イベントと少年の勇気

レポート11 浮かれ気分

 高校では根暗キャラで通っている俺だ。話しかけられることもあまりない。

 かと言って、友達がいないわけでもないが他のクラスだから、校内で話すことは昼休みとかしかない。

 そんな俺は授業中に今朝の事を考えていた。

(あの子、一体どんな顔だったんだろう)

 妹に毒されたのかしらんが、少し気になってしまう。

 ゲーム内で美少女と会話しているのも原因かもしれない。いや、ていうか褐色肌という現実では出会う確率が、日本では低い人とと絡んでいるのだからな。

 でもゲーム内だと意識しないんだよな。やっぱり無意識の中でゲームだと思っているからか。

 つまりリアルでぶつかってしまった少女のことが気になるなんていうことは、別に何もおかしいことではないということだ。

 ――すごい、なんか恥ずかしくなってきた。

「日角。ここ答えろ」

「……はい」

 さあ、答えるところはどこだ!!

 俺は負けないぞ――


 こってりと説教を受けて放課後になった。

「あぁ……まあ、10分ですんでよかった」

 先生によっては30分ぐらいの人もいるからな――俺は世話になったことはないけど。

 教室に戻って帰ろう。俺はそう思って歩き出す。

 職員室は本校舎2階の端にある。そして俺の教室は2階の反対の端から3番目にある教室で遠い。

 青春に浸っていただけなのになぜここまで説教されねばならない。

 いつもは「高校生なんだから勉強もいいが、少しは青春しろよ! でも赤点は勘弁だ。俺は補講がしたくない!」とか言ってるんだから、1時間窓の外を見ているくらいいいじゃないか。

 心でぐちぐちといいながら教室前に辿り着く。すると中から何故かギターの音が聞こえる。多分、エレキギターとかそのたぐいのやつ。詳しくないから知らないが。

 俺はなかに入るのを躊躇――せずにガラガラと横開きドアをスライド。

「…………」

「…………」

 中にいた少女を目線があいかける。ギリギリずらせたが、無言になってしまった。

「う、うるさくてごめんね?」

「いや、帰るだけだから……」

 最低限言って帰ろう。たとえ中にいた少女がプラチナブロンド濃い目の髪で可愛いデコちゃんだったとしても――うん?

 可愛いデコちゃん。

 俺はそこまできて、自分の席にいったというのに再び少女の方を向いてしまう。

(…………めちゃくちゃ可愛い)

 昔「おでこ広くて気になっちゃうんだよね~」とかいって前髪作りまくっている女子をみたことがあるが、彼女はそんなことはなく、むしろデコが目立つとはいわんがチャームポイントになっている。

 そして、その髪の色がまたいい感じだな。

 ……ってそうじゃなくて、この子、朝ぶつかったことじゃないか?

 聞いていいのだろうか。いや、でもあの時のことはあの時に完結したわけで、こういう時に話しかける話題としては「ネチネチして嫌なやつ」みたいなことになるんじゃないか。

 考えろ俺、机の中に入ってた日本史Bの教科書をカバンに入れながら考えろ。

「あれ? そのメガネ、もしかして今朝の……?」

「えっ……あ、えっと……朝たしかにぶつかったけど、ちゃんと顔見てなくて誰とだかまでは」

 いや、何言ってるんだよ俺。この会話の流れだったら「あ、今朝ぶつかった!!」とかいう少女漫画ベッタベタのやつか「人違いだと思うよ」とかわしていって「いやいや、私は覚えてるし間違えてるわけ無いわ!」みたいな展開に持って行くべきだろう。

 ……馬鹿なこと考えるのはやめよう。どこの主人公だよ。

「同じクラスだったのね……ごめんなさい、知らなかったわ」

 あれ、同じクラスにこんな子いたの!?

 なんで、俺今まで気付かなかったの――自分で交友関係断ってたからだ。

 妹よ、ごめんお兄ちゃんが悪かったわ。

「あ、いや、俺も知らなかったし」

「でも……なんでメガネかけてるの?」

「え、それは……」

「近くで朝みたけど、コンタクトで髪わけるか切ったほうが絶対いいわよ!」

「……えっ?」

 ど、どういうことだ。

「すごい、綺麗な目してるんだから絶対そのほうがいいのに……って、あぁ、名前も覚えてなかったのにズカズカごめんなさい。えっと、音原風凛おとはらふうりよ。ごめんなさい、名前教えて」

「日角秋……お日様の日に直角の角で日角」

「あきは亜種の亜に紀元前の紀?」

「いや、季節の秋の1文字」

 やばい、リアルでの女子との会話(家族とちびっこを除く)が何時ぶりかわからない。

 落ち着け。ドラゴンファンタジーの呪文を1つずつ言っていくんだ。

「日角秋ね……うん、覚えた。私は音楽の音に原っぱの原、風に凛とした立ち振舞とかの凛で音原風凛よ」

 やばい、ものすごいいい子だ。俺に合わせてくれた。

 緊張しまくって、口数増やすために漢字いっただけなのに。後ろの黒板の上にある出席番号名簿見れば漢字一発なのに。

「えっと、今朝はごめんね。夏休みにギター家で使ってて、持ってくるの忘れちゃって急いでたの」

 そう言って、話している間立てかけていたギターを見せてくれる。

「詳しくないからわからないけど……けいおん部?」

「一応ね。まあ、第1けいおん部じゃないから、学校で弾くことは少ないけどね。部活関係者じゃないし、気にしないか」

「ま、まあ、よくはしらないけど……お疲れ様」

「うん、ありがとう」

 そういえば、文化祭も結構近かったな。何故かこのタイミングで思い出した。

「じゃ、じゃあ頑張って」

「もちろん。また明日ね~。あと髪切ったほうがかっこいいわよー!」

「お、おう」

 かっこいいとか初めて言われた。やばい、どうしよう。

 俺は早歩きで教室から昇降口へ向かって、靴に履き替えてそのまま校門をでたころにはスキップしていた。

 どーしよー!!

「どーしよー!!」

 思ったより俺はちょろい気がするけど、いいじゃん!


 家に帰ってからも落ち着かなかった。

 ようやく落ち着いたのは夜にグリプス・サーガ・オンラインにログインした時。

「あぁ……他の人に見られてないといいな」

 スキップってなんだよ、スキップって。

 誰にも伝わらないそんな愚痴を呟いて、今日何するかを考えよう。

 武器はまあNPCショップで買ったり、このレベル帯で集めやすい素材で作れる中ではそれなりのものになった。スキルも順調に取得して行けているし、レベル上げも順調だ。あと8レベルも上がればひとつ上の《メイン職業》になるためのクエストが開放される。

 となると、あととってないものといえば。

「《アバター》と《サブ職業》だな」

 《アバター》は普通のネトゲと同じように防具とは別途に用意されている、おしゃれ装備だ。基本的には防具の見た目を変える役割だがイベントなどの配布か課金が主になる。それこそモンスター防具を作ったほうが、生産性はあるのかもしれない……効率プレイをしてないプレイヤーならな。俺はモンスター防具いいのがあったらほしいし。

 じゃあ、《サブ職業》となれば、まずどこにそのクエストがあるかを探すところから始めるようなんだよな。

「最近は掲示板見てないしな」

 普段は攻略すぐ見ちゃうんだが、なんか人とプレイすることが結構あると、攻略をせずにコミュニケーションとか自分の足で探したほうが楽しいと思うようになった。

 多分、良い傾向だと思う。

「こ、こんばんわ」

「ん? こんばんわ」

 考えこんでたせいで、気付かなかった。ジュジュがログインしました。

「今日はひとり?」

「見ての通りなんだが……ちょっと《サブ職業》でも探すか悩んでてな」

「持ってなかった……の?」

「今のところ0だ」

「そ、そっか」

「ジュジュはなにかとってるのか?」

「りょ、《料理人》と《釣り人》を持ってる。レベルで、2つ装備できるからどっちもつけてるよ」

「ほほう。料理と釣りか……ううん。知り合いと一緒のを取るのも有りだが、今回は別のをとってみたいな。後で場所を教えてもらう楽しみとかあるし」

「そ、そっか……ロックスソルドにも、いくつかあった、はず?」

「マジでか……ちょっと、一緒に探しに行かね?」

「い、いいの?」

「もちろんだ」

「じゃ、じゃあ行く」

 ジュジュがパーティーに加わりました。てれれん!

 さて、とはいったもののロックスソルドは《ソルジャー》の基礎地点的な立ち位置で、鍛冶屋と武器屋、防具屋が目立っている町だ。

 その他は完全にどの町にでもあるような店ばかりで――いや、どの町に言っても鍛冶屋も防具屋もあるんだけどな。

「……うん? なんだ、あのNPC」

「ど、どこ?」

「ほら、あの岩陰の」

 岩の谷の間になっていて、店も何もない場所にNPCがいた。見つけたのは本当に偶然だが、近づいてみる。

『ふんっ、俺を見つけるとは、貴様の目……中々だな』

「なんだこのNPC……」

「見つけにくいところに……いたね」

『もし貴様その気があるなら、俺の《投擲師》の修行を受けてみないか』

 そうNPCが言い終えると、パネルが表示される。

 《クエスト:投擲修行》《種別:サブ職業クエスト》

「どうやら《投擲師》という《サブ職業》らしい」

「え、えっと……たしか、《投擲師》は投擲攻撃の命中率、と。器用差に補正がかかる。スキルは《ブーメラン》だったはず」

「何だそのスキル」

「投擲攻撃した場合に、手元に武器が戻ってくる……ただし、キャッチできるかはPLスキル次第」

「なんだその反射神経スキル……でも、盾投げたまにするしちょうどいいかもしれないか?」

「や、やってみたら?」

「そうだな。せっかくだし、やってみるか」

 俺はクエストを受注した。

『それならば《投擲師》たるもの。その場にあるものをいつでも投げられるようではなくてはいけない! 時には岩を、時には味方に向かってポーションを投擲しなければならない場合もある! 《投擲攻撃のみ》で《ロック・ゴーレム》を3体倒して来い!』

 そして俺はアイテム《鉄球・小》を手に入れる。

「投擲武器なんてあったんだな」

「《アーチャー》で、投げナイフで戦う人……見たこと、ある」

「かっこいいな。まあそうだな……手早くおわしに行くけど、見てるか?」

「み、見てる」

「よしわかった」

 その後、鉄球は使わずに鉄の盾をゴーレムに投げつけてぶっ倒した。次の日に、公式サイトで誰かにスクショされてニュース記事になっていたのは別の話だ。

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