異層世界決戦 ―ビャクVS蓬―

「あんたー、仙人の卵ニャんやてねー? ウチがその力、どれくらいニャんか見たるニャ!」


 ビャクは無造作とも思える動きで、よもぎとの距離を詰めた。

 突っ込むんでもなく、構えるのでもない。

 ただ蓬に近づいていった。


「……!」


 それを蓬は、手に溜めた霊気の塊を打ち出して迎撃する。

 違わずその霊気弾はビャクに命中し、大きな爆発に変わった。

 けど、蓬の攻撃は止まらへん。

 二発、三発、四発……すでに数えきれんだけの霊気弾を両手を使って打ち出し、その全てがビャクに命中してた。


「ビャクー!」


 俺は目の前におる人喫の化身の存在も忘れて、ビャクに声を発してた!

 あの攻撃はヤバい!

 いくらビャクが強いか知れんけど、あんだけの連続攻撃を受けたら、ただじゃー済まんやろ!


「兄さんは、余所見をしている余裕があるのか?」


 不意に耳元で化身の声がした。

 バッと振り返った先には人喫の化身!

 俺めがけて、手刀を降り下ろしてるとこやった!

 俺は瞬時に頭上で腕を交差させて、十字受けでその手刀を防いだ。

 俺の足元から、奴の手刀が起こした風圧で砂埃が舞う!

 普通やったら、到底受け止められへん攻撃やけど、意外なほど難なく受け止められた。


 ―――いける!?


 俺は受け止めた奴の手刀を弾き返して、体勢の崩れた奴に軽い回し蹴りを繰り出した。

 牽制のつもりやったけど、奴の脇腹へモロに入った。


 ―――ドゴォウ!


 驚くほど簡単に人喫の化身の体は飛んでいき、再び後方のさっきとは違う家屋に激闘した!


 ―――うっそ―――! そんなに強く蹴ってないで! ゴメン! なんかゴメン!


 でも、そんな心配はやっぱり無用やった。

 奴は今度も……いや、さっきより勢いよく突っ込んだ家屋から飛び出してきた。

 そして今度は、ビャクやなくて俺の方にメンチきってたにらんできた



 蓬の攻撃が漸く止んで、爆炎が収まった。

 巻き起こった黒煙が晴れた先には、さっきとは全く同じ姿勢で一切動いてなかったビャクの姿があった。


「……はぁー……やっぱり……この程度ニャんやねー……」


 ビャクのついた溜め息は、期待外れにガッカリしたと言わんばかりや。

 流石に表情を作ってなかった蓬も、自分の攻撃で全く無傷なビャクにたじろいでる。


「……あんたの攻撃はそんニャもん? それがあんたの全力ニャん? 堕ちてまで得た力っちゅーニョは、そんニャもんかいニャ!?」


 明らかな挑発。

 そして何かを誘ってた。

 ビャクの言葉で、蓬の中にある……いや、中に居る・・何かが咆哮を上げた!


「あああ……がぁあああ―――!」


 その叫びは、蓬の口をついた周囲を震わす。

 同時にビャクの体から、黒い霊気が吹き出した!

 余りにも異質なその霊気は、到底蓬が本来持ってる霊気とは思えんかった。


「さあ! 来いや! あんたの全力でかかって来ー! ウチは手ー出さんから! ウチとあんたの、格の違いっちゅーやつを見せたるニャ!」


 ビャクの啖呵に呼応する様に、蓬の体から発した黒い霊気はその姿を黒龍に変えてビャクを襲った!


「ビャ……ビャク―――!」


 流石に今のは、離れた場所におる俺でもヤバいと感じた。

 瞬間的には、今俺と対峙してる人喫の化身よりも禍々しく強力な霊気を発してたんや!


「あはっ! あはっ! あははははっ! まだニャッ! まだこんニャんじゃ足りひんでーっ!」


 黒龍が着弾した場所は、まるで黒い炎の塊が渦を巻くように展開してる。

 炎渦に遮られて、ビャクの姿は見えへんけど、中からは何かを楽しんでる様なビャクの声だけが聞こえてた。


 暫くの後、全てを出し尽くしたんやろー、蓬は脱力したようにグッタリして肩で息をしながら炎の跡を見つめてた。

 そしてその視線の先には何事も無かったかの様な姿で、憐れむような眼差しを蓬に向けるビャクの姿があった。


「……その程度や。あんたの力なんてニャ……」


 その言葉に憐憫れんびんの情を多分に含んで、ビャクがポツリと呟いた。


「ウチはあんたニャんか、別にどうなっても関係ニャい。けどあんたが、この世界に顕現した時の想いを果たしたいんニャったら……流されるだけなんやなくて、少しは根性見してみーっ!」


 ビャクの言葉で、蓬の体が大きく跳ねた!

 同時にビャクの体から、白い霊気と黒い霊気が同時に沸き立った!

 二つの霊気は絡み合って上昇を続ける。

 まるで二匹の龍が戦い合ってるようやった。

 二つの霊気が発する白い輝光と黒い火焔は光量を増し、直視出来へん位になった。

 眩い光が収まりそこに残されてた蓬は、まるで突然動力が途切れた様に地面へ向けて落下し出した。

 すかさずそれを、ビャクが受け止める。


「……ビャク……蓬……?」


 俺の小さい呟きに、ビャクはこっちを向いてニッと笑い、蓬は……。


「……不知火……龍彦……」


 弱々しく微笑んで、小さく俺の名を口にしたんや。

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