第2話 ボーイ ミーツ コーラ
「ここが、じいちゃんのルームね……」
俺は何年かぶりにじいちゃんの部屋の前まで来ていた。
別にじいちゃんのこと嫌いになったとか、そういうわけじゃないよ。
本当だよ?
どっちかって言うと……。
えへへ、ううん!なんでもない、何も言ってないよ、本当になんでもないから。
閑話休題。
じいちゃんの部屋に向かう廊下は、普段生活している辺りからはかなり離れているせいで、少し埃っぽかった。
黒くて丸い、煤の妖怪みたいのもいたような気がする。
だが、部屋の扉の辺りに来ると、明らかに様子が違っていた。
定期的に掃除用のロボット__見たことがない機械だったが、さまよう姿はさながらルンバ__が徘徊しているおかげか、文字通り塵ひとつない。
それどころか、ローションでも塗られたみたいにツルツルだ。
何回か転んだ。
とまぁ、そんな場所に来た俺は、ある種の異様さを感じていた。
普段、自分が住んでいる家の中とは思えない。
だが、
それにも関わらず、俺は不思議な気持ちにもなっていた。
端的に言うと、なんか興奮してきたんだ。
「俺にはわかる。俺の中にある何かが、コーラはここにあると確信させる」
端から見れば、馬鹿に思えるかもしれないが、本当のことだ。
この部屋にはコーラがある。
あると言ったらある。
そう思わせる「スゴみ」がある。
なにしろ入り口横の植え木鉢にはアオイ科コラノキ属の木が、天井を突き破って伸びているんだ。
これでモノホンのコーラが無かったら詐欺だ。
「鍵は……掛かってない。こんなに無防備にしやがって、入ってくれって言ってるようなもんだよなぁ。誘ってンのかァ?」
そうやって軽口を叩きながらも内心では、高鳴る鼓動で壊れそうだった。
「フィーヒヒ!それじゃあ開けちゃおうかなぁ…………メルロン!」
ドアノブに手を掛けようとした瞬間。
スッ
「おろっ?」
まだ俺は触れてすらいないのに、ドアの方から勝手に開いた。
もちろん、自動ドアなんていうゴー☆ジャスなものじゃない。
「まさか妖怪のせい……? う~、コワや……コワや……」
上の口ではそう言いつつも、下半身は正直だ。
早いところ気持ちよくなりたい。
俺の足は、ドアの中へと吸い込まれていく。
「あぁ! 逃れられないっ!」
コーラの誘惑に逆らう事などできやしない。
どんな聖人君子だろうと、例外はない。
これもいきもののサガか……。
じいちゃんルーム
「うわぁ…じいちゃんの部屋の中‥あったかいナリ…」
勘違いしないで欲しいんだが、これは別に冗談ではなく、本当に部屋が暖かかったんだ。
いや暖かいというより、むしろ暑いくらいだ。
廊下でも燃えてるんだろうか?
そう思ってしまうくらいの温度だった。
汗が噴き出す。
「これじゃあ、まるでサウナだよ……。俺はフィンランド人でも、シナモンロールとおにぎりがメインの食堂でも、カバの妖精の血族でもないんだぞ。まったく……」
まぁ、そんな不満もこの際は我慢するしかない。
なにせ、コーラが待ち受けているんだからな。
俺は流れ落ちるピンク色の汗を拭きつつ、じいちゃんの部屋の探索を開始することにした。
「行動学の見地から、人は迷ったり未知の道を選ぶ時には、無意識に左を選択するケースが多いらしい……。だから右側から調べるか」
そんでまぁ、右側の壁の棚から調べ始めるわけだ。
「これは……イノシシ5頭分の薫製と大鍋半ダースに及ぶ内臓の塩漬けか。こりゃあ、腐ってるな。間違いない」
普通の人間には分からないかもしれんが、俺は詳しいから分かるんだ。
ちなみに、どうやって腐ってると判別したと思う?
匂いを嗅いだとでも?
あぁ、そうだ。
まぁ、とりあえず右側はそれくらいだ。
これで残るは真ん中と左側。
正直なところ、俺はどっちからでも構わないで調べちまう男なんだぜ?
せっかくだから、俺は真ん中の棚を選ぶけどな。
「なーにっかなー! なーにっかなーっ!」
スキップスキップらんらんらんで、元気ハツラツ、意気揚々な足取りで移動した。
って、え!?
まさか、これは……!
こ、こんなものが……!
おおッ……。
そ そんな……。
これは、すばらしい……。
シンジラレナーイ……。
さ……。
さか……。
酒棚だな。
中には、大量のビンが入ってらっしゃるようだ。
「えっと、中身はぁ……空いてるな。あとは、コーラの王冠が山のようにあるが……。俺のじい様は補助輪のジェームスだったのか?」
じい様に対する俺の好感度は、絶賛最低値を更新中だ。
「ったく、これがコーラメーカーの重役の部屋かよ。王冠はコーラだけど、ビンはオレンジジュースだしよぉ。なんて言えばいい?」
ちょっとばかり、これは良くないぜ。
くだらないことかもしれないが俺の全身から
わきあがる、この気持ちはヤバいぜ。
大の大人が子供や孫に隠れてジュースを飲み
明かすなんてのは恥でしかねぇ。そんな奴の
神経が分からないね。
「はぁ……マジで軽蔑だぜ……じいちゃん。って、あれ?」
俺は視線の端に、キラキラと輝くものがあるのに気がついた。
それは酒棚の、すみの方にひっそりと、チョコレートの陰に並んでいる。
「小さな光が点いたり消えたりしている。小さい……電球かな。
イヤ、違う、違うな。電球はもっとジワーって光るもんな」
それは炎のように揺らめいているようにも、オーロラのようにも見えた。
私は慄然たる思いで、その光の方へと震える足を進め、それを発見した。
それは楕円とも長方形とも言えぬ奇妙な形をしており、私の矮小な脳が記憶する、永劫に忘れえぬであろうあの形と合致した。
また、それは深淵よりもなおも黒いであろう冒涜的な液体を内部に有しており、この世ならざる宇宙的な美を放っていた。
あぁ、もう既に私には理解できていた。
これこそが、私が求めていた恐るべき狂気の液体。
私をおぞましき暗黒へと誘う誘い水。
語るも忌まわしき神々の深淵たる「コーラ」なのだと。
「うっ、うわぁぁぁっ!!? コーラ! コーラ! コーラ! コーラぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ……ああ……あっあっー!あぁああああああ!!! コーラコーラコーラぅううぁわぁああああ!!! 」
飲むまでも無く分かる。
これは明らかにコーラだ。
どんなにチェレンコフ光っぽいのを発していてもコーラはコーラだ。
俺は知能指数が高いから分かるんだ!
「あっ、でももしかして温いんじゃ…………はっ!」
確かめようとしてビンに触れた。
その瞬間、俺は両目から涙を流していた。
「ううっ……。キンキンに冷えてやがる………。あ……ありがてぇ……。涙が出る……」
俺のじいちゃんは偉大だった。
さすが重役。偲びねぇな。
「さぁ、開ける……ん? なんか紙が付いてんな、どれどれ拙僧が見てやろう……」
薄汚い紙に書いていたのは、たった一言。
私を飲んで。
それだけだった。
「えっ……なにそれは……。ドン引きです……」
いくらなんでも、これは趣味が悪い。
コーラと誰かを重ね合わせて、擬似的なボレアフィリアをしていた……とか?
うわ。
じいちゃんの株価は最安値を再更新した。
この出来事は後に、ジーチャンショックと呼ばれるだろう。
「これ以上じいちゃんと関わると、自分に流れる血の業に絶望するな……。早く飲んで、学校へ行こう。この部屋暑いし……」
俺はポケットに忍ばせていた栓抜きを取り出して、王冠に宛がった。
俺は常に栓抜きを持ってる。
栓抜きを使えない男ってのは、挨拶できない男と一緒だからな。
っと、そんなことはどうでもいい。
俺は栓抜きに全神経を集中させる……。
自分の神経を栓抜きにまで伸ばすような感覚だ。
そうして栓抜きと自分の境界が曖昧になったなら、カウントアップスタート。
行くぞ……。
いち……。
にぃの……
PON☆
シュワァァ…………。
「おはよう……コーラ」
俺は、コーラを一気に煽った。
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