レポート17 ユーザーイベント

 家に帰り、風呂でゆったりして夕飯を食べてもちろんログインする。

 グリプス・サーガ・オンラインはそれほどの中毒性があるわけだ……なんて、宣伝をしてみる。

「にしても、今日はなんか妙に人がいないな」

 ホワイトランディに降り立った俺は町の中を少し歩くが、プレイヤーはいるにはいるし、もちろん多いのだが――感覚的に少なく感じてしまう状態だった。

 国民仕事の日でも制定されたのか?

 そんなアリもしないくだらないことを考えながら、町を出ようとしたその時だ。メールが届く。

 スズネからだった。

『今ログインしてるかしら? もし、していたら首都に至急くるべし。面白いことがあるわよ!』

 簡潔なこんなメールだったが、そんな面白いことがあるなんて言われたらゲーム好きの俺はつられてしまうじゃないか。

 俺は最近やっと見つけた、言ったことのある町ならゲーム内マネーで使えるワープ装置を使って首都へとワープした。


 首都にワープすると、今度は逆にいつも以上に人が多い感覚に襲われた。

 俺が初めてプレイしたゲーム入荷日とか公式イベント日でもないのに、なんだろうか。

 とりあえずどこにスズネがいるかもわからないため、メッセージ念話を飛ばしてみる。数コールでスズネはでてくれる。

『あ、こんばんは。今どこにいるの?』

「首都のワープゲートにいるんだが。何があるんだこいつは?」

『えっと、それじゃあ、とりあえず……東門側のポーション屋の前まできてくれるかしら? そこで説明するわ』

「了戒なんだが」

『また、口調でてるわよ。それじゃあね』

 念話がきれた。俺は言われた通りの場所へと移動する。

 ワープゲート近くよりは人が少なく、合流することは簡単だった。どうやらジュジュも一緒にいるらしい。

「あ、きたきた。お疲れ様ね」

「そんなことはない……それで、この人混みはなんなんだ?」

「それは、ジュジュから説明よろしくお願いするわ」

 突然振られて、予想外という反応をジュジュは一瞬したが、ゴホンと間を置くと説明してくれる。

「こ、これは、ユーザーイベント……不定期的に行われたりしてて、今回は……け、結構有名な人が主催になってる」

「ネトゲでよくあるオークションみたいな感じか?」

「ま、間違ってないけど、今回は……アクセサリー製作の大会」

「アクセサリー製作の大会か」

「そ、そう……最近、《装飾師》のサブ職業をとったから、参加したい!」

 今までで一番ハイテンションなジュジュである。しかし、ユーザーイベントか。

「でも、これ俺にとっては面白いことになるのか?」

「何よ。お祭り気分楽しくないの? 私はそれだけでも十分楽しいわよ」

「いや、楽しくないとは言わないけど。まだレベル低いし対抗できるか……」

「そ、それは、大丈夫……レベルによって3部に分かれてて、わ、私が参加したいのは一番下の、スライム部門」

 レベルの高さの象徴モンスターをなぞらえていそうだな。多分、一番上がグリフォン部門かグリプス部門なんだろうな。

「まあ、でもそれだけじゃないのよね」

「う、うん」

「何かあるのか?」

「そ、その、2人に素材集めを手伝って欲しくて……後衛職だから、少し難しいから」

「あぁ~……そういうことか」

「そういうことよ」

 スズネが可愛い笑顔でそういう。つまり、俺が戦闘とかでジュジュの手伝いをするのは楽しいと思うやつと認識されてるってわけだな。まあ……楽しそうと思うけど。

「まあ、時期によるけど。それでいいなら手伝うよ」

「時期?」

「いや、文化祭がもうすぐなんだよな。だから、ちと2週間後くらいってなると忙しくなる」

「だ、大丈夫。エントリーが来週の最期までで……本番は4週間後の土曜日」

「まあ、それなら……どうにかなるか。あ、いやまてよ。本番って、その日に作るってことか?」

「ううん。エントリー期間が終わったら、いつでも……納品可能に、なる」

「まあ、それなら手伝えるか……いいよ。やってやろう」

「ヒカクならそう言うと思ったわ」

「俺に対する謎の信頼は何なんだよ」

「何かしらね。ゲーム内だと結構付き合い長くなってきたからかしら?」

「まあ……そうだな。ゲーム外じゃ、多分ないだろうけど」

「まあ、恐らくそうなるわね」

 なんか最近、おかしい気がするんだよな。まるで俺の何かを知ってるような言い方をする。おそらくってつけなくてもいいだろうに。

「それで、俺たちは何を取ってくればいいんだ?」

「そうね。それは私も聞いていなかったわ」

「それは――」


 * * *


 ジュジュに頼まれたものをとりに、現在ワールドの中でもかなり難易度が高い。具体的に言えば100レベルほどが適正レベルになっている地帯を全力で疾走中だ。

「うわああああ!!!」

「ちょっと、これどうするのよ! 特殊ダンジョンだから、死んだらアイテムてにはいらないわよ!」

「知ってるよ。だから逃げてるんだろ!」

 岩が数多くあるダンジョンの谷を走っている。後ろから――いや空から急降下して、俺達を狙ってくるのは、このゲームの象徴となるグリフォンだ。

「狩猟ゲームだと、卵とか持ち帰るクエストがあるなとか思い出したわ!」

「たしかにそのとおりだが、今はそんな悠長なこと――伏せろ!」

 ジャンプスライディングで、地面に伏せた瞬間、頭上をその巨体が通り過ぎていった。

「しかし、羽一個でこれって、どんだけレベルあげればあいつ倒せるようになるんだよ」

「そうなのよね、羽一枚を巣からちょろっととてきただけでこれなのよね……卵なんて持ち帰ってみようものなら、もっとやばそうよ」

 再び立ち上がって出口に向かって走りだす。

 しかし――それは叶わなかった。

 空から急降下ではなく、口から風のブレスを吐いてきたのだ。そんな行動パターンを知らない俺たちはかわすこともできず、レベル差がありすぎてHPは一瞬でなくなった。

 首都で復活した俺たちは、今一度リストを見直す。

「くそっ、もう少し作戦をねってからだな。別の素材から集めに行こう」

「そうしましょう……とりあえず、ほかはレベル相応の素材だしね」

 ジュジュはアクセサリー製作に使う鉱石を《鉱石夫》持ちのメンバーといっている。イベントを通じて仲良くなれたらしい。

「とりあえず――」

 一日で終わらせる気も終わる気もしてなく、この日に集まったのは全体の5分の1ほどになった。これでも早いほうだろうな。

「そんじゃあ、また明日の夜な」

「そうね……あ、そうだ。ヒカクってSNSとかやってないの?」

「は? ……まあ、一応ゲーム垢なら持ってるけど」

 トゥイッターのRTイベントとかの応募するために使うことが多いだけだが。

「ちょっと、教えて」

「別にいいけど、何にするんだ」

「さすがにリアルのメルアドとかRINE聞くのはあれだなって思ったから」

「そういうことか……まあ、そういうことならいいぜ。ただ平日は学校だからな」

「それは私もよ」

 とりあえずトゥイッターのIDを教えて、お開きとなった。

 ログアウトしてから、スマホを覗くと『スズネ@槌姫』というやつにフォローされていた。

 俺は思わず吹き出して、

「何だ、その名前」

 ひとり部屋の中でそんなつぶやきをした。

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