レポート27 らしい告白
走りだして5分ほどたった。そろそろ道が悪い谷のゾーンだ。場合によっては崖の下に落ちてダメージが入ることも多い。
「くっそ!」
自分たちのHPが増えているから前よりは、余裕が持ててるが攻撃できないことがわりとストレス溜まっていく。
「あぁ~! あと何分よ!」
「最低でも5分はある! 伏せろ!」
スライディングで伏せるとグリフォンが頭上を通過する。
「もう、今いろいろ考えてるところなのに! 邪魔するんじゃないわよー!」
見たこともない音原さんになっているな。スズネの時ですらあそこまで荒れてるの見たことなかったぞ。
ていうか、スズネの姿だと防具の露出とかそういうのもあって、目のやり場に困るよ言うか――揺れてる。
何がかは考えないようにするけど揺れて――
「あぶねえ!?」
煩悩を吹き飛ばすように、グロフォンのブレスが俺のさっきまでいた場所に直撃している。
再び走りだした。
グリフォンの風のブレスが、まるで特撮の追いかけてくる爆発かのように煙を上げていく。
「もう嫌になってきたわよ! 逃げるだけのゲームは得意じゃない!」
「いや、でもレベル的に勝てないだろ!」
「じゃあ、逃げるだけの現実も嫌いよ!」
「わけわかんねえ!?」
もういいよ、口に出していい加減突っ込んでやるよ。わけがわからねえよ!
「だいたい初めてあったのまだ2ヶ月前くらいのはずじゃない! しかも、半分事故よ!」
突然、何話しだしてるんだ。
「《ブーメラン》!!」
グリフォンに盾を投げてみる。少し牽制できて、そのまま手元に戻ってきた盾をキャッチ。
なおも走り続ける。
「ゲームでだって、そりゃ、私がそういうの苦手で、絡んでもらえて嬉しかったし! でも、それだけで、あそこまでするってなんなのよ!」
「マジで、何の話だ! 落ち着け!」
「落ち着くために叫ばせろー!」
そう言われちゃったら、好きにさせてやるしかこっちにはできない。
「もっと早く気づいてればよかったはずじゃない。というか、この気持ちが本当なのは本当だけど、本当にそういうことかはわからなくて、本当に、本当で、本当なんだから!」
本当のゲシュタルト崩壊が起きてしまいそうだ。
「それに、あの時も勢い任せであんなことやっちゃったのよ。私って、あんなことする性格だったと思う?」
「聞かれても、何のことかわかんねえよ!」
「なんで、覚えてないのよー!! まあ、そんな気がしてたから大胆になっちゃったわけよね。そうよね!」
『グエエエエエエ!!』
グリフォンの咆哮が聞こえるけど、それ以上にスズネの音原さんの言葉が気になって仕方がない。
だが、そんな意識散漫な時に事故は起きるものだ。
大きな崖に気づくのが遅れて、踏み込みが浅く落ちてしまう。
「うおおおおお!?」
「ヒカク!! 日角秋!!」
「なんだ!?」
崖から落ちて風の音が耳を通り始める。最初はかろうじて聞こえたものの、最後の方に至っては聞こえなかった。
「――――!!」
その言葉が何かわからないが、とりあえず俺とスズネは崖の下に落ちたのだ。
* * *
「いてて……痛くないけど。痛い」
ゲーム内では痛覚はほぼないが、触覚はあるためぶつかった感覚はある。若干、これを繰り返したらリアルの感覚が麻痺しそうだなとか思う。
HPバーをチェックすると赤くなっている。落下ダメージが原因だろう。
俺は起き上がってポーションを使おうと思ったが――その前にスズネを探す。
右を見て、左を見て、上を見て、下を見る――よし、左にいたな。
「おーい、大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫」
なんか顔赤くして、目をそらされた。もしかして俺は崖に落ちながら何かしてしまったのか。
「そうか……じゃあ、まあとりあえず上登らないとだな。グリフォンは幸い降りてこないみたいだし」
「あ、あの!」
梯子を探しに歩き始めようとすると、止められてしまった。
「返事……」
「返事?」
「さっきの返事!!」
胸ぐら掴まれた。顔がゆでダコみたいになってる。
「すまん、風の音で最後の方、聞こえなかった」
「っぅ――このばかー!!」
「えぇ!?」
ていうか、すいません。この角度だと谷間が見えてしまうのですが!?
いや、そんな事考えている場合じゃない。こういう状況ってことは、さっきのは重要な事だったんだ。思い出せ……俺、思い出せ」
『――――!』
駄目だ。全部、落下の風の音でかき消されてしまっている。
俺は恐る恐る、
「お手数でなければ、もう一度言っていただけると……嬉しいです」
嘘をつかないで答えた。
「ぐぅ……あーっ! もう、言ってあげるわよ! 今度はちゃんと聞きなさいよ!」
「は、はい!」
胸ぐらは掴まれたまま、音原さんというかスズネの顔は真っ赤なまま。俺の心は若干青い状態だ。
「私はあんただ好きだバカー!!」
崖の間だからか、しっかりと音が反響した。その言葉が俺の鼓膜に何度もぶつかる。
「え、えっと……あの」
「私だってわかんないわよ!」
「いや、ちょっと、おちつ――」
「最初は、誰だかも知らなかったはずなのに。ゲーム内で優しくされて友達になれたって思ってて、そしたらリアルで今度あった時は、すごい目が綺麗だなとか言って、あの後に私は何言ってるんだとかすごい恥ずかしくなったのよ!」
「そ、そうですか。とりあえず、一回手を――」
ガクンガクンされるとすごい視界が揺らぐんですよ。
「それで、そんな中で、なんかこう。意外と気遣いできたりするやつだってゲーム内でわかってきて、ついポロっと相談ごとしちゃったりしたし、その時に一番の友だちって言われて嬉しかったわよ。でも、その少し前からもしかして、学校が同じじゃとか思うこともあったじゃない!?」
「そ、そうなんですか」
「はぁ……はぁ……」
息切れしてしまって、とりあえず俺は開放されたけど。こう、動かないで聞かないといけない気がする。
「それで……文化祭の準備も、いろいろ上手くいかなくて落ち込んでる時に、ゲームで言われたことと似たようなこと言われて……それで確信したのよ。ただ、そしたら、こんな風に扱われたの私初めてだったし、上辺だけの付き合いが多かったけど、結構、いろんな事話しちゃってたのよ」
「そ、そうかもしれないな」
「そこまでいって今度は、文化祭でひとりで回ってるところで誘われたりして……だいたい、もともと顔はタイプだったのよ!」
「はい! す、すいません?」
「そんなことされたら、勘違いするじゃない! 初恋なんだから、騙されちゃうのよ!」
崩れ落ちてしまった――というか泣き出してしまった。
「あんたは覚えてないはずだけど、キスだってしちゃったのよ」
「えっ……? もしかして、あの写真の時か」
文化祭のすごい際どくて、俺の記憶に無い。
「なんていうか、あんた明らかに意識もうろうとしてたし、かなり集中してたから気づかないんじゃとかなんか思っちゃったのよぉ……」
えっと、これは、つまり……俺はどう答えるべきなんだ。決まってるのに、言葉が出てこない。
「だから、せめて返事がほしいのよ。勘違いだったら終わらせてほしいのよ!」
上目遣いで涙目でそんな風に言われてしまった。
彼女自身情緒不安定というか、かなり混乱しているのかもしれない……けど、ちゃんと答えないといけないのもわかってる。
「え、えっと……あの……」
ただ、言葉がでてこない。ゲームでみたようなキザなセリフもアニメのようなかっこいいこともやったところで違う気がするし……そして俺が自然に無意識に出した言葉は自分自身でも驚きで、自分の中での正しい言葉だった。
「勘違いじゃなくしていいよ……」
「……えっ?」
「いや、俺も音原さんのことは、その、校門近くであった時から気になってたし……ずっと、なんかいろいろ話しかけようとしたりしてたし」
「えっ? えっ?」
「スズネに対して、女の子への話しかけ方とか聞いたのも、音原さんに話しかけたかったからだし……だから、その、俺も好きだよ」
沸騰しそう。体の水分が蒸発しそうだ。でも、ちゃんと目を見て答えた。俺、頑張った。
「ほ、本当?」
「嘘じゃない……っつうか、嘘つく余裕。今の俺にないんだが」
「……ふふっ、口調」
「仕方ないんだが」
「ふふ……ふふふっ。やったー!!」
そういってスズネは俺に抱きついてきた。俺は、それを受け止める。
「やった! やった!」
「お、おう……」
ここまで喜ばれると、俺はもう照れればいいのか喜べばいいのかもわからない。ただ……うん、すげー嬉しい。
「そうときまったら、こんなとこ早くおさらばするわよ!」
「お、おう!!」
吹っ切れた。
吹っ切れた俺たちは崖から上に登った後に、グリフォンを一度叩き落とすという謎の行為ができるほどに絶好調でダンジョンから脱出した。
その後に、ジュジュにアイテムなどを渡して、色んな意味で疲労してたのもあってログアウトした。
俺はリビングへと降りて、麦茶を飲む。
彼女か。彼女ができたのか……すげー可愛い。
なんか結局、北谷に言われた解決方法に似たようなものになってしまった気がする。
「でも、噂……噂がな」
俺で本当にいいんだろうか。
『おまえの暗いイメージを払拭させれば、いいと思うのだが』
そうか。俺の根暗キャラなんて、ただの独りよがりというかだったってわかっちまったしな。
そういうことだよな。
「あれ? お兄ちゃんどしたの?」
風呂あがりの春ちゃん登場。そういえばまだ9時だった。
「あのさ。春ちゃん」
「なに?」
「……髪、切れるか?」
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