レポート21 演劇喫茶
日曜日は素材集めを行って1日が終わった。
その後も、昼は学校で夜はグリプスで素材集めという日々が過ぎていって数週間後。
火曜日の学校のことだった。
時間は午後の最後の授業。
「というわけで、演劇喫茶に確定した! そしてこれより水・木・金は準備期間となり、土日が本番だ! 各班準備を開始せよ!」
委員長のこの合図と、ともに授業なんて関係ないくらいのノリの文化祭準備が始まった。
「…………」
とはいえ、俺がやることはそこまで大層なものじゃないしな。
誰かが持ってきて託されたこのノートパソコンを使って、宣伝チラシのデザインを決めるだけだ。
とりあえず、演劇をやることと、そのタイムスケジュール。それプラス簡単なオススメメニューを書いておけばいいんだな……待ってくれ、つまりそれっていうのは俺が自分で聞きに行かなきゃいけなくないか。
クソ、さっそく後悔しそうだぞ。この役職選んだことをさ。
さすがにタイムスケジュールは、まだ練習段階の劇で確定ってことはなさそうだし、オススメメニューから聞いてみるか。
俺はメニューの調理担当班の元へと行ってみようと思い、席を立った。
教室内を見回す。黒板前には配膳と会場担当、後ろには演劇の会場の小物作成とかをしているグループがいる。
……調理班はどこに行ったんだ?
「どうしたんですか? キョロキョロして」
その時に、休憩になった脚本担当の文丸さんとエンカウント。
「いや、その……調理担当とかの班ってどこにいった?」
「たしか、第2家庭科室が借りれたから、試作してみるとかで行ったと思いますよ」
「そ、そうか。ありがと」
「それより、日角さん。やっぱり、劇でませんか? この前の調理実習でみたときから、ポニテの王子役とか似合いそうって思ってるんですけど」
「い、いや、役者は決まってるじゃん……」
「男の主役はじゃんけんで決まったんですよ。それくらいなら推薦のほうがいいなって思いまして……まあ、でも無理強いするつもりもないです。でも、少し考えてもらえたら嬉しいです。主人公さん」
「なんだそれ……」
「前髪が隠れてるけど、実際はイケメンって恋愛ゲームの主人公みたいじゃないですか」
無邪気な笑顔で文丸さんはそう言った。俺は照れてしまって、顔を俯けて教室を出た。耳まで赤くなってる気がする。
「イケメンとかじゃないっつうの……」
自分に言い聞かせるようにそうつぶやきながら、家庭科室へと足を向ける。
家庭科室にたどり着くと、幾つかのクラスがいた。うちのクラスはすぐに見つかったから良かったけど。
「あ、ヒッキー。どしたの?」
代表女子のコミュニケーション能力に長けた稲田が対応してくれた。
「オススメメニューとかって決まってる? チラシ作るのに書きたいんだけど……」
「あー! どうだろ? みんなー――」
会議スタート。「焼きそば?」「それだと個性が……」「オムライスとかも美味しいと思うけど、個性が」等という会話が繰り広げられていく。
料理の個性って一体なんだろうとか思ってしまうが、とりあえずじゃまにならないところで待たせてもらっておく。
しかし、今年は家庭科室こんなに埋まるってことは喫茶系が多いのかもしれないな。
十数分後。
「塩焼きそばになりました」
何故ソース焼きそばじゃなくて、塩焼きそばをチョイスしたのかさっぱりわからない。とりあえずメモ帳に塩焼きそばと書いておく。
「どんなところがオススメ?」
「安い、美味い!」
「…………」
これでどう書けというんだろうか。そんな疑問を持ちながら、俺は教室へと戻った。
「うーん……上の方は劇のこと書きたいし、下の方だよな」
改めてパソコンでレイアウトを考えて、いろいろいじってみたりする。そのうちに時間は過ぎて、結構遅くなっていた。
宿泊での準備は前日しか認められてないし、基本的には宿泊無しでおわすのが好ましいと言われている。
俺はパソコンを教室の指定された位置において、USBにデータだけとって家路についた。
夕飯を食べ終えたリビング。ノートパソコンを開いて俺は作業を続ける。
「うぅん……」
「あれ? お兄ちゃん、どったの?」
春ちゃんとエンカウントした。いつもどおり下着にYシャツで更に風呂あがりときた。
「春ちゃん。兄、相手でももう少し羞恥心持つべきだと思わないか?」
「見せてるんだよ」
「投げるぞ」
「ごめんなさい。で、何してるのー?」
完全にマイペースな奴だよ。
「文化祭の準備。今年はチラシ係になったんだよ」
「おぉ! 去年の会場準備+荷物運びから昇格だね」
「ちょっと違う気がする」
「何するの?」
「去年と同じく演劇喫茶。俺は演劇に関わらないけどな!」
「さすがあたしのお兄ちゃんだぜー!!」
春ちゃんとならこんなに話せるから、俺はコミュ症ではない。そう思っておこう……だから、明日はタイムスケジュールを聞くことに決めた。
「でも、お兄ちゃんが劇に出る姿も見たかったな~」
「見たかったってくる気かよ……」
「だって、第一志望校だしー。お兄ちゃんの髪が短い頃の写真見せたら、紹介してってよく言われるんだよ」
「それ4年以上前の写真だろ!? ていうか、そんなことしてたのか!」
「姉とか兄を自慢する会話になった時にね。ヒッキーだけど外見はいけるから、面食いにオススメって言っておいた」
「なぜだあああ!!」
思わず叫んだ。
「くっそ、最近、周りからそればっか言われる気がする」
「なに、イケメンって? いや、そんな自惚れないか~」
「いや、その通りだ……少なくとも3人に言われた」
文丸さんに北谷に……音原さん。
「ほほう。それは見る目があるね。とはいえ、前髪隠れ君なんて、結構『暗い、気持ち悪い』みたいな評価受けやすいのにね」
「お前、俺のこと嫌いだろ……」
「大好きだよ。これは愛だもん。ま、でもお兄ちゃんに友達ができたようで何より何より、ぬっふっふ~。文化祭でその人達たしかめなくちゃ。そのためにも、チラシ製作がんばだよ!」
「……はいよ」
春ちゃんの攻撃的な応援に改めて気合をいれて、俺はチラシの編集を始めた。
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