レポート18 海中冒険
休みの1日。朝食などを済ませてから、トゥイッターを確認すると、スズネから連絡がきていた。
俺はそれを返してグリプス内で待ち合わせ場所を決めて、そこへと向かう。
「あ、おはよう」
「よう」
いつもどおりの抜群スタイルに褐色肌だ。
「部活はねえのか?」
「今日はお休みというか、実は半分くらい自由参加だから気にしないでいいのよ」
「サークルみたいだな……」
「間違ってないわね……それはいいのよ。今日も素材集めに行くわよ! 今回の場所は、単純に私も興味があるから手伝いなさい!」
「別にそれは構わねえけど、どこにいくんだよ」
俺がそう言うと、スズネがアイテムを取り出して、俺に渡す。それは手のひらサイズの《ワープクリスタル》だ。
「どこに飛ぶんだ?」
このアイテムは、登録してある町にワープができる使い捨てのアイテムだ。30レベルを超えたあたりからNPCショップで買えるようになるから、俺も変えるんだがゲーム世界の探索はあまり進んでいないから、買ってはいなかった。
「海フィールドにいくわよ! 貝系モンスターから真珠をゲットするの」
「つまり、これはかの有名なゲーム内観光スポット《港町・アクアティータ》へのワープクリスタルか」
「正解! 適正レベルは私たちより少し上の38だけど、ふたりがかりでいけば問題無いわ」
「了解したが、海内の戦いに慣れるための時間はくれよ」
「だから休みの今日に行くのよ! まずは、港町へ行くわ!」
一足先にワープクリスタルでスズネは飛んでいった。俺もそれを使用して白いロード空間の後に、潮風を感じれそうな港町に辿り着く。
空は快晴で、視界には帆船が浮かぶ海が見える。
「……すごいな。海の描写がとにかくすごいな」
「サービス開始当時は、処理落ちしてたらしくてこのフィールドだけ数日メンテナンス入ったのよね」
「まあ、デバックしっかりしても、この規模は見逃すもんは見逃しそうだよな……それで、どっから入るんだ?」
「こっちにきて」
「あっ、いや、スズネちょっと!?」
ちょっとテンションが上がっているのだろうか、スズネはお構い無しだけど、手を引っ張られるというか掴まれてしまうと、さすがに照れるのですが。
しばらくされるがままに引っ張られて、辿り着いた場所――のまえに深呼吸。
――よし、落ち着いた。
改めて、周りを見渡すと遠くに港町が見える高所のようだ。
「ここ崖か?」
「そうよ。ここから飛び降りて海に入るの」
「また、なんともアクティビティー満載な入り口だことで」
「船を借りれたりするなら別なんだけど、無料となるとここか、砂浜からかなり時間をかけてってなるわね」
「なら、こっちのほうが良さそうだな」
文化祭終わったら、ゲーム内観光したくなっていた俺だったが、その気持ちはすぐに切り替えてスズネとともに、10m以上の高さはあるだろう崖から海へと飛び込んだ。
ボチャンッ。そんな音を立てながら、海の中に入った俺たち。
高所から水面に落ちると、圧がどうとかいうダメージは一切入っていないが、ゲームでそんなものを入れたらリアル志向でもない限り、批判殺到だろうから考えないでおく。
海の中はかなり綺麗で、透き通っている。小魚達がおよいでいて、ドキュメンタリーでみるような水色の海となっている。
たまにHPバーと名前が見えるモンスターがいるが、襲ってこないかぎりは無視しよう。
「ていうか、ゴーグルもなにもつけないで、しかも普通に喋れるんだな」
俺は海中を泳いでスズネを追いかけながら、そう話しかける。そこで気づく――視界の左側に見覚えのないゲージがでている。それは徐々に減っている。
「まあ、メインストーリークエストでも強制でここにくるようらしいからね。それでゴボゴボ状態でもいやでしょ」
「まあ、それはそうだ……ところで、この左にでてきたゲージはなにかわかるか?」
「酸素ゲージよ。それがなくなると酸欠状態になって、苦しくはならないけどゲーム的にはHPが徐々に減っていくわ」
「深いところに行くと、結構きつくないかそれ」
「酸素補給アイテムか、海底にある気泡がでている場所に接触すると回復するのよ」
「そういうことか」
泳ぎはゲームのアシスト的なもので、問題ないし観光地に行くという旅行減りそうじゃね……いや、実際に行くことに意味があるから、観光好きの人たちは旅行するし、さほど変わらないか。
「あとは、海面が近いなら外に顔を出すことね」
「了解だ。それで、目的地はまだなのか」
「今いる珊瑚の森ってエリアを抜けた先になるから、しばらくは景色楽しみましょう。ほら、サブ
「泳ぎ早いな。さすがにプレイヤースキルも結構影響するんだな」
「それはそうよ。とはいえ、システムアシストで攻略できるレベルにはなってるわ……私、リアルだと泳げないけど、何度かここきた時も戦えたから」
「それはひとりでか」
「悪い!!」
「いや、悪くないけど……俺よりコミュ症ってお前」
「違うのよ! 話題を出すのが苦手なだけなの! 話題を振ってくれれば話は全然できるのよ」
気持ちはわかるけど、話題を振ってもらえる人間って限られるからな。
スズネと海中の景色をたんのうしながら、この後も5分程度泳ぎ続けた。
……あれ、これって海中デートとかそういうのじゃ。いや、ゲームだしリア友じゃないからノーカンだ!
俺はそう言い聞かせた。
しばらくして、結構な深さの海のフィールドにたどり着いた。小魚などもいなくなって、いるのはプレイヤーか敵かという場所だ。
よく見ると崖の下にも海の空間があり、空洞がある。別のフィールドかダンジョンもありそうだ。
けれど、今日の目的はそれじゃない。
「いたわ。あれよ」
一度海面にあがって、酸素を補給してきたスズネが戻ってきて指をさす。
そこにはたしかに貝があった。大きさは遠くて小さく見えるが、多分人ひとりくらいの大きさだろう。
少し近づいてみると《シー・シェル》という名前が出てくる。レベルは38だ。
「行動パターンとかあるか?」
「体から空気だして、体当たりしたりすごい動いてくるわ。宇宙空間でロボットが動くみたいにね」
「たとえがものすごく一部にしか伝わらねえけど、理解した」
とりあえず、一体に攻撃してみる。すると、海中を貝とは思えぬ速度で動き始めた。もはや魚である。
あと、ここで俺は気づいた。
シー・シェルの体当たりを俺は盾で受け止める。だが、足場は海中で、しかも現在は浮いている状態だ。
「踏ん張れねえ!」
ダメージはないものの体のバランスを崩して、吹き飛んでしまう。
「そりゃ、あたりまえじゃない」
「くそっ、盾なしでやるか」
回避のほうが絶対にいい気がする。俺は盾を背中に装着してヘビーモールを両手持ちに変更する。
「おらぁ!! ――」
数分後。
行動パターンは読みやすくて、何体ものシー・シェルを2人で倒した。
だが、
「全ッ然、素材落とさねえ! 貝柱じゃなくて真珠がほしいんだよ!」
「現実でも真珠なんかが希少価値つく理由がわかるってくらいに、ドロップ率が悪いわね」
周りにいるプレイヤーも、悔しそうな顔してるし、ずっとこの辺にいる人が多いのを見ると……でないんだろうな。
「いくつ必要なんだっけか?」
「2つ必要。一個くらいでたかしら?」
「1個はでたな」
「なんでそんなにドロップ率いいのよ!」
普段と考えたら全くでてねえんだぞ。
それにしても、真珠が必要じゃないならモンスター防具揃えられそうだな。でも、貝殻装備になるかもしれないと考えると男用はどんなんだろうな。
「《ブレイク》ホームラン!!」
ちなみに、こんなに話したりしてるが、ずっと戦ってたりする。攻撃パターンは読みきってしまって、思考にも余裕がでて作業ゲーにちかい状態だ。
この作業はリアル時間で昼になるまで続いた。
「一旦、中断しましょう」
「そうだな……じゃあまた、2時頃でいいか?」
「それでいいわ。何かあったらトゥイッターで言うわね」
「了解した」
憔悴した顔でログアウトしたわけだ。
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