異層世界決戦 ―開戦―
背後から鳴り響いた爆音に振り返った俺が見たものは、社殿後方から立ち上る光の柱と、それを挟んで、空中で対峙するビャクと
「ビャク! ……蓬……」
蓬は相変わらず表情が無い。
目は虚ろで、焦点が合ってる様には見えんけど、顔は真っ直ぐビャクに向けられてる。
対するビャクは、薄すらと笑みを浮かべて、何処か楽しそうな……それでいて挑発するような顔つきや。
「蓬―――!」
突然、人喫の化身が蓬の名を叫んだ。
その声量にもビビったけど、何よりもその声に含まれてる霊気にビビらされた。
その声に気付いた蓬はこちらに視線をやると、即座に向かって来ようと動き出した。
でも、その動きはすぐに止められた。
蓬の行動を感知したビャクが、目にも止まらんスピードで蓬の前方に回り込んだんや。
「ちょー、蓬ちゃーん。どこいくんニャー?」
そーゆーたビャクの顔は本当に楽しそうで、まるでオモチャを見つけた子猫の様や。
蓬ははそれに無言で答える。
「……おい、こりゃー、どう言うことだよ?」
蓬の動きを制したビャクを見て、人喫の化身が呟いた。
「ありゃー、交渉決裂って事でいいのか?」
ビャクの行動を見て、発する雰囲気を変えた人喫の化身が呟く。
その声に俺はゆっくりと奴の方へ振り向いた。
放つ霊気もそうやけど、奴の顔には怒気が浮かんでた。
―――やばい!
瞬間そう思った。
奴は躊躇なく利伽を……殺す!?
「じゃあ、人質もいらねーな……」
瞬間、俺は奴の方へと踏み出してた!
呟いた奴の手刀が、殺気の固まりになって利伽に降り下ろされる!
―――間に合わん!?
まるで緩やかな時間の中におるような錯覚の中、スローモーションに降り下ろされる手刀と、思ったように動かん俺の体を冷静に分析して、そんな結論が頭を過った。
と、奴の手刀が途中で一瞬止まる。
「いぇあ!」
そのお陰で、俺の正拳突きが間に合った!
鋭く強く左足を踏み込み、同時に左脇で固定して前に突きだしてた拳を、腰の回転と共に打ち出す。
打ち出した拳は、体の内側に捻り込みながら、標的の向こう側を更に打ち抜くつもりで放つ!
手に加わる鈍い感触は、奴の脇腹辺りに正拳突きが突き刺さった物や。
―――入った! 悶絶物やろ!
そう思った瞬間!
―――ドウッ!
奴は……吹き飛んだ……。
そらーもー盛大に、マンガかアニメみたいに吹き飛んで後方の民家に突っ込み、ゴウゴウと砂埃を巻き上げた!
―――ふ……吹っ飛び過ぎやろ―――っ!
あれやったら、間違いなく家の中におる人達まで被害受けてる!
っちゅーか、弁償物!?
あまりの威力にパニック気味な俺の目に、ポッカリと口を開けた家の穴から何事もなかった様に這い出てくる人喫の化身の姿が見えた。
奴は首に手をやり左右に頭を傾けると、今度はゆっくりと周囲を見回して、最後は正面の俺に目をやった。
―――いや……ビャクを見てるんか?
奴の視線は、俺の後方上空を睨んでるみたいやった。
「ウチの前で、それ以上タッちゃんが嫌がるお痛はやめてんかニャ?」
ビャクの方も、人喫の化身へ視線を向けてる。
しかも、刺すような霊気がこちらの方に……人喫の化身に向けて放たれてた。
俺はその余波を浴びてるだけやのに、ビャクの方から人喫の化身よりも痛い霊気をビシビシ感じてた。
「タッちゃん!」
半ば呆然として動かれへんかった俺はビャクの声で我を取り戻して、すかさず利伽を抱き抱えて後方に跳躍した。
俺が攻撃したとき奴の手刀が一瞬止まったのは、ビャクの霊気に反応したからやと俺はすぐに悟った。
(龍彦―――あんた―――ビャクに助けられてばっかりやったらアカンで―――)
その時、突然ばあちゃんの声が頭の中に響いた。
(ば……ばあちゃんか!?)
目まぐるしく変わる状況に、俺の頭はついていけんかった。
ばあちゃんの声にすら、どう対応すれば良ーんかすぐには解らんかった。
(あんた―――ちょー落ち着き―――。とりあえず―――その辺り一体は
(異層……空間……!?)
聞き慣れん言葉が飛び出してきた。
落ち着け言われても、訳解らん事ばっかり増えて落ち着きようがない。
(ま―――人様に迷惑掛けんとタップリ化身の相手が出来る場所っちゅーこっちゃ―――)
兎に角、俺は気持ちを切り替えた。
どうせ今すぐ理解しよー思ても、理解出来へん。
(ばあちゃん、解った!)
「ビャクー!」
ばあちゃんに (解ってないけど)そう返事して、俺はビャクに呼び掛けた。
「そっちは任したで!」
ビャクは再び蓬に視線を戻して、俺に背中を向けたまま右手を持ち上げて握った拳に親指だけ立てた。
了承したサインや。
それを見て、俺も改めて人喫の化身と対峙した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます