レポート24 緊急事態

 順調に進んでいく時間の中、昼が過ぎて音原さんの出番が近づいてくる。

 付き添って、とりあえず教室まで戻ると、何やら舞台裏という名の隣の教室のほうがバタバタとしていた。

 音原さんは中にはいって、委員長へと事態を聞きに行く。俺も近くにいた北谷を捕まえた。

「何があったんだ?」

「王子が部活の出し物の方で怪我したそうだ。幸い、大事には至らなかったようだが劇は難しい……まあ、それだけで済めばよかったのだが」

「主役がいなくなる以上のことがあるのか」

「体育館ステージのほうのタイムスケジュールのほうも何かしらのトラブルが合ったそうでな。演劇部の連中がブッキングだ……その上で、あいつらはそっちにいってしまった」

「一概に攻め切れないが……たしかにやばいな」

 劇の練習をしていたりしたのは最低限の人数とは言わないが、余裕があるわけではない。調理と配膳にそれなりの人数はさくようだし、準備班から代役がでるしかないわけだ。

「で、どうするんだ。ここからの公演は」

「演劇部が担当していた部分の担当は、設営班担当からやってくれると名乗りでてくれてどうにかなりそうだ……台詞も少ないしな」

「それはつまり主役がいない状態じゃないのか」

「その通りだ……そして、もともと劇の役者として練習してた連中だと衣装のサイズが合うやつがいない」

 そうか、衣装の問題もあるのか。

「最悪、カンペを出すから台詞はどうにかするとして、台本を把握していて衣装が合う人間を探さなければいけない……後30分以内にな!」

「そうか……まあ、俺じゃ力になれなさそうだ。受付ぐらいならまた手伝うよ」

「すまん。助かる……」

 俺はそういって、外の列近くに設置されてる受付用の机に行こうと廊下に出る扉に手をかけた――しかし、その手を誰かに掴まれた。

「えっ!?」

「ちょっと、動かないでくださいね! へい、採寸!」

「ヒッキーちょっと、おとなしくしててね」

 文丸さんと、確かこの人は名前忘れたけど衣装・美術担当のリーダーの女子。おとなしくしてると、メジャーでいろいろと測られる。

「いけます?」「いける、衣装のほうが大きいけど、誤差程度」

 終わったらなんか、話し始めてしまった。嫌な予感しかしない会話なんだけど。

「というわけで、日角さん!」

「ヒッキー!」

「じゃ、俺は受付やるんで」

 しらばっくれて再び扉に手を装備しようとしたが、失敗した。

「逃しませんよ~。クラスのためですから」

「そうだよ。暗い印象も払拭できるチャンスだって」

「いやだー!!」

 俺は表舞台に立ちたくないというか、ヒッキーの名の通り引きこもりなのは否定出来ない程度の人間なんだよ!

 王子様になるのは、ゲームの中だけで十分だ。

 そんな願いむなしく、俺は舞台裏の奥へと引きずり込まれていった。


 * * *


 30分後。どうしてこうなったんだ。

 俺は若干不機嫌というのと、頭に違和感を感じながら打ち合わせの場所へと移動した。

「とりあえず、メンバーはどうにかしました」

 どうにかされたのは俺なきがするんだけど、文丸さん。俺はそのツッコミを引っ込める。

「さすが、文!」「あんな人いたっけ?」「わかんないけどイケメン」「すごいきれいな顔してるね」「別のクラスからの助っ人か?」「王子にふさわしいな。俺が本気でモブをやる価値がある!」

 なんか思い思いのこと言われてる。俺だってことは気づかれてないみたいだ。ぜひ、そのまま気づかないで「あれ誰だったんだろう?」エンドになってくれれば嬉しい。

 俺は目立ちたくないんだ。

「ひ、日角くんだよね?」

「!?」

 耳元でそんな声をかけられる。音原さんだった……だが、俺はその姿に数秒見惚れてしまう。

 ドレスの完成度もさることながら、すごい似合ってる。素材がいいってこういうことをいうのか……それとも、俺の目が音原さん補正をかけてるのか。

「お、おう」

「……かっこいいわね」

「っ……んなわけあるか」

 やばい、舞台裏暗くてよかった。絶対、顔が真っ赤になってるよ。

「というわけで、いろいろトラブルも有りましたが。後半も頑張りますよー!!」

『おー!!』

 遅くなったが、俺は今前髪をわけられて目がでている。そして後ろ髪はポニーテール風にまとめられてしまった。

 すごい首とかがスースーして違和感があるが、クラスのためを思って、ここまできたら我慢しよう。

 今は最後の打ち合わせをしている。というのも、イレギュラーが重なってるためセットやカンペなどの用意も変えなければいけない部分もあるのだ。

「日角くん。台本、大丈夫?」

「まあ、暇な時に読んでだからなんとかな」

 原作の童話を春ちゃんが小さいころに読み聞かせてたのもあって、簡単に頭に入った。

「……頑張るわよ!」

「お、おう……あぁ~、緊張する」

 自分の胸に手を当てると、鼓動が走ったあとのような速度になっている気がしてならない。

「大丈夫! 日角くんは大丈夫!」

「…………」

 可愛いし、元は俺が言ってた言葉なんだよな。

 ただ現金なものでかなり緊張は和らいだ気がする。

「大丈夫……俺は大丈夫だ。そうだな」

「もちろんよ。私もいるしね」

「音原さんがいるなら大丈夫か」

「そのとおり! ……あのさ、こんな時に言うのはあれかもしれないけど」

「なんだ?」

「文化祭終わったらちょっと聞きたいことがあるけど、いいかしら?」

 一体何だろうか……いや、まあ、こんだけやったらグリプスのことかこの前の放課後に叫んだことだろうな。そんな気がする。

「無事終わったらな。俺もちょっと、言わなきゃいけないことあるし」

「よかった」

 顔を合わせる。

「あと10分です! 準備してください!」

 文丸さんが合図する。

「それじゃあ、行くわよ。王子様」

「仰せのとおりに、お姫様」

 さながらゲーム内のRPのように――俺たちはステージへと上がる。


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