第27話 かげろう交差点


 九月なのに 真夏みたいな日差しの午後

 行き交う車と信号待ちの人で溢れかえる スクランブル交差点


 焼けたアスファルトから立ち上る陽炎かげろう

 蜃気楼みたいにユラユラ揺れる高層ビル


「……SAYONARA」


 街の雑踏と車のクラクションに混じって

 背中越しに飛んできた キミの声


 終わりしか聞こえなかった

 でも 理解できた


 すぐに振りかえる勇気がなくて

 しばらく眺めていた 青い空


 歩行者信号が青に変わって

 たくさんの人が横を通り過ぎて行く


 そこに キミの姿はなかった


 点滅する青信号が赤に変わる

 ゆっくりと後ろを振り返った


 そこにも キミの姿はなかった


 「夏の恋は夏に終わる」なんてよく言われる

 でも ボクたちの恋は特別だと思った


 今にもキミが街路樹の陰から現れるような気がして

 しばらくその場にたたずんでいた


 それは はかない妄想


 陽炎が立ち上る街は夏みたいに見えるけれど

 決して夏なんかじゃないから


 「二人の夏はもう終わったの」

 そう自分に言い聞かせたとき 信号が再び青に変わる


 たくさんの人が行き交うスクランブル交差点

 そこでは たくさんの思いが生まれたり消えたり


 人の思いはまるで蜉蝣かげろうのよう

 その存在はほのかで いつ消えてもおかしくない

 

 ただ 泡沫うたかたの存在は刹那の輝きを放つ

 あの夏のボクたちも輝いていたのかもしれない


 ゆらゆら揺れているのは いつもの景色

 もしかしたら 陽炎の存在自体が幻なのかもしれない


 街が揺れて映っているのは ボクの瞳だけ

 かげろう交差点を彷徨さまようのは 季節外れの蜉蝣かげろうだけ



 RAY



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