漫才集団!?
爽やかな春の日差しは、どす黒く染まった俺の心を優しく、ゆっくりと焼け焦がしてゆき、朝だというのにとても憂鬱な気分での登校となった。
「ハルさん、また転勤することになったんでしょ?」
ゆるふわカールに茶髪のこの少女の名は
「ん?まてまて、なぜ千尋がそのことを知ってんだよ。俺が今日の朝に聞いたことなんだけど」
「ふふふっ、知りたい?知りたいんでしょ?ねぇねぇー」
ただ単純に純粋に心から、うぜぇー。
「ねぇー、ねぇねぇねぇねぇねぇ〜」
千尋の容姿を裏切らない、年柄年中ポワポワと鬱陶しいオーラを撒き散らす温室効果ガスのような立ち振る舞いからは、その頭に入っているものがカツだとか田楽だとかお汁だけだったりするんじゃないの?と疑いの目を向けなければならないとても残念な印象を持つってしまう。
「上から78、62、85だよ。すごいでしょ〜」
「ふむふむ、78、62、85…あっ、えっ」
上から?あーあのヒップやらステップやら、バスやらブラックバスやらと忙しい。あ、違うよ。ブラックバスだからブラックな下着が好きとかそうゆうのじゃないから。勘違いしなでね。
「やだぁ〜、ハルくん耳まで真っ赤だよ。かわいいなぁ〜。ギュッってしたくなっちゃうなぁ、ギュッって」
いやいやいやいやいや、考えてませんよ。童貞妄想で目の前の幼馴染に黒の下着なんて当ててないですよ。
「ふふふっ、実はついさっきね。美咲ちゃんからメールが来たの。ビックリしちゃった」
「やっぱりお前のとこなんだな。悪いな、美咲が世話かけるみたいで」
「ううん、いいんだよ。電話の内容も面白かったし」
俺は千尋の〝面白かった〟に反応し眉間にしわを寄せると、その様子を見た千尋が一つ、二つと咳払いをし声の調子を変えて、何一つ似ていない声色で、こう…
「〝
い、陰獣て…
「だからね、私はこう返したのですよ!〝Oh!そりゃバージン強奪の危機ですな!でも安心なされ、あんたの安全はこのあたいが責任を持ちましょう。〟って」
俺ってばすっかり悪役に仕立て上げられてるんですね。あと妹萌えとか、ありえないから。
「まぁ、お前の家に泊まるなら安心だな。しばらくの間、よろしく頼むわ」
「はーい、任されましたぁ!」
理解のある幼馴染って、ホント頼りになるな。
「美咲ちゃんのバージンは私が美味しくいただき」
前言撤回。
◇ ■ ◇ ■
<ガラガラ・・・>
始業式から一週間が立ち、クラス替え後の熱と共に二年三組の情勢も落ち着いてきた頃。
「おはよー!ちぃちゃんに優音。今日も朝からイチャコライチャコラと、発情期ですかクソヤロー!うtぅひゃっ!」
清々しい朝の一景にトンデモな話題振ってきやがったな。あとテンション高っ。
「おちつけ愛木、俺も千尋も発情期じゃない。そして微妙に有名漫画の主人公登場シーンと被ってるぞ。やめとけ、あのゴリラ一応大先生だ」
そう、鼻水を垂らしまくるあの
「そうなんですよ、うちの夫ったら朝から盛んなもので妻としてはもう大変で…ねぇ?」
ねぇ?じゃねぇーよ。こっち見んなや。
「それは大変ですこと。でも羨ましいですわ。うちの夫なんて最近はご無沙汰で、新婚夫婦って実感がわかなくて…ねぇ?」
「とりあえず、ねぇ?をやめようか。あと、俺はお前らと結婚した覚えはない。」
朝からテンションを持て余してるこいつは
「そんな…あなたを幸せにできるのは私しかいないのよ。今日だって朝まで一緒にいたじゃない!なんで、なんで、なんで私のモノにならないのよ!」
千尋さん!?こ、コレ、演技だよね!?
「へー、ところでちぃちゃん。その漫画何?」
「え?〝文雄と悠介のバベル伝説〟っていう漫画だよ」
「題名とこれまでの傾向からして、それホモ漫だろ!」
何はともあれ、こんな朝を過ごし続けて一週間が経ってしまった。そう、経ってしまって朝一番に話すのが
「アニキぃー!お早うございます!今日も一段と凛々しい立たず―――いえ、勃たずまいですね(意味深)」
あー、心で立てたフラグを回収しちったよ。
「お前もか
目の前にいる男子が美男子なのは見ればわかる。しかし、
「あ、でもアニキの朝勃ちの処理なら僕がやりますいや、んむぅふふふっ♡、どうか僕にヤラせてください♪」
男子好き、というか
「いいかげんにしてくれ……身がもたん」
もう!自由すぎだよこの人たちっ!
<ガラガラ・・・>
「やべ、
乱暴に開けられた引き戸から白衣を着たセミロングの女性が入ってくると、途端に一度教室は静まり返り、次々と生徒たちの椅子を引く音が教室内を埋め尽くした。
「オラ、ゴミ共!座れ、いや膝を付け。早く
この人、いる場所間違ってない?少なくとも
「きりーつ!礼!お早うございます!」
クラスの数人は律儀にも挨拶を復唱し、俺は〝よっこいしょうきち〟と言いながら着席をした。数人にギョッとされた。
「んじゃ、クソどものためのホームルーム始めるぞ」
そこからは数分の間、今日の日程や連絡事項について話があった。朝の事務連絡は決まって子守唄のようで、早朝ながらもウトウトとうたた寝をしている生徒も中にいるようだった。
「じゃあてめぇーら、ホームルームを終わ…おっと、忘れるとこだった…。今日はお前らにテンションの上がる知らせがある。だから黙って聞け」
沸き立つクラスは眠気を吹き飛ばすのには十分なボリュームだった。俺は半狂乱なクラスをできるだけ細目で眺め、目に入る光をさえぎった。
「あー、なんだ。こんな時期に…って気持ちもわかるが、知らせってのはアメリカからの転校生のことなんだが…」
浦華先生は教室の様子を見ると、説明するのが面倒になったらしく一つため息をつくと、こう続けた。
「まぁ、いいや。
<ガラガラ…>
歓声は戸の音とともに止み、注がれた視線の先には、一人の少女。ベージュのブレザー、黒のニーソをつけ、華奢な体と緑の瞳が周囲との深い隔絶を感じさせていた。俺の閉じかけた目はトン、トン、トンと教室に響く音につられるようにこじ開けられ、そして…
彼女の髪色は、春の景色と同じ桜色をしていた。
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