レポート13 クエスト・カレー制作
グループがクラス全員決まり次第、何を作るか決める。
材料の都合もあって、カレー・ハンバーグ・カツの3種類からいずれかを選ぶわけだが――さっきのやり取りで分かる通りカレーになったわけだ。
「よし、それでは始まるぞ! 僕は米を炊こう!」
「ならば、あたしが食器をスタンバろう!」
「…………ちょっとまってくれないか」
「「どうしたんか角秋くん」」
「その呼び方はやめてもらいたい……というか、カレー作るのによりによってそこに立候補してちゃ家庭科の調理実習の意味ないんじゃないかなって」
「あたしに包丁を持たせる気かな!」
「僕に鍋を任せる気かな!」
これは料理下手な奴だ……とはいえ、俺もレシピがあればできるってレベルぐらいなんだけどさ。
さて、頼みの綱は音原さんだけど――やる気は十分に見えるな。
「米とぎは任せろ!」
「ついでに、野菜も洗うくらいしようぜ……」
「任せろ!」
「ならば、あたしも食器その他と共に野菜を水洗いするよー!!」
とりあえず、仕事を始めたふたりを眺めておこう。俺は何すればいいんかな。
「あ、あの、包丁苦手だから任せていいかしら?」
その笑顔が報酬です。
「ま、まあ、それならやるよ……」
文丸さんと北谷が洗い終えた包丁とまな板、そして野菜をとりあえずレシピに書いてあるとおりの切り方で――
「日角さーん。ちょっと、お待ちを」
「うおっ!?」
視界から外れてる位置から文丸さんに話しかけられて、驚いてしまった。包丁まだ手に持ってなくてよかった。
「な、なにかな……」
「へい、北谷さん! 押さえつけて!」
「任せろ」
「君たちそんなに仲良かったっけ?」
後ろから体をがっちりを掴まれてしまった。
そして文丸さんはどこからか――ヘアピンとヘアゴムを出してきた。
「って、だめ! まって、それは」
「まあまあ、衛生的にやっぱり縛ったりした方がいいですって。前髪もついでに分けたほうが」
「やめ……北谷、力強いな! メガネだったら、普通力は弱めだろ!」
「ふふふっ、これでも趣味はスポーツジムだからな……あと、君が非力すぎる気もするぞ」
「後なんか素がでてますね~。まあ、お覚悟を!」
「嫌だー!」
しばらくお待ち下さい。
数分後、そこには前髪わけられて目がでてしまって、後ろもなんか縛ってる俺が出来上がってた。
「くそっ、こうなったら早くおわせばいいんだろ!」
「その調子だ! 角秋!」
「目を出したらイケメンよりってどこの主人公ですかもう」
誰がイケメンなものか。言われて嫌な気分は全くしなくて、むしろ嬉しいけど!
俺は包丁を装備した。
そして攻撃コマンドの入力を始める。
戦闘終了。後は音原さんに任せるだけだ。
「お疲れ様でーす」
「文丸さん。これまだ外しちゃダメ?」
「えー。だって、そっちの方がいいじゃないですか。可能ならメガネも外してコンタクトにしたいくらいですよ」
「そうだぞ。君はなぜそんなに目を隠したがるんだ!」
「ひ、人と目を合わせるのが苦手だからだよ」
今現在も若干目の横を見て話してるし。
「ぶーぶー。まあいいです。授業が終わったら外してもいいことにしましょう」
「そうだな。授業中はそのままでいこう」
「だから君たちいつからそんなに仲良くなったの?」
「わりと前から仲は良かったぞ」
「……そうだね」
駄目だ。さっぱりノリがわからない。
「ねえ、ルーってこのタイミングで入れていいのかしら?」
「「へい! 日角!」」
だから、なんなんだよそのノリ。絡みにくいよりはありがたいけどさ。
「どんくらい煮込んだ?」
「20分くらい?」
「じゃあ、火止めてルーいれてしばらく放置かな」
「火止めるの?」
「カレールーは火止めたほうがとろみがつくというか、箱の裏に書いてなかったっけ?」
「……本当に書いてあるわね。なんかつけっぱなしで入れるイメージあったわ」
「あはは……」
よし、普通っぽく話せた!
心のガッツポーズを決め込んで、しばらく放置の時間が暇になった。他にカレー作ってるグループもなんとなく暇して別のグループを除いたりしてる。
まあ俺はそんなことせずボーッとしようと思うわけだが。
「うん、やっぱりそっちのほうがいいよ」
「うえっ!?」
「どうしたのよ」
「いや、他の人のところいってると思ってた」
「ちょっと話してはきたけど、鍋は見なくちゃじゃない。そしたらここにいるのは普通よ」
「そ、そうだな……」
近いなー。なんか、お嬢様じゃないんだけど、ちょっとそんな感じの雰囲気があるのはデコちゃんのアニメキャラとかがツンデレが多いイメージがあるせいか。
「顔赤いけど大丈夫?」
「えっ、あ、あぁ~。ほら、今日ちょっと暑いから」
「それはたしかに、もう秋になるのに暑いわよね」
「そうそう。今日は暑い」
話題続かねー。すごい申し訳ない。
文丸さんか北谷戻ってきてくれ。初めてあった時はいったいいちだしテンション上がってたり、緊張が逆に働いたから話せてたけど、話題がないとこうなっちまうんだよ。
心のなかではこんなに話せるのに、口になにも出てきてくれない。
「あ、そういえば。聞こうと思ってたことがあるんだったわ」
「う、うん?」
思い出したかのように音原さんは手をポンッとやる。
「ねえ、日角くんって《グリプス・サーガ・オンライン》やってたりしない?」
「……へっ?」
何でこんな質問をしてきたんだ。と言うかこの場合正直に答えていいものなんだろうか。何故か俺は悩んでしまった。
今更ながらに昼前にこの授業ってどうなんだと思う。事前に昼は用意しないでいいと連絡してほしい……いや、察して用意しなければいいだけの話か。
今日は帰ったら何をするかな。課題は午後の授業ででないならないし……とりあえずはグリプス・サーガ・オンラインをやろう。
それなら――
つまり――
じゃあ――
この席順にどうしてなった。
教室の黒板を前として右後ろに俺なのはいい。それなら右前は北谷にするべきじゃないのか……なんで、音原さんなんだよ。
「次の新聞部の記事はなんの予定だ?」
「それはトップシークレットってやつですよ。北谷さん」
「美味しいわね。失敗しなくてよかった」
とりあえず無言でカレーを食す。食す。食べる。
「美味しい?」
「う、うん。うまいよ……うん」
話を続けろよ、俺。ただでさえさっきの問にも答えてなかったのに。
何か話題を、なにか話題はないか。いや、支離滅裂すぎるだろ!
「よかったわ。料理って普段あんまりしないから」
「そうなんだ。え、えっと」
そうか。ここだ!
「じゃあ、何か普段からやってる趣味とかあるの?」
「うん? まあ、趣味ってなるかはわからないけど。前にも見せた通りギターとかやってて歌うのも好きだから、音楽が趣味かしらね」
「音楽か」
くそっ、アニソンと一部のポップと洋楽(ネットサイトで有名)ぐらいしかしらない。
「日角くんは音楽とか聞く?」
「ま、まあ、それなりには」
ジャンル問わないならだけどな!
ど、どうしよう。
「どんなのきくの」
キラキラした目が恥ずかしさと罪悪感を感じる。
「えっと……あの、カルディア・アークってゲームのサントラを、最近は買ったかな」
マニアックすぎるだろ。これ絶対にダメだよ。グリプス・サーガ・オンラインというVRMMOの知名度と比べたら、隠れた名作というゲームのサントラなんて出しちゃダメだろ。
「へっ!? あなたもカルディア・アークやってるの! すごい、私もやってるけど、初めてみつけたわ」
「お、おう……まあ、一応発売日に買ってやったけど」
予想外の反応が来たぞ。よし、ここから攻めろ俺。頑張れ日角秋!
いいかげんに家庭科の時間でやきもきしてるんじゃないぞ。というかそろそろ片付け時間だし、ここでこれからも話しかけてくれるように持っていけ!
「すごいわね! それにサントラを買うのはセンスがいいわ。あのゲームソフトのBGMを担当している人は、さっきいった《グリプス・サーガ・オンライン》でも多くの曲を担当してたりするのよね」
「そ、そうなのか?」
それはさすがに知らなかった。
「そこのお2人さん、そろそろ片付けましょう」
「そうだぞ。僕が全力で鍋を洗おう」
「あたしが食器を洗いましょう」
「じゃあ私が拭くわ」
「……つまり片付ければいいんだな」
成功か失敗かは分からないがタイムアップとなって、会話は終了した。
うん、帰ったらグリプス・サーガ・オンラインをやってBGMを堪能してみよう。
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