レポート25 文化祭完
劇が始まった。
喜劇。恋愛喜劇。そういうような明るさを備えたショートストーリーとなっていた。
台詞なんか完全に覚えているわけもなく、カンペに頼りまくりだった。
そもそも、こうやって語っているが、劇中のことなんかそんなに覚えてないぐらいに必死だった。
覚えてるのは、音原さんが近いとか、なんかスキンシップじゃないけど、そういうシーンが多くないかとか。そんなのばっかりだ。
少なくとも、俺からしたら刺激が強すぎて、頭が真っ白になってばかりだった。
そんな劇を約3回こなしたはずだ。
1回目と2回目は無事に成功して、3回目はどうだっただろう。
なぜか3回目だけ、記憶が少し怪しい――それだけ疲れてたのか、それとも俺が認めたくない何かがあったのか。
後夜祭のキャンプファイヤーを、少し遠目に眺めながらそんな事を思う。
制服に戻って、髪もおろして伊達メガネつけたいつものヒッキースタイルだ。
クラスの中ではあ、あの時の王子様役の人は誰だったとか、噂になってて、俺だとバレることは少なくともなさそうだ。
「隣、いいわよね?」
「ん? もちろん」
まあ、なんでそんなことをしていたかというと、音原さんとの待ち合わせだ。
そう、音原さんとの待ち合わせだ!
いや、そんなテンション上げて望むものではない内容なんだけどさ。
「ふぅ、疲れたわね」
「お疲れさま」
「そっちこそ。予定外の王子様になって、おつかれさま」
「ははは……まあ、終わってみれば楽しかったというか、文化祭に参加した感じがするからよかったかな」
「それならよかったわ」
少し沈黙が訪れる。遠くではバンドの演奏が聞こえる。
「えっと、それで聞きたいことがあったんだっけ?」
「そ、そうね。えっと、後、日角くんも話したいことがあったのよね」
「まあ、一応」
「ど、どっちから話す?」
レディーファーストにすべきか、男らしさっていう意味で俺からいくべきか悩む。
そして――
「えっとさ。前に、あの、ゲームの話したじゃん」
「そ、そうね。《グリプス・サーガ・オンライン》の話よね?」
「そう……一応、俺もやってて、それで……えっと、名前がヒカクっていうんだけどさ」
「そう、そうよね……そうよね! やっぱり!」
「お、落ち着いて! まあ、俺の話っていうのはそれだけなん、だけど……」
なんか、若干変なテンションの音原さんを落ち着かせつつ、ちゃんと言い終えた。
「えっと、私もやってるのよ。それで、もうわかってると思うけどスズネっていう名前なのよね……」
「まあ、なんとなく、最近……予想ついたかな」
本当は文化祭準備のあの日のことでだったんだけど。
「ちなみに私の名前の由来は、鈴の音が好きって言ったんだけど。本当は、私の本名の風凛が読み方を変えると《ふうりん》になるから、それでスズネってしてるのよね」
ものっすごい饒舌になってるんだけど、どうしたんだろう。
「あの、それで、聞きたいことって……多分、このこと?」
「うっ……まあ、そうね。このことよ。間違っていたら嫌だったし、間違いじゃなかったらなかったで、少し困っちゃうのよね」
「えっと、何かしたっけ?」
「ひ、日角くんは悪くないのよ! ただ、その私が今までそういうのが――」
だんだん小声になって、最後の方はもう聞き取れなかった。
「と、とにかく! すっきりした! さあ、行くわよ!」
「へ? どこに?」
突然、立ち上がった音原さん。何故か俺の手を引っ張っていく。
連れてこられたのは後夜祭会場というか、キャンプファイヤーの近くだった。周りにもいろんなペアができてる。
「こ、これ、なに?」
「ぶ、文化祭の最後と言ったらフォークダンスよ。私、相手いなかったから参加できなかったから、付き合いなさい」
「別にいいけど……変な噂とかたっても大丈夫?」
「日角くんとなら別に気にしないわ」
「…………」
その言葉はずるいです。
俺の今日までの人生の中で、一番女子と触れ合った文化祭らしい文化祭の日はこうして幕を閉じた。
フォークダンスを踊ってる最中に、音原さんの顔が少し赤かった気がするのは、秋の日焼けなどではなくて照れてるなんていう考えも、こんな日だから許してほしい。
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