エピローグ

新しいゲームは始まる

 翌日の朝。俺は鏡の前で、髪型を見る。

「早くでないと、遅刻するわよ~」

「お、おう。いってきます」

「ふふっ、頑張ってね~」

 いつも以上の笑顔の母さんに見送られて家を出る。

 駅のホーム。なんか、すごいそわそわする。

「あんな先輩、この駅使ってたっけ?」「見覚えない……けど、かっこいい」

 すごい見られてる気がするし、言われてる気がする。いや、気はしない。絶対に言われてるし見られてる。

 メガネは家に置いてきちゃったし、もうスマホでも眺めてるしかない。

 数分後に電車が来る。電車の中はいつもどおり満員一歩手前で、学校前の駅にはすぐに辿り着く。

 いつもより遅い時間だから、少し心配だ。

 電車が時間通りにたどり着いて、俺は少し早歩きで流れに乗って改札を出る。

 あと5分で学校についてしまう。なんか緊張してきた。

 こういう時の5分っていうのは、長く感じるはずだ。だけど、俺にとってはとても早く進んでしまった――多分、緊張以上に彼女に会いたいという気持ちが強いから。

 昇降口で靴を履き替える。

「おやおや、その下駄箱は日角さん! おはようございまっ――えぇっ!?」

「お、おはよう」

「お、おはようございます……んえ~」

 文丸さんもじろじろと見てくる。

「おはよう、北谷が参上したぞ」

「ちょ、北谷さん。日角さん」

「うん? ……ほう」

「おはよう」

「いいじゃないか」

「お、おう……ちょっと、急いでるから」

 俺は2人を背に早歩きしだす。

「どうしたんですか?」

「あいつは男になったんだ」

 そんな言葉を聞きながら。

 教室まであと1分。

「あんな暗い奴なら、俺の方がって思うんだよ」「いや、まあそうかもしれねえけど……えっ!?」「どうしたんだよ……って、はあっ!?」

 説明しておくと、実は2年ではリュックが流行してたりしてて肩掛けバッグの男子は俺という認識すらされかねないほどの状態になってる。つまり、そういうことだ。

「あれ、誰?」「でも、男子であのバッグ使ってるの」「マジ!? ほえ~……くそお! 音原さんの目に狂いないじゃん!」「いやぁ、変わるもんね」

 無視しておく。そして、自分の教室。音原さんと同じ教室の扉にたどり着いた。

 扉の窓から中を除くと、音原さんは窓際でなんか黄昏れてる。というか、俺の席だなあそこ。

 ゆっくりと扉を開く。

「お、おはよ……誰!?」「おはよ~……って、んえっ!? あの時の!」

 ゆっくりとしっかりと歩いて行って、自分の席の近くにたどり着いた。黄昏れてるのか、クラスのざわつきが耳に入ってないのか、窓の外を向きっぱなしだ。

「音原さん。おはよう」

「んっ? あ、日角くん、やっときた……わね……」

「ど、どうかな」

 振り向いた音原さんは驚いた顔で固まってしまった。

 一応、前髪も後ろもいい感じに切ってもらったし、鏡でチェックしてきたんだけど。

「に、似合ってるわよ」

「……よかった」

「ていうか、最高!!」

「うおっ!?」

 現実じゃ今までありえなかった。ゲーム内でしかされたことがなかった。

 そんな抱きつきを俺は受け止める。

 現実はゲームほど甘くないけど、俺のストーリーは彼女と出会ったことで、第二章のスタート地点までこれたんだとおもう。

 そして、これがその新たな第一歩になった――そう思えるんだ。

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