レポート19 VSエリアル・シャーク

 昼が早めに食べ終わってしまったため、少し早めにログインしてしまう。

 俺はとりあえず、ひとりで海に飛び込み、貝狩りをしようとしたわけだ。

「やっぱり、すごいな」

 海の中に入って、すぐに俺はそんな感想を口から漏らした。

 だが、なんか少し違う気がする。

 小魚とかはいるんだけど、極端にさっきまでいたモンスターの数が減ってるんだよな。

 貝のゾーンに辿り着く前に、そんな感想を得た俺だった。

 が。

 それは間違っていなかったようで、貝がいる深めの海フィールドの直前で、その原因を理解した。

「くっそ、レアエネミーか」

 このゲームには出現率が低いが倒すと、確実にレアアイテムを何かしら落とす強い敵がいる。

 そいつらの多くは、出現すると周りの敵が逃げ出すように設定されているらしい。

 そして、今俺の目の間にはそれらしき敵がいた。

「《エリアル・シャーク》ね。レベル40ってマジかよ。俺、貝狩りで上がっても、まだ37なんだけど」

 そんな愚痴を聞いてくれるわけもない。

 エリアル・シャークは俺に標的を定めて、噛み付こうとしてくる。

「くっそ!」

 俺は体をひねるようにして、それを回避する。

 盾がないっていうのに、慣れたつもりだったが、貝と違ってスピードが早く行動パターンがわからない。つまり、かなりきつい。

「でも、ひとりでやるしかねえ!」

 ぶっちゃけ、わざわざ相手にしなくてもいいんだが……こんな楽しい奴相手に逃げるのも、嫌だろ!

 俺は真正面から、モールを持って突っ込んだ。


 泥試合……とまではいわないが、かなりやってやられてを繰り返して約20分ほど戦闘が続いている。

 俺のHPは残り半分で、相手のHPは残りヘビーモールの通常攻撃で4発。スキルを使えば2発といったところまで弱らせた。

 問題は俺のこのHPがポーションを使いきったうえでのHPということだ。

「《ブレイク》!!」

 俺は自分のモールを無理やりエリアル・シャークに当てようとするが、外してしまった。

 そして、代わりに腕をひと噛み、HPがさらに減っていく。

「くっそ……」

 海の中だと、敏捷性を考えてもあちらが上だから、どうしてもこちらは受動になりやすい。現に今だって、あたっていた攻撃は攻撃を食らいながらの相打ちみたいなものばかりだったし。

 もう懸けにでるか。HP的に失敗したら、もう倒せる可能性が0になっちまうが。

 考えているうちに、エリアル・シャークは再び噛み付こうとしてくる。

 俺は登録してあるショートカットを意識して、モールを強く握る。そして相手の突進が自分にあたった直後に発動させた。

「《スタン・アタック》!!」

 メイン職業ソルジャーのスキル技のひとつで、攻撃力はさほどない。しかし、名前の通りスタンさせる確率が上がる技だ。

 そして、俺は懸けに勝った!!

 エリアル・シャークは頭に星のエフェクトをだしながら、動きが止まる。

「とどめだ! に連続ブレイクぅ!!」

 俺はこの勝負に勝利し、あるアイテムを手に入れた。


 時間はそろそろ2時。海の入口のなる崖で、俺は手に入れたアイテムを装備してスズネを待った。

「あれ? もういると思ったんだけど……いないわね」

 どうやら気づかれていないようだ。

 でもな、せっかく驚かせようとこれやってるわけだし、あっちに気づいて欲しいんだよな。

 気づいてくれないかなー。

「もう、海入っちゃったのかもしれないわね」

 スズネはそうつぶやくと、海の中へと飛び込んでしまった。

 俺はなるべき体を魚っぽくみせて、顔から海に飛び込んでスズネを追った。

 スズネは一直線にシー・シェルのいるフィールドへと移動して、ストップした。

 俺もそれを追いかけてストップする。

「あれー? いないわね……でも、ログイン状態にはなってるのよね」

 ちなみにだが、プレイヤー名は少し意識しないと見えないため、確認する癖がない場合は装備が変わってると気づかないことが度々あるらしい。

 グリプス掲示板のグリプスあるある3つ目にそういうことが書いてあった。

「い、今なら誰も見てないわよね? せっかくだし、ちょっと着てみましょう」

 スズネはそう言うとアイテムインベントリを開いて、装備を変えた。ちなみに現実で着替えるように買えることもできるが、ゲームなので見てるがわからしたら、突然装備が変わるような方法もある。

 スズネの装備はいつもの金属系鎧から、前にイベントで揃えたという姫騎士防具に変更されたのだ。

 だが、思ったよりも露出が多くて目のやり場に困るな。めちゃくちゃ似合ってるんだけど、褐色肌がむしろギャップ的な感じになる装備なんだけど。

 あと胸が結構強調される装備だなこれ。

 思わず、動揺してしまった。

 これがいけなかったのか、スズネと目があった――俺の現在装備しているサメの頭の被り物の目と。

 知らない人間に見られるのは構わないが、知ってるひとに見られるのはやばかったのだろうか。

「み、見てた?」

 ゲーム内だというのに顔を真っ赤にしながら、こっちにそういう。多分、プレイヤー名を見て気づいたな。

「……シャー!」

 今は顔がサメになってるし、全力で泳いで逃げる。

「もう、まちなさーい!!」

 隠密ミッション失敗だ。


 数分後。

 普段の装備にお互い戻って、海の中にいる。

「もう、いや、忘れて」

「いや、か、かわいかったぞ。お世辞抜きに」

「そういうんじゃないのよ! もう……なんか、あんな子供っぽいところ見られて恥ずかしい」

「いいじゃないかな! 女の子はおしゃれとか好きだろうし」

「そう? そうかしら?」

「そうだよ……大体、好きなもの隠すよりは、どうどうと魅せつけるくらいのほうが、かえって恥ずかしく無いと思うし」

 俺の場合、魅せつけるような相手がいないから、すごい「お前が言うんじゃない」って台詞なんだけどな。

「うぅ……とりあえず、狩りましょう。後一個」

「お、おう」

 気まずいというか、ハラハラとしながら再びシー・シェル狩りをスタートした。

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