ACT26ー③ ミドルフェイズ GM 『じゃあ、いっそ裸でいいじゃん!』

 いよいよお待ちかねの戦闘である。


 単騎にて颯爽と戦場に赴く“白血のエレクトロン”桃山クルミ。

 心なしか、顔が引きつっているように見えるのは気のせいか。





クルミ:ねぇ、誰か早く出てきてよー。


銀造:ところで、登場するためにはどうするんだっけ?


GM:「【魅力】×5」の判定に成功すれば。あと、相棒(バディ)同士の場合には+20%のボーナスがあるけど。


影介:わかった!


ふうか:ねえねえ、私ってこの病院にいるんだよね?


GM:もちろんです。


ふうか:私って入院してるんだけどさぁー。『制服』ってあるの?


影介:制服? ああ、防具だからか。


ふうか:あと、『和弓』も。


銀造:入院中は『制服』の代わりに、『包帯』が防御力を与えてくれるんじゃないか?(笑)


GM:『和弓』は後輩が病室に持ってきてくれているんで、立てかけてありますし、『制服』も壁に掛かっています。


銀造:何か、遺品みたいな状態に(笑)。


ふうか:違うわーーー!


銀造:しかし、アレか。『制服』を着るためには、強制的に着替えシーンが必要だな。考えたな、GM(ニヤリ)。


ふうか:キモーイ! って言うか、最初から着てるし!


銀造:イヤ、ICUに入院中は、さすがに着ていないと思うが……。


クルミ:じゃあ、たまたま着替えていたんじゃない? よくわかんないけど。


銀造:何で、そんなにサービスシーンを削ろうとするのか(嘆)。


GM:まあ……着てませんよね。なので、1ラウンドかけて『制服』を着てから行くか、それとも、そのまま行くか……だね。


ふうか:着替えるのに1ラウンドかかるのかー……。


銀造:あ、そうだ! 《†エアカッター》を使って、体に巻いてある包帯を切り裂けば、着替えに1ラウンドかからないとか!?


クルミ:なんでわざわざ切り裂くんだよー。おかしいじゃん!


ふうか:え!? 包帯取らないと着替えらえれないの?


クルミ:そんなことあるわけないじゃん! 取らないよねー?


ふうか:ねー!


銀造:そっかぁー……。すっごくいいアイデアだと思ったんだけどなー……。


クルミ:じゃあ、いいよね? それに包帯グルグル巻きだったら、『制服』くらいの防御力ありそうじゃん。


GM:ないよ。防御力。


ふうか:なんでぇーーー!?


GM:じゃあ、いっそ裸でいいじゃん。


クルミ:えー!?


銀造:なんでいきなり裸まで行っちゃうんだよー!? それじゃおかしいだろ!?(笑)


ふうか:そうだそうだー!





 なんつーか、何とかサービスシーンをねじり混もうとする魂胆が透け透け……違った、見え見えである。エローイ!


 ま、仕方ないよね? 漢(おとこ)だから。


 しかし、こんな男性陣(除く影介)の好感度が目に見えて下がっているのは気のせいか。





銀造:まあ、『制服』を着るか、着ないかだけの選択じゃないの?


ふうか:じゃあ、着るかー。1ラウンドかけて。


銀造:しかし、こんな緊急事態に「まず制服着てかなきゃ!」ってのもおかしい気はするなー。「とりあえず和弓持ってかなきゃ!」だったらわかるけど。


ふうか:うーん……。そっか。そだね。じゃあ、『和弓』だけ持っていこうっと。


GM:おお!


銀造:漢(おとこ)らしいね!


ふうか:その代わり、遠くから撃つからね? 弓だから。


影介:漢(おとこ)らしくないよね。それ。


ふうか:いいの! 女だし!


GM:さあ、行くよ!


クルミ:来い!!


銀造:相変わらず威勢だけはいいよねー。


GM:というわけで、最初に登場しているのは、病室にいるふうか。それと、病室前の廊下にいるクルミの2人。


影介:登場しなきゃ、登場!


銀造:だな。……えーと、俺たちっていつ登場できるの?


GM:はい、『セットアップ』の時に「【魅力】×5」の[登場判定]に成功すれば、『セットアップ』の時に画面の端の方に登場できます。


銀造:端? ってことは、登場しても移動しなきゃなんないのかー。


GM:だね。いずれにしても登場しないと話にならないけど。


影介:わかったー。頑張って登場するよー。【魅力】低いけど。


GM:相棒(バディ)が出ていればボーナスもらえるから。


影介:そっか。それなら。





 というわけで、GMが用意したのは、3×3マス(合計9マス)のマップ。

 中央マスに包帯少女ふうか。の代わりのブルーのダイス。

 その左右のマスにゾンビフィギュアが2体ずつ。まさに“挟み撃ち”状態である。

 そしてふうかの手前のマスには、ピンクのダイス。

 もちろん、「“雷華”参る!」の桃山クルミ、その人である。





GM:(マップの真ん中を指して)風見鶏がいる!


ふうか:イヤ、挟まれてるじゃん、ゾンビに! ヤバイって!


クルミ:ホントだよ! っていうか、私一人じゃなかった! やった!


銀造:いや、それは別にやってないような……。


GM:というわけで『セットアップ』!


影介:ハイ! 登場したい!(挙手)


銀造:同じく!(挙手)


GM:まず[登場判定]どうぞー。まあ、二人ともシーンに相棒(バディ)がいるからボーナスもあるから、楽勝でしょ?


影介:成功したら、すぐに登場できるの?


GM:次のラウンドの『セットアップ』の時に、クルミと同じように手前の3マスのどれかに登場することができるよ。


銀造:ところで、移動ってどのくらいできるの? マス的な意味で。


GM:1コマだね。


銀造:じゃあ、近いところに配置するしかないな。っていうか、(ふうかのマスを指して)「実はここにいた!」とか。


GM:できません(キッパリ)。


銀造:やっぱムリかー……。じゃあ、[登場判定]するかー。ボーナスあれば110%だから……(コロコロ)……成功。


GM:了解。では配置を。


銀造:まあ、クルミと同じ場所かな(グリーンのダイスを置く)。


クルミ:(影介に)早く、登場してー!


影介:わかった! ……ボーナス入れて70%かー。……(コロコロ)……成功!


クルミ:やったー!





 しかし、颯爽と登場した影介(イエローのダイス)は、なぜかクルミの左隣のコマに。





クルミ:あれぇー?


GM:あ、相棒(バディ)から離れた場所に出るの?


影介:敵の目の前の方がいいからね。


銀造:そうかなー……。


GM:まあまあ。じゃあ、全員、【先制値】を決めるから、1D10を振って、出た目に【行動値】を足してー。


一同:はーい! ……(コロコロ)……。


銀造:15。なかなか早いな、これは。


クルミ:私も15だよー。


ふうか:18! 早いでしょ!


GM:おお!


影介:やった! 21!


GM:おお! はえーーー! じゃあ、敵はまとめて……いくぜぇ! ……(コロコロ)……よっしゃ、18!


銀造&クルミ:えー……。





 という感じで、1ラウンド目の【先制値】はこんな感じに。


 影介  【行動値】12+9=【先制値】21

 ふうか 【行動値】11+7=【先制値】18

 敵   【行動値】?+?=【先制値】18

 クルミ 【行動値】9+6=【先制値】15

 銀造  【行動値】7+8=【先制値】15





GM:じゃあ、影介が一番早いんだね。あ、敵は全部同じ【先制値】ねー。


ふうか:ねえねえ、私って敵と同じなんだけど、どっちが早く動けるの?


GM:PC優先だから、ふうかが先。


ふうか:いぇーい!


銀造:ところで、【先制値】って毎ラウンド決めるの?


GM:そうそう。


銀造:俺の【行動値】だと、先手を取れる可能性は限りなく低いな。だってダイスで「8」出したのに、これだよ? まあ、仕方ないかー。能力値の割り振り的に。


影介:そうそう。僕は【身体】も【感覚】も高いからね。


銀造:そう言えば、風見鶏サンは怪我とかしてるの? さっき能力を使った時に払ったコストの『軽傷』以外で。


GM:ハイ。怪我はありません。


ふうか:そうなんだ、怪我はないんだー……。良かった! 治ってた!


クルミ:良かったねー。


銀造:つまり、アレだ。仮病だ。


ふうか:は!? 仮病じゃない、仮病じゃないよ! 本当に大変だったの!


銀造:へー。


GM:じゃあ、【先制値】21の影介サンから。


銀造:そういえば、その前に、『セットアップ』で出来る行動があったよね。『特性能力』を使うとか。


GM;ですね。ある人は今のうちに使ってー。


クルミ:あ、そうだった。じゃあ、えーと……《†サンダーストライク》!


GM:武器に雷をまとわせるヤツ、だっけ?


クルミ:そうそれ。えーと、……(ルールブック確認)……「【特性能力】で判定。自身が装備している武器の属性を『雷撃』に変更し、攻撃力に『特性能力ランク』をプラスする」。シーン終了までだって。


GM:おおー。では【特性能力】の判定を。あ、コストの「疲労2」も支払っておいてね。


クルミ:はーい。……(コロコロ)……成功だよー。じゃあ……「あなたが風見鶏さんね? “雷華”行くよ! 『サンダーストライク』!」


GM:では、“雷華”は刀身に雷をまといました。


クルミ:あ、『射程:至近』って同じマスじゃなきゃダメなんだよね?


GM:そうです。同じマスで、なおかつ『接敵(エンゲージ)』する必要がありますね。


クルミ:そうなんだ。あ、じゃあ射程が『近』っていうのが隣のマスに攻撃できるんだ。


GM:そうそう……(ルールブック確認)……あ、違うね。同じマスでエンゲージしていない状態が『近』なんだ。


ふうか:え!? そうなの!? それが『近』って言うの? めっちゃ近いじゃん! えー! ヤダ! 私、離れた場所に攻撃できると思っていたから『弓』とかにしたんだけど。


銀造:まあ、イメージ的にはそうだよな。


ふうか:ヤダヤダ、そんなのーーー!(叫)


影介:そう言えば、『エンゲージ』ってどうやって決まるの?


GM:同じマスに入って、特定の相手に対して『エンゲージ』を宣言するとできます。『エンゲージ』すると『封鎖』と言って、相手の移動を制限することもできます。


ふうか:(聞いていない)ヤダヤダ、ねぇGM~! そんなんじゃ、私、ムリなんだけど! ねえ、じゃあ、移動とか攻撃って斜めにも出来る?


GM:えーと、縦と横だけだね。斜めはできない。


ふうか:がーん。っていうか、困るんだけど!?


GM:自分の手番の時になると、『ムーブ』『メイン』『フリー』のアクションが出来るから、「移動」して、『エンゲージ』しないで『近距離』にして「弓で攻撃」すればいいじゃん。


ふうか:だって、同じマスに行かなきゃ行けないんだよ!?


銀造:まあ、そりゃそうだ。行けよ、同じマス。


GM:(深く頷く)。


クルミ:そう言えば、『エンゲージ』された場合、射程が『至近』になった場合、射程が『近』の武器でも攻撃できなくなっちゃうってこと?


GM:もし射程が『近』だけなら、ね。


ふうか:ムリムリムリムリ! だって、私の『和弓』は『射程:近』だよ。ムリだよーーー!!(絶叫)


銀造:……(ルールブック確認)……あ、ホントだ。『射程:近』のみ!? なんだこりゃ(笑)。


ふうか:でしょ!? 最初からそうだってわかってたら、選ばなかったよ! 絶対!


影介:まあ、確かに。


GM:(笑)。


ふうか:別におかしくないよ!(怒)


クルミ:ん? ちょっと待って。そもそも『和弓』で攻撃する必要ないんじゃないの? だって、『特性能力』があるんだよね? ふうかちゃんは、《風候操作(ウェザーキャスト)》だから、風の能力(チカラ)で攻撃するんじゃない?





 何という当たり前の発言。

 当たり前すぎて逆に新鮮。

 実際、クルミに指摘されるまで、その事実をすっかり忘れていた面々であった。

 一体、何のゲームをしようとしていたのか。


 「……そっか、そう言えば俺たちってオーダーじゃん!(笑)」みたいな?





ふうか:……そっか。そうじゃん。そうだよね!(喜)


クルミ:そうだよー。使える能力だって一杯あるし。……(ルールブック確認)……あ、みんな『近』だ。どうすんの、コレ?(笑)


一同:アハハハハハーーー!!


ふうか:なんなんだよーーー!!(絶叫)


銀造:ん? でも、『セットアップ』で《†ライドウィンド》を使って『飛行状態』になっていれば、相手が空を飛ばない限り『エンゲージ』されないよね。つまり、同じマスに入っても『近』のままじゃん。


ふうか:! ハイ、飛行~! ハイ、飛んだ~!


一同:えーーー!?


クルミ:せっかく初めて『飛行状態』になるんだから、何かカッコ良く演出したら?


銀造:そうそう。トルネード的な感じで。


ふうか:そっか! じゃあ、私の周りに風が集まって「ぶわーーーっ!」って体が浮き上がる。


GM:病室の中だけど。


ふうか:そう。病室の中だけど。いいよね? 『セットアップ』に飛んでも。


GM:了解です。では【特性能力】で判定を。


ふうか:……(コロコロ)……成功! じゃあ「ぶわーーーっ!」って飛ぶ!


銀造:しかし、このゲーム、最初に射程の概念がわかってないうちに武器とか選ぶと大変だね。『近』とか『至近』とか、さ。


影介:確かにそうだね。


ふうか:でもさぁ……射程が『近』の《†エアカッター》とかあったからさぁ……。わかっていたら、『和弓』じゃなくて、銃とか選んだのに。武器。


銀造:いや、キミ、女子高生でしょ? まだ能力(チカラ)に目覚めていないからガーデンに属してないし。つーか、女子高生だから、『和弓』にしたんじゃないの!?


クルミ:そうじゃん。


ふうか:うーん……。


銀造:女子高生なのに『機関銃』とか選ぶの?


ふうか:! 「セーラー服と機関銃」!?


銀造:よく知ってんなー。


クルミ:あ、今やってるよね。映画で。


GM:そうなんだ。薬師丸ひろ子?


クルミ:いや、薬師丸ひろ子がやってたら超ウケるんだけど(笑)。


GM:誰がやってるの?


クルミ:えーと、知らない。


GM:まあ、知ってるけど。


銀造:知ってるなら言えよ! ……(ググり中)……あ、橋本環奈か。『仮面ライダーウィザード』のヒロインやってた人だよね。


GM:うん、そうそう。あのゴスっぽいヤツね。


ふうか:へー。


クルミ:いや、いいよ、仮面ライダー談義は! 先に進まないじゃん。


影介:確かに。





 「脱線もまたTRPGの醍醐味」とは、某ベテランゲーマーの金言である。

 そもそもテーブルでトークするロールプレイングゲームなのだから、会話が盛り上がってナンボ。

 しかし、「自分だけが盛り上がっていて、誰もついてきていない」という寂しい状況に陥らないよう気をつけよう―――そう銀造(のプレイヤー)は自らを戒めるのであった。



 つづく!

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