嫌な前振り
毎夜十時を待って、俺達は見廻りを開始する。
俺の準備は万端や。
そして俺は、玄関に腰かけて、
こう見えて、俺が利伽に勝てるとこなんざ、全くない!
容姿から勉強は勿論、円満な人間関係に厚い人望。
俺とは
別に俺が、シスコンで引き篭りのコミュ障な上にオタクな挙げ句、勉強も運動も出来へん孤独で根暗な人間……って訳やない。
俺はそこそこ、普通に生活出来てる……はずや。
ただ、全てに於いて、利伽は俺を上回ってるってだけや。
ただそれだけ……それだけなんや!
……兎に角、そんな利伽から、俺達にも話さんような事をどーやって聞き出すか……。
それが難題やった。
「……お兄ちゃん……」
不意に、思案に更ける俺の背後から、
「なんや、神流かいな。寝てたんちゃうんか?」
この時間、いつもやったら神流は昨日の疲れからグッスリなはずやった。
でもその表情から、何か言いたい事があってわざわざ起き出して来たんやと察した。
「……うん……」
神流は俺の問いかけに頷いただけで、そこから先を話せなさそうにしてる。
何か思うところがあってこんな時間に起きてきたんやろうけど、今から神流に問いただす気はない。
そんな事せんでも、利伽から聞けばえーんやし。
「ほな、もー行くで。お前もちゃんと寝ーよ」
このまま待ってても神流の口が滑らかになりそうやないと感じた俺は、立ち上がりながら神流に笑顔を向ける。
その動きを見て何かを口にしようとした神流に、俺はそのまま首を横に振った。
「何や知らんけど、俺が直接利伽に聞くわ。お前らが何を隠して、何を悩んでるんか知らんけど、俺だけ
「……うん……」
俺の言葉をしっかり噛み砕き、ゆっくり思案し終えた神流は小さく呟いた。
「そや……ね……。“これ”は私の口からやなくて、やっぱり利伽姉ちゃんから言うことやろうから……」
聞いてる俺にとっては更に不安が広がる呟きで、俺は気が重ーなった。
「じゃー、お兄ちゃん。頑張りや」
そんな俺の気持ちなんて知ってか知らずか、神流は何かスッキリした表情になってる。
「おう、任しとけ」
何を頑張って何を任されたんかよー解らんけど、俺の返事にニッコリ笑顔になった神流は足取りも軽く自室へと帰っていった。
―――不安だけ増大した俺を置き去りにして……。
兎に角、神流にはあー啖呵を切った手前、今更後には引けへん。
やるしかない!
俺は、更に重くなった足取りで、夜の見廻りを開始する為に母屋を出た……。
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