レポート20 お悩み相談

 3時のおやつの時間となった。

 俺とスズネは海から上がって町へと戻る。

「つかれたー!!」

 心の底から、そう叫ぶ。

 あの後も目的の真珠は中々ドロップしなく、レベルはもうすぐ40になってしまうというところまで上がっていた。

 スズネも同様である。

 そして、先ほどついに必要数の真珠が揃って海から上がることができたのだ。

「こんなにでないのね……びっくりよ」

「本当にな」

「それで、途中からなんでまたそのサメ被ってるのよ」

「いや、これすごいんだぞ。頭部の防具扱いなんだが、酸素ゲージの減りがかなり遅くなる効果がついてたんだよ」

「私には、覗き見されたイメージしかないのよ」

「その節はごめんなさい」

 改めて謝っておこう。重要だからな。

「まあ、私ももっと気をつけて多くべきだったから仕方ないけどね……今日はつかれたから、素材集めは終わり!」

「そうするか」

 俺はサメの頭を外して、武器なども一旦しまって、背伸びする。

「ん~!!」

「ヒカク。この後も暇?」

「まあ、暇だぞ。どうせ、外なんてゲーセン行く時と学校の時以外はでないからな……そして、今はグリプスとハードを買ったから金欠なんだよ」

 ゲーセンはいけても来月からなんだって話だ。

「そっか。ヒカクは増販組だったわね。じゃあ、ちょっと海が綺麗に見えるところで話さない?」

「……別にいいけど」

 デートじゃないぞ。これはデートじゃない……あ、でも、バレなければデートと思ってもいいんじゃないか?

 俺はそんな煩悩を抱えながらスズネの後をついていった。

 たどり着いた場所は、町の外れにある灯台だった。プレイヤーもあまりいない。

 そこにあったベンチのオブジェクトに座ると、スズネからプライベートモードの認証が飛んで来る。

 これは町中などの敵が現れない場所で使える秘話コマンドだ。メッセージ念話との違いとしては、指定すれば複数人で会話できることである。

 外からは座って景色を眺めてるように見えるが、俺からは普通に口も動いて話して見える。

「綺麗でしょ」

「綺麗だな……海なんて、何年も行ってねえや」

「あんまり私も行かなくなっちゃったな」

「まあ、そういうもんだろ」

 ぶっちゃけ、年取ると家族旅行とかもあんまりしなくなる気がする。俺の勝手な思い込みかもしれないけど。

「……つうか、どうしたんだ。もしかして、未だに俺に見られたことにへこんでるのか?」

「えっ!? そんなことないわよ……突然どうしたの?」

「なんか疲れ気味っていうか、ちょっとへこんでるような表情してるぞ」

「あぁ~……でちゃってたか。ちょっと、リアルであってね」

「うん?」

 こういうのは詳しく聞いていいのかわからないな。とりあえず、前にスズネがいってたような方法で話を広げてみるか?

「なんか学校とかであったのか?」

「……まあ、そうね。文化祭がそろそろなのよ」

「そうか。まあうちもそうだな」

「前に私はいったっけ?」

「言ったような……言ってないような」

 正直、細かい会話の内容を覚えてるのは苦手なんだよな。

「まあ、文化祭があるのよ。それで私、けいおん部に入ってるのね。正規じゃないけど」

「けいおん部に正規も不正規もあるのか……」

 ていうか、どっかで聞いたことあるような話だな。うちの学校のけいおん部もそんなんだっけか。

「だけど、メンバーとか実績もなくてね。今年ライブできなくなっちゃってね。ステージは予定がいっぱいだっていわれて」

「あぁ~……そいつは、辛いな。よくしらんが、発表の場もそこまで多くないだろうし」

「ライブハウスとかでやる分には、できなくはないんだけど……やっぱり、学校の活動だし、学校で発表したかったな~って」

「それで落ち込んでたってわけか」

「まあ、そういうこと……なんか、愚痴っちゃってごめんなさいね」

「いや、構わねえよ」

 それだけ信頼されてるって思うと、存外悪く無い。いや、見知らぬ相手だからこそ話せる内容って取り方もできるか……どっちにしても、話せる相手だと認識されてるならいいか。

「まあ、なんだ。俺は部活入ってねえから、詳しくは知らないけど……来年に向けて頑張るといいんじゃねえか? もしくは次の発表の機会とかでは、正規の部活の出番かっさらってやるくらいの勢いでさ」

「それくらい思えたらいいけど、ちょっと今は難しいかもしれないわ」

「しかたねえことだろ……ここで聞くのもアレだけど、文化祭はクラスの出し物とかはねえのか?」

「一応、あるわよ。そっちはそっちで、まだどうなるかわからないけれどね」

「そうか……リア友とかだったら、見に行ってやろうと思ったんだけどな」

「なにそれ。私の事、そんなに気になるの?」

「むぅ。まあ、ゲームとはいえ、リアルに近いゲーム世界だし。そう考えても考えなくても、俺とっての一番の友だちはお前だし……お前からはどうかしらないけど。だから、心配ぐらいしてもいいだろ」

「…………」

「な、なんだよ」

 何言ってんだ!

 こんなキザ(?)な台詞いうようなにんげんじゃないだろ!

 スズネだってポカーンとした顔になっちゃってるし。

「ふ、ふふっ。女子に友だちって……」

「わ、笑うなよ! いいだろ別に! 大体、体育会系の男子とかのノリ苦手なんだよ!」

「なによそれ……ぷっ。くっさい台詞にも笑いそうだけど、すぐ崩れちゃうのがまた」

「くそっ! 言うんじゃなかった!」

「ごめん、ごめんってば。……ありがとうね。なんか、元気でた」

「……まあ、それはよかったよ」

「とりあえず、今年はクラスのほうで頑張ろうかな! 来場者1位とかそういう集計も発表されるし」

「そいつは楽しそうだな……てか、うちの高校と似てるな。今じゃ普通なのか?」

 俺は中学の頃までは、文化祭で喫茶店とかなんてフィクションのものと思ってた口だからな。

「そうじゃないかしら?」

「そういうもんか。まあ、頑張れよ!」

「もちろん! ……ああ、学校名くらいは後で教えていいか。ちょっと考えてみるわね……というか、もしかするとだし」

「なにがもしかするとなんだ?」

「秘密よ。後は……我儘ついでになんかおまじないとかない? ちょっと、緊張しちゃうこと文化祭でするのよ」

「今日は妙に、いろいろ聞いてくるな。おまじないか……すっごい、恥ずかしい、昔俺がやってたものならあるけど」

「なにそれ、気になるわね」

「心のなかで思うんだ。自分は大丈夫だって。それだけでも、かなりマシになる」

「それだけのこと?」

「それだけのことだよ。正直、緊張はして当たり前のものだし、緊張しないって考えないで緊張しても大丈夫って考えたほうが楽な気がするじゃん」

「……それはそうかもしれないわね」

「スズネは大丈夫! ……って、俺が言っても意味ねえと思うけど、なんか少し大丈夫って思えてこないか?」

「……ぷっ」

「また、笑うのかよ」

「いや、なんか思ってたのと違ったからね……でも、たしかにそんな気がするかも。へへっ、私は大丈夫ってことよね」

「そういうことだ」

 会話の終わりはよくわからないタイミングだった。この後も他愛のない話をして、夜になってログアウトした。

 落ち込んでた顔にも笑顔が戻ってたから、俺は上手く励ましてやれたのかな?


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