第102話 クシャミをしても一人


 クチュン


 不意にクシャミが出た

 深い夜の静寂を破るように


 クチュン


 再びクシャミが出た

 誰も気に掛けてくれないことに失望するように


 クチュン


 三度みたびクシャミが出た

 たぶん ボクが真夏みたいな恰好をしているから


 いつの間にか日が短くなった

 気が付いたら季節が変わっていた


 日が暮れると空気がひんやりする

 涼しさを通り越して身震いすることもある


 ――大丈夫?――


 耳の奥で穏やかな声が聞こえた

 すぐに目を閉じて小さく頷く


 ――暖かくしないとね――


 再び同じ声が聞こえた

 ゆっくりと首を縦に振る


 ――もう夏は終わるから――


 三度みたび同じ声が聞こえた

 その瞬間 涙が溢れてきた


 夜のとばりが下りた 真っ暗な部屋

 そこにいるのは 夏の衣装をまとったボク一人


 クシャミが出るのは当たり前

 だって 薄手のワンピースは秋には似つかわしくないから


 決まった声しか聞こえないのも当たり前

 だって それはキミの声の残像だから


 クシャミをしても一人

 クシャミをしなくても一人


 それならクシャミをした方がいいに決まってる

 だって キミを感じることができるのだから


 クシャミをしても一人

 そんなことはわかってる


 ただ 認めたくないだけ

 あの夏が終わってしまったことを



 RAY

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