第3話 コーラのエンペラー
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」
俺はじいちゃんの部屋の中で、くるくると躍り狂っていた。
この場所が墓場で、もしも映画を撮ったなら、素晴らしい映画として語り継がれただろう。
でも、俺にはその収録は無理だったろうな。
なにしろ、
「んほぉぉ! コーラしゅごいのぉぉ!!」
絶頂めいた多幸感で、無意識にダブルピースをしてしまう。
こんな状態なんだからな。
端から見れば、感度3000倍に改造されたみたいに見えるかもしれないな。
とはいえ俺は、別にくノ一ってわけじゃあないし、ビクンビクンするほど悔しくも無いから
、そんなプレイに手は出す訳がない。
じゃあ、なんでこんなことになってしまったのかって?
それは前話で俺が飲んだコーラに秘密がある。
俺の足下に転がってる、空っぽのコーラのラベルには、こう書かれていた。
「DCS」
何の略なのかは後で書くんだが、とりあえず表側にはそう書いてある。
それは別に置いといてくれて構わないんだが、問題は裏側の説明文だ。
そこには、こう書いてあった。
数えきれない食材・薬物・ナノマシンを精密なバランスで配合し、特殊な味付けを施して煮込む事七日七晩!!
血液や尿からは決して検出されず、なおかつすべての薬物の効果も数倍……。
時間を置いて熟成させてから
これが……長年にわたる研究の結果たどりついた……。俺の究極の飲み物!!
Doping・Coke・Special
だそうだ。
正直なところ、こんな神妙不可思議にて胡散臭い説明なんだが、効果は本物に違いない。
なにしろ、こうやってガクビクする前は延々と三角懸垂を続けてしまったくらいだからな。
おっと、またDCSの波が来ちまったみたいだ。
「ぬふぁーん! このままじゃ収まりがつかないんだよなぁっ!! フンッ!」
大いなる力を得た俺は、部屋の入り口から見て右側の棚に、大いなる責任を帯びてメタルヒットをかました。
俺の強化された肉体は、腐敗して怪しげな触手を伸ばす猪を突き飛ばし、大鍋いっぱいの熊の内臓の塩漬けをも見事に粉砕(玉砕・大喝采)
まさにアンストッパブル。
まさにアンチェイン。
「うおォン! 俺はまるで人間火力発電所だっ!!」
目覚めた力が体を駆け巡る。
あぁ、理解できたぞ。
この力こそが、まさに世界を支配する力……。
そして、無知な科学者にはたどり着けぬ極地…… 。
俺の体は、その証明だ。
「俺は今コーラを超えた!!!」
獣のような声が、部屋の中で激しく響き渡った。
これだけの力があれば、コーラの千年帝国だって作れるに違いない。
いや、造らねばならない!
強いられているんだ!
そうと決まれば、今すぐに……。
「おいヒューマン、なにをしているのかね?」
崇高なる使命に目覚めた俺を、背後から誰かが呼んだ。
「グゴゴゴゴ……。誰だ? わが使命を妨げるものは?」
俺は凄まじい速さで振り向いた。
その速度、実に秒速5cm!
たっぷり10秒くらいかけて、俺は振り向くとこに成功した。
だが、DCSに侵された今の俺には、どんな顔を見ても、どんぐり眼にへのじ口のくるくるほっぺにしか見えない。
なんで……俺の家にニンジャがいるんだ?
アイエエエ……。
ニンジャは俺の様子を見て、何かを理解したような顔になった。
「ははーん。さては、脳までコーラに侵されたか……。だからあれほど、コーラの代わりにと、ドーナッツを勧めたというのに」
青い装束に身を包んだニンジャがドーナッツがどうしたとか話している。
でも、もう俺にはそれが理解できない。
あぁ、そろそろマックシングが来ちまったみたいだ……。
もう、なに言ってるかわがんねぇよ。
「オレ……コーラ……ノム。コーラノンデ……コーラノチカラ……モラウ」
俺はコーラと滅びゆく肉体のせめぎあいの真っ只中にいる。
もはや俺は、コーラを求めるだけの亡者だ。
「なるほど、永久的発狂か。もはや手立てはないな。黄色い救急車に電話するから待っているがいい」
そう言ってドングリ眼は、流れるような動きでスマホを取り出して何処かへ連絡を始めたようだ。
PI PO PA プー。
部屋に流れる発信音。
それは、俺の娑婆での生活はタイムリミットが迫っていることを示していた。
本来であれば、俺はこんな音など聞こえもしなかったかも知れない。
だが、その瞬間、僅かに残った俺の自我が、奇跡的にギリギリで踏みとどまった。
社会的地位を守ろうと、愉快な味方、に受け答えを始めたのだ。
「ヤメロ……。だいじょうぶだ。おれはしょうきにもどった!」
なんとか、俺の中には人間性が残っていたようだ。
啓蒙もない。
完璧な欺瞞だ。
よっぽどのニンジャ洞察力を持たない限り気づく筈がない。
クックッ……。
ダメだ……。
だ……駄目だ。
まだ笑うな、こらえるんだ。
しっ……しかし……。
「ならばヒューマン、私の名前は言えるかね?」
ゴウランガ! レジェンドニンジャ相手には、このレベルの偽装すらも通じないのか!?
一瞬にして俺の精神は崩壊寸前だ。
もはや、アーカムアサイラムの仲間入りは避けられないのか!?
いや、生きることから逃げるな!
必ず、最後に愛は勝つんだ。
まだ、試合終了じゃない。
俺は必死に考える。
「ハトリ……」
「……なに?」
ハトリではないと言うこいつは、ゆっくりと右腕を後ろに引き始めた。
その動きから俺はつぎの動作を予測出来てしまった。
「いや、待て!分かるんだ!」
俺は手を頭に当てて、しばし考える。
「シンちゃんか?」
「違うよ。ヒューマン」
左腕を前に構え、右腕を後ろに配置している。
左腕が前、右腕が後ろ、更には腰を切れる体制に入っている。
これはマズイ。
彼女はシンちゃんではない。
このままではケジメ案件だ。
溢れでる汗が、思考を鈍くさせるように感じる。
おそらく次がファイナルアンサー……。
外すことはできない。
「どうした、ヒューマン?答えないのかい?」
ニンジャは既に腰を深く落として、俺に拳を向けている。
このまま黙っていても、この拳は必ず飛んでくるだろう。
それは死を待つことと同義だ。
ジャック・クリスピンも言っていた。
「死んでるように生きたくない」と。
ならば俺は、一縷の望みに全てを託そう。
そう決めた。
さぁ、俺の答えを聞くがいい。
「……ケムマキだな?」
「流派を変えても無駄だよ、ヒューマン。ヲヤスミ、ケダモノ」
そう呟いた瞬間、ニンジャの右腕が消えた。
そして、
パンっ!!
空気を割るような音の後、俺の腹部に激痛走る。
「グフッゥゥゥ……ッッ!!」
俺は、鳩尾を中心に全身が爆ぜる感覚を味わった。
「どうだいヒューマン?」
俺を殴り抜いた奴が、俺の近くまで来て、ゆっくりと膝を折った。
だが今は、そんなことよりも痛みにしか意識を向けることができない。
これは、蹴られた痛みじゃない。
ましてや、ただのパンチではない。
俺は確かになにが起きたのかを捉えた。
足の指から、足首、膝、股関節、腰、背骨24箇所。
更には、肩、肘、手首から指の間接全てを駆動させ、そこに贅沢にも頭の重量を加えた、文句の無い最速の正拳突き。
俺じゃなきゃ見逃していたであろう、人体最強の一撃。
それを無防備な腹に食らってしまったのだ。
コーラを飲んでいなければ、あやうく即死だった。
「カッ……ハッ……」
とはいえ、息ができない。
辛いわー、実質無呼吸だから、マジ辛いわー。
本当に辛い。
「フフッ、これで思い出したかね?」
ニヤニヤ笑いを浮かべた女が、俺の顔を覗き込んで来た。
それはアダムスファミリーみたいな白い肌で、その瞳は曇りなき眼と呼ぶのが相応しく思える程に澄んでいる。
スゲー綺麗で、スゲー腹立つ。
こんな顔を忘れる筈がないだろ。
「やり……すぎだ。ディア・シスター……」
「ははっ! スマンね!」
こいつこそが、くっそ生意気な中学3年生にして、俺の愛するくっそ生意気な妹「
「それでは、一体全体なにがあったのか教えてもらえるかな? ヒューマン?」
______________
SPECIALTHANKS
・必殺宙返りホットケーキ様
・史上最低にして最高の映画監督様
・ドハマリ様
・異常な性神力のくノ一様
・シュプリームS様
・ぷよぷよアンチ様
・ドーピング・ガトー・ショコラ様
・ノンケでも食っちまういい男様
・クルタ族に殺されそうな男、スパイダーマッ!様
・松の魂様
・ドスイケメンキラー様
・そんなカードオレは36枚持ってるよ……様
・俺は後退のネジを外してあるんだよ様
・あぁ~また、負けた~様
・お腹がペコちゃん様
・甲斐性なしのロクデナシ様
・来たか……我が頭(ヘッド)……様
・フランケンシュタインの怪物様
・タケシの愛棒様
・ドーナットウツ様
・地獄の眠り王様
・クライベイビー様
・忍者でござる様
・妖怪首置いてけ様
・人間なんて食べたらダメだよ様
・不死様
・SAN値と正気度は違うぜ様
・ネットゴースト様
・裏切り者様
・狩人様
・ニュービー様
・DCのツッコミ担当様
・二刀流様
・心肺無いからね様
・世界が終わるまでは様
・空手界のリーサルウェポン様
・チンクシャ様
・赤井彗星様
・邪気眼風イケメン様
・世界一愛される妹様
・玉の小刀様
・AND YOU
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