪い息子を見る親の顔である。
みんながそうじゃないということを言いたかっただけなのだが。
「人間は偏見がひどくて困りますね。たった一人優れた人がいれば、一族郎党みんな優れてるという主張を平気でします。逆もまたしかり。差別や迫害まで行います。自分の都合のいいようにしか物事を解釈しません。」
「お前もかなり偏見がひどいと思うが。」
「人間ですから。人間らしく生きたいと思っています。」
おおよそ人間らしくない灰寺は、胸を張って言った。
人間は自分勝手な生き物であり、人間であるからには自分勝手に生きたい。
そう思っているが、何一つ自由に行動できないのが灰寺。
「とにかく管理者は、自分が才能で何かをするというものではありません。
いかに自分のやりたいことを他人にやらせて成功するか。そういうものです。」
「他人にやらせるって、人間だろ?そううまくいくのか?」
「人間だからうまくいきます。」
唐突なドヤ顔。まだ説明は終わっていない。
「管理者は適当に目標なりノルマなり決めてしまえばいいのです。あとは人間たちがうまくやってくれます。」
「いや、具体的な指示を出してくれないと駄目だろ。」
「それは駄目です。条件を増やせば増やすほど、人間達の考える自由度が減ります。
自由度が減るということは、管理者が人間の仕事の肩代わりをするということです。」
自由にやらせたほうが管理者が困りそうなものだが、灰寺の理論は違うらしい。
そもそも無理難題を吹っ掛ける上司など存在してほしくないはずだが。
「的確な指示を出せば人間が楽できますが、これは管理者が道具に成り下がるということです。人間はすぐに管理者を神と崇め、いいように使い始めるでしょう。
そもそも的確な指示を出すのは、管理者の仕事ではなく、神の仕事です。」
「しかし、それだと下の人間は不満が溜まるだろう。」
「不満はたまりますが、適当に報酬を与えて満足感を得させておけば問題はありません。彼らは自分たちで頑張って自分たちが成功させたと思っていますから。
有能な上司に従い続ける仕事をするよりも、無能な上司に従わずいくらかマシな仕事をするほうを選ぶのが人間です。いくら管理者が頑張ってパンを細かく割り振ったところで、小さくちぎったパンきれで満足する人間なんてそうそういませんよ。」
管理者は随分と楽ができるようだ。というより、楽をしないといけないようだ。
最も楽をしても人間がついてくるなんて、人望やカリスマが必要な気がしてならない。
「何もしない管理者に人間はついていくのか?」
「人間は神についていきます。管理者ではありません。管理者は神をつなぎとめておけばいいのです。人間なんてどんなに手をかけたところで気に入らなければ逃げます。」
まあ、バイト連中はそうだろうな。嫌になったらすぐに辞めるだろう。小金をもらって喜んでいる連中だ。意外とコントロールしやすいかもしれない。金さえあげれば。
「しかし、神をつなぎとめるのもなかなか難しそうだが。」
「困ったら権力とか財力とか弱みを握ったりして何とかしましょう。」
急に主張が怪しくなった。灰寺は管理者の器ではないらしい。
「とにかく、自分に才能がないなら、努力して神になろうなどと考えてはいけません。神になれるのは、生まれつき才能を持った選ばれた人間だけです。普通の人間が神になろうとすることは無駄な抵抗です。
管理者は、才能がなくても、神や人間に命令できればそれでいいのです。こちらのほうがハードルは低いです。」
「低いといっても高いことには変わりないと思うが。」
「安心してください。人間は目上の人を敬ったり、仲間と協力して作業したり、そういう教育を受けています。何もしなくても自然に友達ができるように、自然と管理できる人間ができますよ。」
ボッチ涙目である。灰寺はこれでもハブられたことがない。差し伸べた手を取らざるを得ないような強制力がある。二人組どころか三人四人とグループを作れるタイプである。もっとも、一人でいるほうが好きなようだが。
「そういえば、この教団のマークみたいなのはあるのか?団員ならこれを身に着けているとか、そういうやつだ。」
「貴方は管理されることが好きなのですね。残念ながら、自神管理教において共通のマークやシンボルがあってはならないのです。
教団員は管理者になるべく精進しなければなりません。ですから、自分でしるしを決めて、自分で広めるべきなのです。
私が与えた共通にマークを使うということは、私に管理されるということです。」
考えるのがめんどくさかったんだな。そう思いつつ、とりあえず納得しておくことにした。
「で、お前はどんなマークを使っているんだ?」
「そうですね。・・・私が昔から使っているのはこれです。」
灰寺は右手の腕時計を外して手首を見せた。そこにはローマ字のⅣが刻まれていた。
こういう恥ずかしいことをすると社会に出て困ると思うのだが・・・。
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