第14話 初舞台
六月下旬、今日はいよいよ初舞台の日だ。みんな緊張気味だったが、一番緊張していたのは、ペンギンの衣装を着たアカリだった。おばあちゃん達が老人ホームの集会所に集まってきた。その中にはアカリのおばあちゃんもいた。しかしジャグリングといっても何かを分からないおばあちゃん達もいた。
そんな中、シホが舞台に上った
「みなさん、こ・ん・に・ち・わ。今日は神戸山手高校ジャグリング部のショーにお集まりいただきありがとうございます」
シホのゆっくりとした声が集会所に響いた。いよいよ始まる。シホは、今日使用する道具の説明を一つ一つ丁寧に説明した。しかし初めて見る道具に理解できないおばあちゃん達も数多くいた。挨拶が終わり、いよいよ演技が始まる。まずはユウキからだ。ドク、ドク、心臓の鼓動が手に取るように分かった。何も考えず、落ち着いてしよう、そう自分に言い聞かせ舞台に上がった。
「まずは、ユウキ君のディアボロの演技です」
「よろしくお願いします」
若干声が震えていたが、気持ちを切り替え、ディアボロを回し始めた。大丈夫何とかなる、失うものなんて何もないんだから、自分にそう言い聞かせた。加速から、足の回り、腕の回り、ムーンサルト、一つ一つの技を確かめるように演技した。手首の力の入れ具合をコントロールでき、ディアボロがスローモーションに見えた。技が決まるたびに拍手や歓声が起きた。演技は無事終わった。完璧な演技もそうだが、それ以上におばあちゃん達の笑顔が見れて気持ちがよかった。ジャグラーにとって最もうれしい瞬間だ。これだ、ユウキはこの喜びをかみしめた。舞台から降りるとき、次の演技をする四人に
「頑張ってね」
と自然と声をかけた。そのあとアカリから
「おばあちゃん達みんな喜んでいたよ、ありがとう」
と言われ、普段あまりアカリとは話をしたことも練習したこともないユウキはドキッとした。
「うん」
とうつむきながら答えるのが精一杯だった。アカリは初心者だけでなく、僕のこともちゃんと気にしてくれているんだ、と思い、うれしかった。次の初心者四人のボールの演技が始まった。全員で三ボールの最も基本となるカスケード、その次の技、ハイローシャワーに持っていく瞬間、
「ボトッ」
手からボールがするりと抜け、ミライのボールが床に落ちた。
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