一体何が……?

 ばあちゃんの所で、一通り話終えた俺と神流かんなは、母屋にある自室へと足を向けた。

 別にばあちゃんの所へ毎日通う必要なんてないねんけど、あの社殿を出る事が出来へんばあちゃんの為に、毎日外であった話をしに行こうって俺と神流の間で何時からか決まり事になったんや。

 反抗期が強かった時期なんかは「面倒めんどいなー」なんて、割りと本気で思ったりもしたけど、今は続けてきて良かったって思ってるわ。


「じゃーね、お兄ちゃん。お休み」


 神流は自分の部屋の入り口で一旦立ち止まって、隣の部屋の入り口に立ってる俺に声をかけた。

 まだ日も沈んでないこんな時間に「お休み」ってのも変な話やけど、正直俺は寝落ち五秒前や。

 けど“あの事”だけは念を押しとかなあかん。


「神流、解ってるやろな?」


「……うん。まかせとき」


 神流はしっかりと力強く頷いた。

 俺もそれに頷き返して、互いに部屋の中へ入った。


 あの事っちゅーのは、言うまでもなく「利伽りかの事」や。

 あんだけあからさまに何か悩み事を抱えてる利伽を見たら、例え大きなお世話でも放っとく事なんか出来へん。

 それは神流も同じ気持ちみたいや。

 神流に任しとけば大丈夫。

 神流に頭の上がらん真夏まなつは、神流と二人きりになったら間違いなく口を割る。

 俺はそう確信してベッドにダイブした。


 予想に反して、二秒で夢の中に突入した……。





 ―――翌日早朝。


 いつも通り目覚めた俺は、朝の修行の為に浴室で冷水を浴びて、脱衣場で着替えていた。

 そこへ帰ってきていた神流と鉢合わせする。


 ―――なんや元気がないな? 徹夜明けやからかな?


「おう、神流、お疲れさん」


「……お、おはよう、お兄ちゃん……」


「昨日はどう……」


「わ、私、シャワー浴びるから。お兄ちゃん、早く出てーや」


 俺の言葉に被せて、神流は早口で捲し立ててきた。

 何か様子が変やな……。


「いや、そやかてお前……」


「もう!えーから早(はよ)出て!」


 半ば背中を押される様に、俺は脱衣場から追い出された。

 目の前でピシャッと脱衣場の引き戸が閉められる。


 呆然と立ち尽くすしか出来へん俺。

 けどまー、それもしゃーないんかもしれん。

 例え妹と言えども、神流も女性や。

 それこそ昔は一緒に風呂とか入っとったけど、今はそーはいかん。

 兄的には悲しいけど、変態扱いされるのも勘弁や。

 俺はそのまま朝の修行へと向かった。


 修行を始める前から、精神的ダメージを負いながら……。





 朝家を出る時も、神流は終始無言を通した。

 時々俺が話しかけても、何処どっか上の空で、まともに会話も繋がらんかった。

 そしてその雰囲気は、利伽達と合流した事で最高潮に達する。

 利伽は昨日のまま、何を思い詰めてんのか妙に暗い。

 表情は時折深刻になってる。

 そこに神流が加わった。

 二人並んで、その表情までそっくりに歩いてる。

 こうやって見ると、俺とより利伽との方が姉妹に見えるのが何だかむしょーに悔しかった。

 ……ま、真夏はいつも通りやけど。

 二人に俺が話しかけても、返ってくるんは生返事ばっかり。

 心ここに在らずやな。

 ただ間違いないんは、昨夜に神流も事情を知ったって事やな。

 けどなんでか、俺にその内容は言われへん……と。

 まさか神流を問い詰めるなんて、俺には出来へんししたくない。

 問い詰めるなら事の元凶……利伽や!

 お誂あつらえ向きに、今晩は俺と利伽で夜の見廻りや。


 フッフッフ……見とけよー……!


 俺は密かに決意を固めた。

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