第2話 神は人間の道具である。

人間は道具を使う能力に長けています。人間が初めて手にとった道具は、人間でした。   -灰寺 牧乃-



「使われる側と使う側は立場が逆転することがよくあります。」

灰寺はスマートフォンを取り出してそう言った。灰寺は決して機械音痴ではないのだが、タッチパネルというものと相性が悪く、まともに操作できた例がない。メールで一行文を送るのに何度も文字を打ち直し、やっと送信できるのである。

「人間は性格の役に立つような道具をたくさん発明しました。人間は道具を使う側です。しかし、この状況はどういうことですか。」

「道具が人間の役に立っていない。人間が道具に合わせる形になってるな。」

「このスマートフォンを使うために、操作を覚えて、充電して、端末の癖を知って・・・。これは私の望んだ結果ではありませんよ?」

人間が機械の奴隷になるという主張は今に始まったことではない。いろいろな人間がいろいろな手法で警告を鳴らしてきた。だが、人間が機械を使って構築したシステムを維持するため、人間が休まず働いている今の時代、

既に人間が道具に使われる立場であることが受け入れられてしまっているのかもしれない。

「神とて同じです。人間は神を崇めますが、神にとって役に立っていますか?人間は神の役に立とうとしましたか?むしろ、人間に利用されるだけの存在に成り下がっていませんか?」

「今の神って商売の道具だよな。人気がある人間を担ぎ上げて、ビジネスの道具にしている。」

「そう。神になるということはそういうことなのです。人間のいいように使われる存在になること。多くの人間は自らが神になることを誇りに思うでしょう。人間の頂点に立つことができたのだと。ですが、それは違います。むしろ、逆です。人間の底辺に居座っているのです。道具であることに満足し、疑問を抱くことすらしない。神という言葉に酔い、考えることを放棄しているのです。」

こうは言うが、灰寺は御人好しなので、だいたい人間にいいように使われて損をすることが多い。神と崇められることもない、ただの道具扱いである。よって、灰寺は人間が嫌いである。嫌いではあるが、御人好しなので救いの手を差し伸べることが珍しくない。そして、また損をする。

「神が人間の道具に成り下がった以上、神になろうというのは自殺行為です。多くの人間が神と呼ぶのは、

 人間を使い勝手のいい道具にしたいからそう呼ぶだけなのです。」

「神待ち。というやつだな。」

「神だ神だと担ぎ上げられ使い捨てられてきた人間が一体どれだけいるのか、私には想像もつきませんが、聞いて回ったところで大した数にはならないでしょう。本人は自覚がないのですから。」

過去の栄光、昔取った杵柄というやつである。本人は誇りであり、満足している。

数々の苦労。努力。そして、成功。人々はそれを褒めたたえ、真似しようとする。

神が別の神を呼び、神が別の神を作る。神様はいたるところにいる。増える。ひとはしら、ふたはしら・・・。

だが、傍から見ればいいように使われただけなのだ。そう思った。

「もう一度言いましょう。貴方は、神候補です。」

「お前はすでに神だがな。」

「しかし、貴方はまだ間に合います。私が管理者ならこんなこと言いませんよ。人間は他人にとって利益になる情報をわざわざ提供しない生き物です。こうして理論的なことだけ伝えるのは、私ができないからです。私ができないから他の人に伝えるのです。神はこれを知りません。人間は知っていて黙っています。伝えることができるのは私のような人間だけですから、こうして伝えるのです。」

灰寺は、悲しいことに才能がまったくないのである。体力もない。知識も偏っている。無知無能の神といったところか。そのかわり、何かしたいという気持ちはある。何をすればいいか。どうすればいいか。その部分だけは神がかっている。

だが、灰寺は、悲しいことに才能が、まったくないのである。

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