レポート22 心配
グリプス・サーガ・オンライン症候群という病気ができてもいいくらいにプレイがしたい。というかスズネとかに会いたいという欲が、まさか数日プレイしないだけで、出てくるなんて思わなかった。そんなこんなで金曜日の昼である。
教室は文化祭ように机の並べ替えしたり、劇用のセットが設置されたりしてる。
一応、俺もチラシは委員長その他多数に了承を得られて、完成した。今は会場設営の手伝い中だ。
ここらへんは去年と、配置が多少変わる程度だから問題ない。
あえて言うなら――俺はそう思いながら、チラチラと教室の後ろのほうを向く。
どうやら、肝心な劇のほうが上手く言っていないらしい。
「まあ、そうなるよな」
恐らく、外見からの原因はメンバーの温度差だろう。
こういうイベントってやる気があるやつとやる気が無い奴が絶対にどこかで、でてくるのは事実だからな。
で、この場合の温度差が若干めんどくさい感じに出てるのがさらに問題だろうな。
「「ふぅ……」」
休憩に入ったようで、ため息を重ねる文丸さんと音原さん。とりあえず飲み物至急班的な行動をする。
「……大丈夫?」
「あ、ありがとうございます。うぅん、あんまり良くはないですかね」
「よくはないわよね……」
当事者がこの感想だから、多分正しいだろう。
「演劇部の連中が集中してないみたいだけど」
「演劇部はステージで劇やるから、そっちに集中しなきゃいけないんだとかいいだしたのよ。最初に、演劇班選ぶなっていいたいわよね」
「演劇部がやる気ならどうにかなるんですけど、やる気があるのは演劇部じゃない人たちなので、どうしても知識的なアドバンテージで発言もしにくいみたいですし」
だいたい予想どおりだった。
たまにサボってるメンツを見たりしたんだが、演劇部連中だったからな。多分、主役も演劇部じゃない人がやることになってるんだろう。
「メインの、王子様は誰がやるんだ?」
「一応、田口くんがやるってはりきって練習してくれてるから、そこが救いよね」
「ですね。まあ、よくも悪くも運動会系でやることは絶対にやり切る系タイプの人ですから……ただメイン2人だけでどうにかなるものでもないですよ」
「まあ、そうだよな……」
姫は音原さんだろ。なんか、すごい暑苦しい王子様になりそうだな。
「明日に間に合いそうか?」
「形は出来上がってます……問題は、演劇部の熱気がないだけで、全体的にお遊戯感すごいなって素人目でも分かる状態になってるだけで」
「そこなのよね。最初から素人全員ならいいのに、経験者のせいでそれってのが納得行かなくて、言い合いになりかけたりして」
「台本見せてもらっていいか?」
「はい、どうぞ」
文丸さんから受けとってパラパラと流し読みしてみる。
原作の童話をかなり簡略化してる……キスシーンもあるけど振りだよな?
「まあ……やってみよう。大丈夫だよ、本気な人がいないわけじゃないなら」
「…………」
励ましになってるかわからないけど、とりあえずそう言っておいた。何故か音原さんに無言で見られてた気がする。臭いこと言いすぎたかな……恥ずかしくなってきた。
ゲームがしたい。俺のそんな願いはむなしく、準備は佳境に入る
というか、泊まりになるかならないかの瀬戸際という状況になっている。
会場準備がとにかく予想外に問題が起きてるのだ。
「それ、そっち!」
「スペース足りません!」
「じゃあ、これを移動して――」
その上で、部活のほうに出るメンバーの半数くらいが部活の方の大詰めに移動してしまっている。数人に関しては、事前にそう言われてたからいいけど、その他は完全に予想外の人出の減少だ。
担当以上のことをした俺はしれっと休憩に外に出てきてしまったわけだけどな。校庭は運動部の屋台とか多いので、校舎裏にくる。
「は~……」
校舎裏のベンチに座って思わず溜息をつく。
インドアの人間にここ数日の作業はきついったらありゃしないんだよな。そういえば、今週の土日からあの外国コミックの映画始まるんだっけ――見に行きたいな。
「はぁ……」
そんなこと思っていたら、校舎裏は段差ができていて、教員駐車場へ向かう道がある。ちょうど、今俺が座ってるベンチの後ろの崖のしたがそこにあたるはずで、そこからため息が聞こえてくる。
上からちらっと見ると見覚えのある頭が見えた。
「音原さん……?」
あの髪多分そうだよな。
なんでため息付いてるんだろう。
「頑張ってるんだけどな……また、ひとりで空回りしちゃってるのかしら……」
聞いてはいけないとは思うんだが、気になってしまう。
「ステージはできないしクラスで頑張ろうと思ったのに……私ひとりで頑張っても、意味ない気がしてくるわよね」
劇のことだろう。全部は見ていないからあれだが、音原さんは頑張ってるだろうし、その他にも頑張ってる人はちゃんといるはず……ただ、やっぱり感じちまうよな。温度差が違うやつがいたりすると。
「でも……頑張るって、ヒカクにも言ったし、頑張らないとだよね」
うん?
……なんか、聞き覚えのある名前が聞こえたな。いや、でも気のせいだろう――って都合の良い頭してたらよかったんだけどな。
完全に俺のゲームキャラの名前がでたな。どこかのゲームで話した人が音原さんだったのか?
文化祭について話した人なんて限られてくるはずだし、最近やったゲームはグリプスぐらいで、他のはあんまり手を付けていなかった。
野良パーティーとかはたまに組んでたけど、文化祭の話をしたのなんて……ひとりした当てはまらない。
でも、そんな都合のいいこと考えていいのか。いや、都合が良かろうと悪かろうと俺からすれば一択なんだよな。
他の可能性なんて言えば、俺以外にもヒカクという名前を使ってる奴がいて、音原さんはそいつと知り合いってことぐらいだけど、そんな可能性は考えてもわかるわけがない。
スズネが音原さん……?
いや、文化祭の時期も同じだし、髪の色も似ている。雰囲気はキャラのアバターとか的に想像はつかないけど、ゲームだしどうにでもなる。しゃべり方は似ているかもしれないけど、コミュニケーション能力は逆と言っていいくらいな気がするが……あっちが素だった場合と考えてみれば合点がいく。
……もしそうだったとしたら、俺にできることはないだろうか。結構、話は聞いていたはずだろう。
そんな風に考えた俺だったが、いい案は思いつかなかった。たったひとつを除いて。
ただ、それを実行していいかもわからないし、実行すれば恐らくバレる気がする――けど、音原さんの頑張りは無駄にしたくない。これは俺の勝手な我儘だけど……たまには我儘を通してみてもいいよな。
俺はおもいっきり息を吸い込んで――
「大丈夫!! 大丈夫だ!!」
そう叫んだ。
音原さんがこっちを向いた気がする。視線を感じる。
だけど、俺はそこにいることには気が付かなかったことを全力で装って、その場を離れた。
……これぐらいしか思いつかないって、マジで俺って何もできねえな。
文化祭、成功するよな?
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