第6話 入部
過去の自分を思い返すと嫌なこともあったが、今再びボールを持ってユウキはジャグリングサークルの部室の前にいた。少し薄汚い感じの部室で入りづらく感じたが、もう決心したんだ、そう自分に言い聞かせ思い切ってドアを叩いた。
「あのー。入部したいんですけどいいですか?」
部員達は一斉にこっちを見たが、うそって感じの雰囲気で、一瞬、空気が止まった感じがした。しかしユウキの姿を見ると、すぐさまシホが話しかけてきた。
「君、一年生? 名前は?」
「ユウキって言います……」
恐る恐る返事をした。
「そう、大歓迎よ」
素っ気ない口調だったが、シホはユウキを優しく迎え入れてくれた。
たったこれだけで入部できるんだ、当たり前のことではあったが、今更ながら納得した。これでもう一度ジャグリングができる……少し安心した。
新入生で初めて入部したこともあり、不思議そうに見る先輩もいたが、ユウキに興味を持った先輩からいろんな質問をされた。ユウキは父がプロのジャグラーであることは隠して、適当に返答した。
「好きな道具使っていいよ。貸してあげるから、何がいい?」
「ボール持ってきたんで……」
自信なさそうにそう答えると
「もしかして経験者? じゃあ早速やってみようか」
そう言われて練習することとなった。久しぶりにボールをするせいか、緊張し、感覚を思い出せなかったが、少し練習をすると三ボールは、次第に出来るようになった。
「おっ、凄いね」
そう先輩に言われて、久しぶりに褒められたなって思った。できないとは思ったが、昔していた五ボールに挑戦してみた。目をつむり精神統一した。頭の中で父ちゃんの姿、初めてできたときの感覚が浮かんだ。よし、心の準備をし、紫のボールを左手で投げ上げ、右手で黄緑のボールを、さらに左手からピンクのボールを、と順番に投げ上げた。不思議なくらいボールが流れるように動いた。あっ、昔味わった懐かしい感じが体の中を突き抜けた。もっと出来るぞと言わんばかりに体が勝手に興奮している、そんな感じだった。僕の体は一体どうしたというんだ、ユウキは不思議に思った。
「上手だね」
そう言われたが、自分をコントロールできず、ハァハァと息をついた。
練習を終え、体の興奮が収まらないまま、ユウキはまたあの子の事が気になり
「他の一年生は入部しそうですか?」
と尋ねると、シホは
「そうね、二人組の女の子が興味持ってたわね」
「そうですか。では今日はこれで失礼します」
そう言って部室を後にした。帰り道、あの子が気になり、道路からショップをのぞいてみた。しかしお客さんは誰一人いなかった。ユウキはショップと入学式で見た女の子はてっきりもう入部していると思っていたため、あの日何かあったのかなと余計な心配をした。まぁいいや、今はとにかくジャグリングに専念しよう、そう思った。練習を終え、もう二十分くらい経ったが、ユウキの体はまだ、興奮から冷めやらない状態だった。
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