青き月光に照らされる10月のこと-3
「嬉しかったんだよ。」
白斗の台詞の真意がいまいち俺には分からなかった。その気持ちがそのまま言葉に出ていた。
「ん?どういうことだよ?」
「んーつまり、青真の予想はあながち間違っていないってことだよ。」
「だから、それがどういうことだよ。」
白斗と俺が煮え切らない会話を繰り広げている間に、紫苑がやっと口を開いて割り込んできた。
「青真、お前ずっと翠は俺のことを好きだと思っていただろう。」
「あ、うん…。」
「でもそれは勘違いだったんじゃないか、って思い始めたんだろう。」
「うん…。」
「で、自分にも可能性があるんじゃないか、って思い始めたんだな。」
「…うん。」
紫苑の声で、曖昧な言葉に濁された俺の問いは整理されてしまった。紫苑は口数が少ない。だからこそ、大事な時ほど、無駄な言い回しのないその言葉は率直に相手の元に届く。紫苑の性格の中で勘違いされやすい部分の1つだが、俺らにとっては気に入っているところの1つだ。それを肯定する返事をすることは時折とても勇気がいるが、いつも不思議と声が出る。頭の中の迷路にあかりが灯っていく。
「その考えが間違ってはいないってことだよ。」
最後の最後に濁してきた。
「だから、それが何なんだよ。紫苑、濁さずに最後まで言ってよ。」
紫苑らしからぬオチに俺は気が抜けてしまった。
「フハッ。」
聞こえてきた吹き出す声に、俺は更に気が抜けた。
「おい、白斗ぉ。気ぃ抜けるだろ。」
「ははっ。ごめん、ごめん。つい…な。紫苑、結局お前が全部話したじゃねぇか。」
「白斗が話さないからだろう。あのままじゃ進まない。もうすぐ家だし。」
「わはは、本当だ。悪かったな。じゃあ…。」
「おいっ。」
別れようとする白斗を呼び止める。冗談じゃない。俺はまだ答えを聞いてないぞ。
「まあまあ、青真くんよ。落ち着きたまえ。お前の考えはそう間違っちゃいないって言っただろうよ。そのくらいにしておけ。今ここで全てを知ってどうすんだ。気になるんなら、真正面から行ってこいよ。」
「そんなに言うほど簡単じゃないだろう。行けたら行ってるよ。」
「確かになぁ。うん、うん。」
腕を組んでわざとらしく頷いて顔を上げた白斗と目が合い、ふっと笑いがこみ上げた。顔を見合わせて2人で笑った。さっきからずっと張っていた気が緩んでいくのが分かった。
「そういえばさ。」
1人だけ笑わずにそのまま歩く紫苑がふいに声をあげた。
「青真、何で突然そんなこと思うようになったの?」
「あ、そういえば!俺も知りたい。」
「んー、どこから話せばいいかな。」
もう家は目の前だった。でもまだ話し足りない。結局、俺や紫苑の家の前まで来てから白斗の家に回ることになった。
その道中、俺はいろんな話をした。
進度別クラス分け授業で翠と隣の席になった時のこと。紫苑と朱里が揃って寝坊した朝のこと。梅雨時のいわゆる相合傘の件。夏休み前紫苑と朱里を2人で待っていた放課後のこと。夏休みのプールの帰りのこと。体育祭の練習でのこと。そして体育祭当日のこと。
白斗や紫苑は、うん、うんと頷いたり、驚いたりを繰り返していた。
話しながら俺は考えていた。2人に話すにつれて俺の中のいろんなものが整理されて、だんだんと1つの道筋にまとまりつつあった。
「1度、ちゃんと話してみなくちゃな…。」
「ん?青真、今何か言ったか?」
「いいや、何も。まあ今日はありがとうな。」
「なんだよ、照れくせぇな。」
「本当に。俺らにくらい話してよ。」
「ああ!」
すっきりした頭では、月が余計に綺麗に見えた。
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