囚われの利伽

「ちょっ……タッちゃん! ニャんでウチが!?」


 俺の言葉に、意味が解らない言ー風なビャクの反論が上がった。

 彼女にとっては、正に青天の霹靂と言って良い程の事なんやろう。


 ビャクがよもぎを良くは思ってないのは、俺も解ってる。

 けど、利伽りかを連れた人喫の化身が近付いてきてる。

 っちゅーて、蓬をこのまま人喫の化身と合流させるんも得策やない。

 俺が蓬で、ビャクが利伽っちゅーんも一つの手ーや。

 けど今のビャクやったら、利伽の安否は無視して暴れそうや。

 それだけは流石に認められん。


「俺が外の化身に当たる。ビャク、今はお前にしか蓬を任せられへんねん。頼むわ」


 ビャクは俺の表情を見て、大きく盛大に溜め息を着いた。


「……わかったー……わかりましたニャー……。他ニャらぬタッちゃんの頼みニャから聞くけど……どうなっても知らんニャー」


 ビャクがニヤリと笑う。

 その顔は、嫌らしくとか意地悪くとかやない。

 邪悪その物やった。

 ……こいつ、ほんまは邪な化身やないんか?

 

「と……兎に角頼むわ。俺は外に行くから! ……出来たら……助けてやってくれ」


 それだけ告げて、ビャクの返事も聞かんと俺は道場を飛び出した。


「えー! ちょー! そんニャん、無理やからニャー!」


 俺の背後からビャクの悲痛な叫びが聞こえたけど、俺はそれを掻き消すように更に大きく叫んだ。

接続コネクトー!」



 コネクトを完了した俺は、すぐに利伽の位置を確認した。

 利伽は不知火神社正面の石段を下った所に居った。

 当然一人やない。

 近くには利伽とは違う人間の反応と、圧し殺してるけど強力やと解る化身の反応が一つづつあった。

 恐らくは勝人かつとと、人喫の化身の物や。

 俺の気持ちが自然と逸ったんか、文字通り一足飛びで利伽達の正面に降り立った。


「……ほう。人間……の様だが、強力な霊気を宿しているようだな……」


 俺の正面には三人の人影。

 向かって右手には勝人。

 今は意識がないんか、目は虚ろで焦点が合ってない。

 その勝人に抱き抱えられて、中央に利伽。

 ぐったりして、頭をダラリと前に垂れてるせいで表情は解らんけど、気を失ってるみたいや。


 ―――そして。


 左側に、痩せこけてるけど身長は高い……ひょろ長いっちゅー言葉がこれ以上ない位ピッタリの男。

 見た感じは、ひ弱、虚弱っちゅー印象やけど、受ける威圧感は半端やない。

 こんな強烈で、嫌悪を感じる霊気は、生まれてこの方初めてや。

 言われるまでもなく、こいつが人喫の化身やと解った。


「……利伽と……ついでに勝人も放せや」


 声が震える。

 膝が笑う。

 出来るだけ高圧的に言ーたんは、嘘偽りなく空威張りや。

 ほんまは逃げ出したーて堪らんかった。


「……人間風情が、嫌に偉そうだな……」


 化身と対したときは、まずどちらが上の存在か化身に解らせる必要がある……って、確かおとん親父はゆーてたけど……。


「平和裏に交渉しに来たつもりなんだがな……。そっちがなら、こっちもそれで構わないぜ?」


 全然アカンやーん!

 冷静に考えたら、明らかに格下相手やったら威圧も効果ありやろーけど、同格以上やったら相手の神経逆撫でするだけやん。


「……ぐっ……」


 いきなり交渉 (にもなってないけど)決裂ムードに、俺は唸るしか出来んかった。

 このままもし戦闘に突入なんかしてもーたら、利伽の安全も保証出来へん。……ついでに勝人のも。


「まぁ……そう身構えるなよ。俺だって出来れば揉め事は避けたいんだよ」


 だが、先に気を緩め砕けた口調で話し出したのは、人喫の化身の方やった。

 

「……交渉って言ーてたな……」


 相手が敵意を引っ込めた事で、俺と化身の間に張り詰めてた緊張が弱まり、俺も話が出来るようになった。

 それでも相手に気勢を呑まれてるんは変わらん。

 ただ、今は事を荒立てる時やない。


「そうだ、交渉だよ。俺は蓬を引き取りに来たんだ。その代わりそっちの子猫ちゃんを届けに来たんだ」


 人喫の化身はそう言ーて、隣で項垂れる利伽に視線をやった。


「り、利伽には傷付けてないんやろーな!?」


 相手の鋭い気配に呑まれてた俺やったけど、彼女の事が兼ね合いに出たことで、瞬間的に奴の威圧を跳ね返すことが出来た。


「そりゃ当然だ。その為に、わざわざここまで運んできてやったんだ。……な」


 そしてペロリと唇を舐めた。

 その瞬間だけは、こいつが間違いなく人喰いやと解る目の光と雰囲気やった。


 俺の背中に、ゾクリと冷たい物が走る。


 奴の言い分は兎も角、先にアクションを起こしたのはこっちが先なんやろう。

 利伽が勝人の異変に気付いてたんやったら、一人で行動せんと、ばあちゃんに相談したら良え。

 危険やったら、立ち入らんかったら良かったんや。


 ―――もっとも、利伽の相談に耳貸さんかったんは俺やってんけどな……。


 勝人が今頃告白なんてしたんは……つまり“釣り”やったんやから、全くの無関係って訳やない。

 でも形としては。

 自分の周囲を嗅ぎ回られて、自衛のために利伽を捕らえた……それだけや。

 その場合、先に事を荒立てたんはこちらにある。


 そのままやったら、どーなっとったか……。

 利伽が交渉材料として利用出来るんは、俺が蓬を確保してたからなんや……。


 ―――あの時感じた焦燥感は……これに対する物やったんか!?


 あの場で蓬と接触した結果、間接的に利伽の安全が確保されてるっちゅーことか!?


「……それで、どうするんだ? 交換条件を呑んで……」


 ―――チュドーッン!


 人喫の化身が言葉を言いきる前に、俺の背後で巨大な爆発音が起こった!

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